メディアグランプリ

転勤族はプロトラベラー


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記事:ぬもさん(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「今度は中国に行くことになったよ」
「えっ!また?今度は海外なの?」
「転勤族だから当たり前でしょ。大丈夫、大丈夫!引っ越したら連絡するよ」
 
親友からの電話だった。
彼女曰く、転勤は世界中を旅しているプロトラベラーのような気分らしい。
「プロトラベラー」と聞くと楽しそうだが、安定を求めてしまう私には考えられないライフスタイルだ。
 
彼女は24歳の時に結婚した。勤めていた保育園を辞め、専業主婦としてご主人を支えている。子供にも恵まれ、幸せな家庭を築いていた。
 
しかし、転勤は突然やってくる。
「4月から福島へ行くことになったから遊びに来てよ」
まるで2泊3日の旅行に行くようなテンションで連絡してくる。話を聞いている私の方が、「転勤」という現実にドキドキしてしまったくらいだ。
「子供産まれたばかりなのに大丈夫なの?手伝えることはある?」
「うん……。大丈夫、なんとかなるよ」
子供のことになった瞬間、声色が変わった。やっぱり、彼女も不安な気持ちでいっぱいなのだ。
「やっていけるかな……」
彼女の本音がぽつりとこぼれた。
その瞬間、私は自分の無力さを感じた。自分から「手伝えることはある?」と聞きながら、実際に何もしてあげられていないことに気がついた。
私自身、子供もいないし、結婚もしていない。引っ越しも、実家の近くの賃貸へ住む時くらいしか経験がなかった。こんな私がアドバイスできるわけがなかった。
 
 
それから数ヶ月後、彼女は福島県へ移り住んだ。
引っ越したばかりの頃は、バタバタしていたらしく、連絡は途切れ途切れしかこなかった。
(うまくやっているだろうか)
電話でぽつりと呟いていた彼女の言葉が忘れられず、ずっと気になっていた。
それから1年経った頃、私は福島へ会いに行くことに決めた。
 
「久しぶり!元気だった?馴染めた?子供は大丈夫?」
彼女と久しぶりに再会した途端、ずっと心に溜まっていた問いかけばかりが口走る。
「大丈夫だよ。不便なところはあるけど、いいところだよ」
ニコッと笑った顔を見て、ほっとした。
転勤してからの生活の変化や、子供のことなどたくさんの話を聞いた。どれも転勤しないと体験できないようなことばかりのエピソードだった。
「明日は福島を観光したいんだけど、おすすめのところある?」
そう聞くと、彼女は色々なところを紹介してくれた。
「○○は行ってみて!近くにある喜多方ラーメン屋さんも美味しいよ」
観光ガイドにも載っていないようなところまで紹介してくれる。すっかり福島県民として馴染んでいた。
 
 
「転勤が決まった時、何もしてあげられなくてごめんね」
今回の訪問で一番伝えたかった言葉だ。私自身、本当に何もできず後悔していた。
「ううん、あの時は不安でつい本音が出ちゃったけど、話を聞いてくれただけで心強かったの」
「いつも聞いてくれてありがとう」
彼女から感謝されると思っていなかったので、不意に涙が溢れてしまった。
話を聞くことだけで精一杯だった私だけど、彼女の不安を受け止める器として役に立ててよかった。そう思えた訪問だった。
 
 
それからも彼女は2〜3年おきに転々と各地へ移り住んでいった。
福島、東京、千葉、宮城。そして中国へ。
 
どこへ引っ越しても彼女はいつも楽しそうだった。
転々と移り住むことで、かかりつけの病院がないことや、子供の幼稚園問題など悩みは尽きないそうだが、家族と一緒に過ごせる幸せには勝てないそうだ。
 
そんな彼女から、私はいつも元気とパワーをもらっている。
すぐ会える距離にいるわけではないが、電話やLINEをするだけで不思議とエネルギーを与えてくれる。時々送ってくれる写真には、各地域に住んでこそ撮れるようなものばかりが映し出されている。どこに行っても馴染める、楽しめる姿にいつも感銘を受けてしまう。
自称プロトラベラーはあなどれない。
 
 
先日、彼女から1通のエアメールが届いた。宛先は中国からだった。
封筒を開けると、上海で撮ったらしい家族写真と手紙が入っていた。
コロナ禍での転勤ということもあり、手続きや隔離生活でほとんど身動きが取れなかったそうだ。中国語や子供の幼稚園、日本との生活環境の違いなど、まだまだ大変なことばかりらしい。
それでも、文章の終わりにはこう書かれていた。
「家族みんなで楽しく過ごしています」
彼女らしい言葉だった。
私は、彼女のようなライフスタイルや家族構成も全く違う人生を歩んでいる。けれど、転勤族も案外悪くないのかもしれない。彼女とやりとりをする度にそう思うのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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