アカペラのライブで主役になれなかった、メインボーカルの話
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記事:mihana(ライティング・ゼミ日曜コース)
「こんなはずじゃなかったのに……」
自分が映っている、アカペラのライブの動画を見た時には、冷や汗が止まらなかった。
もともと、歌を歌うのが好きで、「やりたい!」と思いながらも、「なんか、スカしてる感じがするな」と、手が出せなかったものがある。アカペラだ。
アカペラは、楽器の伴奏を使わず、声だけで表現する歌の様式だ。一般的なアカペラグループは、6名で構成され、各自それぞれ役割を担っている。メインボーカルのリード、ハモりを担当するコーラス、低音域のベース、ドラムのような音を出すボイスパーカッション。すべてのパートが合わさると、まるでバンドの演奏を聞いているかのような迫力がある。
社会人として働き始めてからも、一度はやってみたいという思いを、密かに抱いていた。仕事が落ち着いてきた頃、「今しかない!」と思い、遅咲きながら28歳で、私はアカペラの社会人サークルの門戸を叩いた。
ちょうどサークルでは、夏に実施するライブに向けて、グループを組む時期だったようで、私も運良く混ぜてもらえた。所属することになったのは、男性3名・女性3名、初心者とベテランが、ほどよく入り交じったグループだった。
ライブでは3曲歌うことになり、うち1曲、私はリードとして、メインボーカルを務めることになった。「やっぱり、アカペラをやるなら、主役のリードでしょ」そう思っていたので、やってみたいと自ら進言したのだ。残り2曲は、コーラスを担当することになった。
練習は、主にアカペラ専用のスタジオで行われた。部屋の一面は鏡張りになっていて、天井にはスピーカーが設置されている。マイクに向かって歌うと、室内に自分の声が響き渡る。鏡に映る姿が、まるで歌手みたいで、少し嬉しかった。
カラオケで歌うときには、機械による伴奏で隠れていたものが、アカペラだと露呈してしまう。歌ったものを録音して、後で聞いてみると、全然自分が思ったように歌えていなかった。メンバーに内緒で、ボーカルのトレーニングに通い、1人カラオケでひたすら練習した。当時、アカペラに命を懸けていた。
迎えたライブ本番。私はとても緊張していた。ステージに立つのなんて、小学校の学芸会以来かもしれない。その日のために調達した、自分史上1番おしゃれな服を着た。150㎝しかない身長が、少しでも高く見えるように、10cmヒールの靴を履いた。準備は万端だった。
しかし、緊張しすぎて、舞台袖でスタンバイをしていた時以降の記憶が、全く無い。後日送られてきたライブの動画で、私は、自分がメインボーカルを務めた曲で、盛大に音を外していたことを知った。練習で出来ていたことが、全く出来ておらず、控えめに言って、下手くそだった。私は、主役になれなかったのだ。
ライブからしばらく経って、グループのメンバーと打ち上げを行った時にも、私は失敗を引き摺っていた。「音外しちゃって、すみませんでした……」とみんなに謝ると、ベテランの人がこう言ってくれた。
「全然、大丈夫だよ!そんなこと良くあるし。6人で3曲歌えて、楽しかったね」
急に恥ずかしくなった。私は、自分がメインボーカルであるリードを務めた1曲の出来しか、気にしていなかった。みんなで、3曲歌ったのに、だ。
何か、勘違いしていた。「私がリードの曲は、私が主役だ」と思っていたけれど、ただリードという役割を担っていただけで、別に主役でも何でもない。アカペラは、6人全員で作りあげるものだ。
コーラスのハモり、ベースの低音、ボイスパーカッションのドラムがあってこそ、リードのメロディーが映える。アカペラに大切なのは、リードの歌唱力ではなく、みんなで一つのものを創り出す、チームワークなのかもしれない。
振り返ると、私は本当に、メンバーに恵まれていた。練習を重ねるにつれて、仲良くなり、練習後に、みんなでごはんを食べに行ったりしていた。私は、たわいもない話をする、この時間が大好きだった。アカペラという目的を忘れて、このために集まってるんじゃないかと思ったくらいだ。
アカペラへの挑戦を通じて私は、チームで楽しい時を過ごしながら、みんなで頑張ることの方が、自分が主役であるかどうかより重要だと、改めて気付くことが出来た。
その後、新型コロナウイルスが流行し、残念ながら、アカペラはしばらく出来ていない。「次はコーラスを極めたいな」そんなことを思いながら、私は日々お風呂で、歌のトレーニングを続けている。
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