メディアグランプリ

バニーガールと上司の左遷


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:hiraco(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「この食事会でさ、愛人にスカウトされたらどうしよう……」
 
そんなことない! と言ってほしかった私は、他部署のクールな同期に泣きついた。
「笑う」とだけ呟いて、その場を去ろうとする彼女を、バスケで培ったディフェンス力を駆使して引き止め、「お願い。一緒に来て!」と頼み込んだ。
 
「私、同じ部署の人と三人で行くことになってるから無理やな」と、いつも通りの単調な返事に呆気なくディフェンスは破られてしまった。
 
退職者が続出している今の状況を何とかするために、常務が順番に若手社員を食事に誘っていることは知っていたが、みんな二人きりではなかった。
そのうち私も同期と共に、がんこ寿司辺りのお店に行くんだろうと思っていたのだが、「今度、食事でもどうか?」のお誘いメールの宛先は、私の名前だけだった。
 
なんで私だけ二人きり……
自分で言うのも何だが、愛嬌だけはよかったので常務に気に入られている方だった。
「俺が40歳若かったらどうだった?」という、全国のOLが上司にされて困る質問ランキングトップ3には入るような質問を月一ペースでされていた。そのこともあり、自分だけ二人きりで食事に行くことに過剰に反応してしまった。
 
原因不明の体の湿疹が治らなくて……と苦しい嘘で逃げ切ろうか迷ったが、私にも二人の方が好都合な理由もあったので、行くことにした。
「会社が変化しようとしている今なら、革命を起こす絶好のチャンスかも知れない。反撃の狼煙をあげてやる」
 
当日、常務は「今日はこの上に行きます」と、がんこ寿司を通り過ぎ、高層ビルのエレベーターに乗り込み、18階のボタンを押した。
 
え? がんこ寿司じゃないの? 高層ビルの18階?
嗚呼、バージンロードを歩く前に、愛人ロードを歩くかの選択肢が来るとは。などと、クソおもんない親父ギャグを思いつくほど頭が混乱している。
誘いを断れば革命どころか、即ギロチンだろう。綺麗に首が飛びそうだ。
せめて英雄になってから戦死し、歴史に名を刻みたかった。
 
「お席にご案内致します」優しい声色をした女性に目を向けると、時が止まった。
体感では、私の黒目は今、ゴマ粒ほど小さくなっている。
 
網タイツに、黄緑のハイレグ。
耳にはうさ耳、お尻にはフワフワした白い尻尾が付いている。
 
「へっ? バ、バニーガール……?!」
 
そう、私の目の前には、たわわなお胸が溢れそうになっているバニーガールが立っていたのだ。
 
メデューサを見て石化したかのごとく固まる私を見た常務は「たまにはこういうところも面白いかなと思って!」と無邪気に笑った。
ノリのいいアイツなら連れてきても大丈夫だろうという遊び心だったのか。
確かに、他の女子事務だったら石化じゃ済まないかも知れない。
“愛人スカウト説”が消滅した安心感で、なんとか石化が解かれ、黒目の大きさも戻ってきた。
 
しかし、カオスな状況には変わりない。
「会社のNo.2と二人きりでバニーガールのお店に行ったことがあるOL」という肩書を持つ人が、この日本中にどれほど居るだろうか?
とりあえず、革命の狼煙をあげるのは一旦、脇に置いておこう。それどころではない。
 
バニーガールたちは皆、抜群のプロポーションで、目のやり場に困る。
同性の私ですら恥ずかしい程、清々しい破壊力だ。
 
少し時間が経つと、順応してきたのか落ち着いてきた。
むしろ魅了されつつある。
接客は上品で、やらしさは一切ない。それに加え、料理も飲み物も美味しい。
 
「バニーガール×上品な接客×美味しい料理」という一見、同時に成り立たないと思えるこの組み合わせで、こんな素敵空間を作れるのか。
これ考えた人天才じゃね?
もしかしたら、これを人間関係、特に恋愛に応用したらめちゃくちゃモテるのでは?
 
“バニーガール式GAP萌の法則”
 
意外なものを3つくらい掛け合わせて、そのGAPの差が開いているほど面白くて惹かれるという方程式。
ギャル系×御朱印集め×ソロキャンプなんてどうだろう?
清楚系×海釣り×大型バイクでツーリングも萌えそうだ。
 
ちょっと前に石化したとは思えないほどバニーに夢中になっていた私に、常務がようやく「最近、仕事はどうだ?」と切り出した。
 
あ、狼煙忘れてた。革命起こすんだった。
っていうか、こんなお店で真剣な仕事の話をするのは至難の業だ。
どうしたって目が勝手にフワフワ尻尾を追ってしまう。
よし、常務の眼鏡の厚さにだけ焦点を合わせ、外界を断つ作戦でいこう。
 
「何者でもない私が申し上げるのは大変恐れ多いのですが、今の部門長では立ち行かなくなると思うんです」
 
約20年以上続いている働かないと有名なお局様の独裁政治に終止符を打つ為、ありのままの現状を伝えた。
 
伝票発行専用のドットプリンター(ウソ発見器のような針で印字するタイプ)が、突然、今まで聞いたことのない「ギギギャガガガァッ」と狂ったような産声を発し、物凄いスピードで針を動かしながら“大仏”を生み出したエピソードなどをお話しした。
(お局様が仕事中に、趣味のカメラで撮影するために調べていた大仏を誤って印刷した模様)
 
当時、社会人4年目を終えたばかりの私は、この事件をキッカケに、部下にバレずにサボることすら出来ないヘッポコ上司の下で働きたくないと強く思うようになった。
 
常務は「辞めていった君の先輩たちからも同じようなことを言われたよ。これは会社の怠慢のせいで起こった問題だから真摯に向き合う。申し訳なかった。少し時間をくれ」と頭を下げた。
 
拍子抜けする程すんなり革命が成功し、私の上司の左遷が決まった。
 
 
人生初のバニーガールの接客を体験し、戸惑いながらも独裁政治を終わらせる革命に成功した私は、当時の彼氏にこの武勇伝を嬉々として披露した。
 
あれから数日後のホワイトデー。
彼からお返しに「バニーガールのコスプレ」をもらった。
こうして、まさかの私もバニーガールになることが出来たのだった。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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