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終活は春休み前の最後の授業


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:辻恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
昔は今みたいになんでも簡単に手に入らなかった。だから日用品や衣類も大事にする。頂き物の食器なんかも、使わずに箱に入れたまま押し入れの奥にしまっておく。
仕事柄接する高齢者の多くは、そうした思いから部屋を片付けられず、物に溢れた家で人生の終盤を過ごしている。
そして亡くなった後、子どもや親族達がその人に変わって整理し片付ける事になる。時には、遺品整理業者が、物の価値など確かめることなくまとめてトラックに詰め込み処分してしまう。
その人の思いの詰まった大切な品も、他人から見たらガラクタ同然になってしまうのだ。
 
現在の物質社会においては、ほとんどの人が必要以上に物に囲まれ、物に支配されているように感じる。必要な物と思い出の品、そして全く必要のない物、いつなぜ買ったかわからない物まで混在した中で日々生活しているのだ。
100円ショップで何でも買える。ネットで注文すれば、次の日にすぐ届けてくれる。そんな便利な世の中において、物の価値観は昔に比べ薄らいでいるようにも思う。ただ、だからと言って使い捨てにするのも違うと思う。物を大切に使い、生かすことも大事である。
しかし、生活に必要な物といっても人によって様々。ましてや思い出の品というのは全く個人の価値観によるのである。
私も幼稚園の時に使っていたバンビの絵のアルマイトの弁当箱を、50歳になっても捨てられないでいる。
 
ふと家の中を見回すと、私も物で溢れた中で生活していることに気付いた。人生の折り返し地点を迎え、そろそろ身の回りの物の価値を見定める時が来たようだ。
最近では「断捨離」と言われ、家の片付けや整理、物を処分することが取り沙汰されている。特に中高年にとっては、「終活」の一つとして人生の課題になっているようだ。
 
単純に、一年以上袖を通していない服、使い方さえわからなくなった電化製品は処分できた。
学生時代に感銘をうけ、自分の人生に影響を及ぼした「本」は棚で埃をかぶっていた。結婚する前、夫と海で拾った「貝殻」、子どもが赤ん坊の頃使っていたプラスチックの「食器」は思い出箱と名付けた箱に入れ、押し入れの奥に眠らせていた。
その物を手にとれば、その頃の自分の思いが蘇り、自分にとっては大切な品達である。
しかし、私が死んだ後は、誰がその思いを引き継いでくれるだろう。
「本」は埃をはらって、古本屋に置いてもらい、若い誰かの人生を変えてくれるかもしれない。「貝殻」は自宅の花壇において土に返そう。「食器」は……色々考えた末、今は猫が使ってくれている。思い出箱に仕舞い込まれていた物が、今はそれぞれ日の目を見て新たな役割を果たそうとしている。
 
必要な物とそうでない物の仕分け、そして新しく物に役割を持たせ生かすなど、物の整理にはかなりの手間と時間がかかる。
しかし、これは自分以外の人にはできない。なぜなら、その物の価値判断は物の持ち主にしかできないからだ。
 
高齢になってからはでは到底難しい作業である。
物の数が半端ない上に、体力は低下していく。物を捨てるということ自体に抵抗を持つ人も少なくない。長く手元に置けば置くほど、もったいという思いが強くなるという反比例も生じる。どこかで、思い切りを持たねばならないのだ。
物に新たな価値を見出す作業と、ある程度思い切りを必要とする処分の作業は、体力や精神力がまだ少しある、50を過ぎた頃から取り掛かるのが良いのだろう。
 
身の回りの整理は、人生最後の課題なのである。溜め込まれた物の整理は、人生の復習であり、総まとめと言える。老後は、物に溢れた家で、不便な思いをして過ごすのでなく、すっきりと整理された部屋で気持ちよく過ごしたい。
身の回りの大掃除をして、人生を一度リセットさせる。そして穏やかな老後を迎えるための準備ができれば、その後の人生安泰だ。死んだ後、家族に迷惑をかけることもない。
 
それは、学生の頃の春休み前の授業のようだ。
次の学年に上がる前に、宿題を残さず心置きなく春休みを過ごせるよう、全ての科目の復習と総まとめを行なった。その後、全校一斉に大掃除を行い、教室の机やロッカーの物一切合切を自宅に持って帰った。空っぽになった教室にまた新たな新入生がやってくるのだ。
自分は新学年となり、次のステージへ上がる。
 
まさに、自分が築き上げた、自分の価値観に支配された住み慣れた家を、次の世代の子どもたちに継承するように。
 
物の整理だけではない。人生の整理、大掃除は自分の「心のうち」についても行うべきだろう。
人生経験の上に積み上げられた「心のうち」を、どこかのタイミングで俯瞰してみるのも良いのではないか。
人はある一定のところで線を引かないといけない「節目」を迎える。それは、仕事で定年を迎える時期であったり、子どもが独立したタイミングであったり。その「節目」に、身の回りの整理を行うと同時に「心のうち」も整理し自分を改めて見返す。そうすることで、次のステーシにあがる準備を行い、また新たな気持ちで人生を歩めるのではないだろうか。
終活は、その作業を繰り返しながら、少しずつ自分の心の中も身軽にしていくことのようにも思う。
 
春休み前にバタバタと慌てないために、日頃からきちんと予習復習することが大事であるが、それもこれも人生。とにかく終活の作業を少し早めに始めて、気持ちよく春休みを迎えれば、きっと穏やかで楽しい老後が待っていると思う。
 
しかし、バンビのアルマイトの弁当箱は、可愛いのでやっぱり捨てられない。娘にもらってもらえないか交渉しようと思う。
 
 
 
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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