私は派手な武器を手に入れた!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:福田 乃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なにこれカワイイ!! すごく派手!」
今から3年前のこと。
それがお気に入りのハブラシとの出会いだった。
ハブラシの持ち手の部分と、ブラシの部分の色が、とにかく派手なのだ。
いや、「ド派手」だ。
黄色の持ち手に、青いブラシ。
オレンジ色の持ち手に、黄色いブラシ。
青色の持ち手に、オレンジのブラシ。
例を挙げてみても、ド派手なものしかない。
ビビットカラーで、とにかく目を惹く。
これまで「ハブラシ」と言えば「清潔感のある白いブラシ」というのが定説だ。
スーパーやドラッグストアでは、そういうハブラシしか選んでこなかった。
いや、選ぼうにも、そういうハブラシしか売っていなかったのだ。
「スイス製」
そう表記されたハブラシの名前は、「クラプロックス」という。
なんとも馴染みの無い、言いにくい名前である。
だが、その色彩感覚は、日本人のそれではない。
原色に原色を合わせるような鋭い色彩感覚は、「ハブラシは白」の日本人には思いつかないかもしれない。
だからこそ痛烈な色使いに、まず目を奪われた。
「これね、使ってみたらわかるんだけど……」
知人はやたらともったいぶって、プレゼントしてきた。さらに言葉を続ける。
「これ、1本で1,000円くらいするんだよ……」
え? 普通のハブラシっていくらだっけ?
一瞬頭が真っ白になるような値段だ。
友人はそれだけ言って、ハブラシを差し出してきた。
どんなものか教えてくれたらいいのに、あえて語尾を濁してくる。
表情はニヤニヤとしているのに、それ以上の事を教えてくれない。
だが、そんなことをされると、逆に気になってきてしまうのが、人間の性だ。
「高価で派手なハブラシという以外に、何かあるのか?」と探りたくなる。
そこで初めて、ハブラシ全体をよく見てみた。
「……あれ? ブラシがすごく大きめじゃない?」
そうなのだ。
口に入れるブラシが植わっている部分が、いつも使っていた物よりも一回りは大きい。
「スイス製……あー、欧米人向けね。これは日本人には合わなそうだな」
真っ先にそう感じた。
体格、骨格から考えても、欧米人より日本人の方が小柄だ。
そんな日本人に、こんな大きなハブラシが合うはずがない。
奥の歯まで磨けなさそうな予感しかなかった。
そうなると、先程までの「派手だ」とかの感覚は急に色褪せてきた。
「これは合わない」
そうフィルターのかかった瞬間だった。
だが、「スイス製のハブラシ」なんて、自分で購入するだろうか?
ましてや、1本1,000円近い金額をしている。
そんな「高級ハブラシ」を買ってみる勇気を持てるだろうか? 自腹を切ってまで?
こうなると、好奇心の方が勝った。
「そんな高級ハブラシ、使ってやろうじゃないか!」
欧米人への対抗心かのように、なぜかやる気がふつふつと湧いてきた。
そこで、クラプロックスのハブラシを口に入れてみたのである。
無言のまま、しばらく磨いてみる。
ハブラシの感触を味わってみる。
欧米人向けのブラシが日本人の私に合うのかどうか、試してみる。
約3分後、磨き終わった私は、友人に対してこう言った。
「……なんなのコレ?! すごい!」
そう、口の中に衝撃が走った。
あれだけ「大きいブラシ」とか「派手」とか、いろいろと御託を並べていたのに、磨き終わった直後にそんなことは全て吹き飛んだ。
口の中が「つるつる」している。
あの歯医者さんで歯の掃除をしてもらった後の「つるつる」と同じなのだ。
ここにきて、友人はニヤリとした表情のまま、私に教えてくれた。
「それ、すごいでしょ? だから教えてあげたかったの」
そう、完全に自分の予想も、思い込みも、全てが誤りだったと気付いた。
見た目の派手さに騙された。
色の組み合わせのかわいさに騙された。
ハブラシの大きさに騙された。
値段が高いだけだと侮った。
つまりは、自分でかけたフィルターで、目が曇っていたのだ。
こんなにかわいいのに、なんて破壊力を持つハブラシなんだろう。
ハブラシ一本で、歯磨きをしただけだ。難しいことは何もしていない。
それなのに、こんなに簡単に「つるつる」になるとは……!
口の中のバイ菌達がいとも簡単にいなくなることが、衝撃だった。
私は恐ろしい武器を手に入れたような感覚に陥った。
このハブラシは、バイ菌からしたら、自分達を消し去ってしまうような武器なのだ。
バイ菌達の断末魔の叫びが、口の中で響き渡っているに違いない。
「あの派手な武器はいったい何なんだ?!」
きっとバイ菌達はクラプロックスを見て逃げ惑い、大混乱しているところだろう。
そう考えると、私はなんてものを手に入れてしまったのか、と楽しくなってきた。
友人いわく、「その派手なブラシがバイ菌をかき取るんだってさ」と教えてくれた。
ブラシの毛が密集していることが、バイ菌をうまく絡めとる理由らしい。
毛の量の多さから、値段も1,000円近くしてしまっただけだ。
だが、この「つるつる」にはその値段以上の衝撃と興奮を私に与えてくれた。
それからは、私もクラプロックスのハブラシを愛用している。
3ヶ月ごとの交換のたびに、派手な組み合わせの色使いの中から、自分の好きな色合いを選ぶ。
これは毎日「つるつる」を味わうための武器選びでもある。
私も今では別の友人に、このハブラシをプレゼントする側になった。
「これね、使ってみたらわかるんだけど……」
使った直後のあの驚愕の表情が見たくて、たまらない。
そして友人の口の中で、バイ菌達が悲鳴をあげて逃げ惑う姿を想像するのも、たまらないのである。
***
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