手に汗にぎる人生、送ってますか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:光山ミツロウ(ライティング・ライブ福岡会場)
平凡な人生より、手に汗にぎる人生を送りたい。
この世に生まれてきたからには、誰しも一度はそんなことを考えると思う。
あなたはこれまでの人生において、どれくらいの「手に汗にぎる瞬間」を過ごしてきただろうか?
人が手に汗にぎる瞬間というのは、ドキドキしたり、ハラハラしたり、感情がたかぶっている時といわれている。
意中の異性と視線があったとき。
恋人と初めて二人きりになったとき。
ずっと憧れていたアイドルが目の前に現れたとき。
応援しているチームが白熱した試合をしているとき。
ページをめくる手が止まらなくなるほどのスリリングな小説を読んでいるとき。
人生で予想を超える状況に出くわしたとき、人は手に汗にぎる。
そんな瞬間が生きているうちに何度も繰り返し起こる人生こそ、充実した人生のように思う。
そんな私も、これまでたくさんの手に汗にぎる瞬間を過ごしてきた。
朝、起きたとき。
歯を磨くとき。
朝食を食べるとき。
電車やバスに乗るとき。
仕事をしているとき。
車を運転しているとき。
居酒屋で友人とお酒を飲んでいるとき。
本を読んでいるとき。
家で一人リラックスしているとき
寝ているときetc……。
……って、常にじゃん!
もうオールタイムじゃん!
と思われたそこのあなた。その通りです。私は常に手に汗にぎっている。
そう、手汗がひどいのだ。
今この文章を書いている瞬間も、もちろん手に汗にぎっている。
家で一人、部屋の照明を落とし、スロージャズをBGMに心の底からリラックスして書いているというに、だ。
思えば人生のほとんどを手に汗にぎって過ごしてきた。
私のような手に汗にぎる人生とは、季節にかかわらず手のひらが常に梅雨、何となくベタベタジトジトしていて鬱陶しい、そんな人生である。
故に通常の手がサラっとしている人たちとは違う世界がある。
例えば小学生の頃。
手のひらが梅雨な私は、教室で連絡事項や小テストのプリントが回ってくるたびに心も湿りがちになった。
当時の小学校でプリント用紙といえば少しグレーがかった薄い紙(わら半紙)で、驚くほどに水分を吸収した。私の指がその用紙に触れただけで、拇印をしたかのような汗染みができてしまうほどであった。
常々、兄弟から異常な手汗をからかわれていた私は、手に汗をかくやつ=イケてないやつ=気持ちの悪いやつ=地獄、の図式が頭の中にあった。友人にこの異常な手の発汗がバレてはいけない、それはとても恥ずかしいこと、地獄に落ちること、という強迫観念で頭は満タンになっていた。
それでもプリント用紙は、天国と地獄の判断を下すリトマス試験紙、あるいは教室中の水分を吸ってやるぜ! という吸血鬼のような顔をして回ってくるのであった。
天国に行きたいとはいいません! でも地獄にも絶対に行きたくない!
私は神に祈るような気持ちで、汗染みが出来ないよう用紙を両手の甲で挟む、爪で器用につまむ、下敷きに載せる等してプリント配布の度に見えない敵と孤独に闘っていた。
その甲斐あってか、実際に「うわぁ、なんでここだけ濡れてるの!?」などと言われたことは一度もない。ただ、席替えで好意を寄せていた女の子が真後ろの席になったときは生きた心地がしなかった。当時を思い出すだけで、今も手に汗が滲む(元々滲んではいるのだが)。
中学生になると現実はより厳しいものとなった。
それは体育の授業で女子と手を握らなければならないという拷問のような時間があったからだ。そう、フォークダンスである。今度の相手はプリントではなく血の通った人間、それも異性の手肌。
無論、握れなかった。
女子と、特に自分が好意を抱いていたあの子と、フォークダンスを楽しく爽やかに踊りたかった。
無論、踊れなかった。
その昔『シザーハンズ』という映画があった。
手がハサミなゆえに、愛する人に触れようとすると相手を傷つけてしまう人造人間の孤独な恋を描いた物語だ。
私の場合は『ウェットハンズ』であった。
好きなあの子に触れたい。でも触れられない。
触れるとすぐに手汗の感触は相手に伝わるだろうし、その反応(予想:うぇっ、気持ち悪っ)がダイレクトに返ってくる恐怖は、私の青春を静かに奪った。
手を握らずにフォークダンスを踊るという特殊な技能だけが上達していった。
しかし、手に汗にぎる人生も悪いことばかりではない。
梅雨に晴れ間があるように、手に汗にぎる人生にも時に陽の光は差す。
それは私に初めて恋人と呼べる女性ができた時のことだ。
彼女は異常なほどの乾燥肌で、特に冬になると手がカサカサに荒れる子だった。そんな時、私の手のひらが冬でも梅雨であることを知った彼女は、事あるごとに私の手を握ってくるようになった。「何これすごい潤う!!」という満面の笑顔で。
その笑顔は手汗に対する否定も肯定も、ましてや偏見など一滴もない、ただただ手汗の存在を必要としている人間のカラっとした笑顔だった。あばたもえくぼ、手汗もハンドクリーム。苦節十数年、私の手汗がようやく日の目を見た瞬間であった。
これからも私は手に汗にぎる人生を送っていくと思うし、基本的に手のひらは常に梅雨だと思う。しかし、そこに陽が差す瞬間があることも知っている。
だから言いたい。
プリント用紙と孤独に闘っていた小学生の俺!
特殊フォークダンス技能をみるみる上達させた中学生の俺!
手に汗にぎる人生も悪くないよ、と。
***
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