メディアグランプリ

専門学校に入学したおばさんが、ギャルと友達になって気づいたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:齊藤 ひろこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ぴろりん! ランチいくべ!」
「ぴろぴろ、早くいくべ!」
 
わたしも真似して、いくべ! と言いながら追いかける背中は、20歳と23歳の女の子だ。
 
わたしは38歳で美容専門学校に入学した。
 
自営のネイルサロンのメニューには、まつ毛エクステの施術がある。
数年前にルールが改定され、美容師免許がなければまつ毛の施術ができなくなった。
サロンの売り上げをキープするには、免許を取らざるを得なくなったのだ。
 
わたしは元々、新しい事に飛び込む事に抵抗が無い。なんなら好きな方だ。
 
しかしこの歳で専門学校となると、さすがに勇気がいる。
20も歳が違う、まるで娘や息子といってもおかしくない子達と机を並べるのだ。
いくらサロンにアルバイトに来ている、若いネイリスト達に慣れているとはいえ。
 
あくまでもその間には、雇用主と雇われる側の「立場」という頑丈な柵が立っている。
クラスメートには、その柵自体が存在しないのだ。
どうしよう、ババアって言われて仲間はずれにされちゃったら。
得も言われぬ不安を抱えたまま、スクーリングは始まった。
 
 
いざ蓋を開けてみると、なんてことはなかった。
同じような事情で、資格のために通う30代の大人達が、全体の3割ほどもいたからだ。
 
わたしのクラスはたまたま30代の割合が高く、1週間もすれば自然と大人同士がかたまり、ランチをしたり一緒に帰ったりするようになっていた。
もうこれで大丈夫、やっていけそうだ。心の底からホッとした。
 
 
ある日、掃除当番を終えてひとり帰り支度をしていた。
突然、金髪にショートパンツのギャルが、にこにこ駆け寄ってきた。
確か同じクラスの女の子だったはず。
 
「齊藤さん!うちらこれからチバチャンでバカレモ飲むから一緒に行きませんか!」
 
後ろには、同じようなギャルが2人いた。
 
え、まじか。どうしよう。
チバチャンってだれ? バカレモって?
大人チームのみんなは、すでに帰ってしまったし。
一瞬躊躇したものの、誘われた嬉しさが勝ってしまった。
結局その夜は、ギャル達と2軒の居酒屋をはしごし、アイスを食べ、プリクラをたくさん撮った。
 
 
その日から、ぴろぴろ、ぴろりん、と呼ばれ、20歳と23歳と25歳、そして38歳の4人で行動を共にするようになった。
チバチャンは焼き鳥屋さん、バカレモはバカみたいに大きなジョッキで出てくる、レモンサワーの事だった。
それ以外にもいろんなことを知った。
 
悲しい時は「ぴえん」、彼氏の事は「ピッピ」と言うこと。
可愛い韓国コスメが、すごく安く買えるお店の場所。
スマホで撮影した写真を、なるべく自然な美人みたいに加工するコツ。
 
彼女たちといると、新鮮な知識がみるみる増えていった。
興味の幅も、行動範囲も広がっていった。
 
 
いつものように、学校帰りに4人でファミレスに寄ったとき。
ふと、彼女達はおばさんの自分とつるんでいて、はたして楽しいのだろうか? と頭をよぎった。
わたしには得るものが多いけれど、彼女たちのために自分は何かできているのだろうか。
役に立てているのだろうか。
 
なんとなくここにいる事が申し訳ないような、悪いような気持ちがじんわりと湧き上がり、たまらずに訊いてしまった。
 
「ねぇ、なんでわたしと一緒にいるの?」
 
おばさんだしさ、ナウいこと知らないしさ、とゴニョゴニョ言うと、みんながキョトンとしてこっちを見つめた。
 
「えー、ぴろぴろ、おもしろいじゃん」
 
ヘンな事きくなぁ、と笑いながら20歳のゆうちゃんが言った。
 
「なんかさ、楽しいんだよ」
「そうそう、いちばんふざけてるしね」
 
と、他の子も笑った。
 
 
そうだった。すっかり忘れていた。
友達であることに理由なんて無いという事を。
一緒にいて、心地いい、楽しい、嬉しい。
それで充分だったのだ。
何歳だろうと上も下もない。
相手を大切に想い、認めあえる間柄でいられたら、それでいいのだ。
 
 
わたしは20代そこそこの頃、中年と言われる世代が苦手だった。
昔はよかった、という類の自慢話や、アドバイスという名の説教話を、素直に受け止めることが出来なかったからだ。
 
今は時代が違うじゃん、ダサ。
昔の栄光引きずっちゃって。
だからおじさんおばさんって嫌い。
 
こんなことを強く感じた経験が、彼女達との歳の差を、ネガティブに思った要因だったのかもしれない。
驕ったり偉ぶりたくなんてないけれど。
もしも彼女達がピンチの時には、少し長く生きている友達として、経験や知恵をそっと差し出せる存在を目指そう。
あとはいつもどおりの自分でいればいい。うん、それがいい。
 
今日も4人でプリクラ撮ろうよ!と、揃ってリップを塗り直す姿を眺めながら、心の中で決めた。
 
 
来週、2年ぶりに彼女達と再会する。
無事に美容師免許を習得し晴れて卒業した私たちは、それぞれの目標に向かって進んでいる。
少し大人になった友達と、プリクラを撮って、チバチャンでバカレモを飲む予定だ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事