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こども達と育てたスイカは、考える前に行動する大切さを教えてくれた

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*この記事は、「実践ライティング特別講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

「実践ライティング特別講座」文章を書く前にするべき7つのこと

記事:レイ咖(実践ライティング特別講座)
 
 
出来るのか、出来ないのか。
何か始める時の基準が、やりたいか、やりたくないかではなく、可能なのか不可能なのか。結論を出すまで考え続けることがクセになっていることに気付いた。
 
保育園の先生になって12年。入園式でこども達と出会って、プールに入って、運動会をして、鬼が来て、巣立っていく。成長を見守り、一緒に遊び、月日を重ねて働いてきた。
こども達と過ごした時間を振り返ると、温かいきもちになる。だが、毎日過ごしている時は、目まぐるしくて、慌ただしい。例えで”息する暇もない”というが、保育園の仕事は、例えではなく、本当にほっと出来る時間がない。子どもと遊びながら、次の活動のことを考え、彼らが寝ている間に書類を書いて、休憩時間に壁に飾る折り紙を折って……毎日追われている。
 
 
こども達は毎日変わる。昨日好きだった鬼ごっこは、もう好きじゃなくなっている。本を静かに読んでいるかと思えば、急に友達とケンカし始める。1日1日こども達は変化している。だけど、保育園で行われることは同じだ。朝来て、遊んで、ごはんを食べて、寝る。
いつしかこの繰り返しに新鮮味を感じられなくなってきた。
毎日同じ時間、保育園に行って、1回入ったら帰る時間までは出られない。保育園の重い鉄の入口をガチャンと閉めるたび、”あー、今からずっと出られないんだ”と閉じ込められた気分になっていた。ぼんやりと”私は、このまま先生をし続けて生きていきたいのか”と考える時間が増えてきた。
 
先生ではない生き方をしてもいいのかもしれない。時間も、仕事内容も、自由に選べたら……期待が膨らむが、現実に戻ると、それって出来るの? どうやって仕事を探すの? どうやって食べていくの? 現実的なことを考えている自分がいた。
先生を辞めて自由になりたい。と思う自分と、無謀なことは止めておいた方がいいと思う自分。
両方を行ったり来たりしていた。
 
何回も考えを往復して、どうして自分は辞める決断が出来ないのか。
こども達と過ごしたことを思い返して、私と子どもとの間には決定的な違いがあると気が付いた。
 
今からほんの少し前の、まぶしい夏の出来事だ。
 
 
暑さでげんなりして食欲も、元気が出ない私の横で、こども達は勢いよく給食を食べていた。
「おかわりください!」
「はーい。何がいいのかな?」と配膳していると、
「せんせー。こぼれちゃった」と助けを呼ぶ声がする。
「あれっ!? お汁こぼれた?」急いで配膳し、台拭きを出して掃除する。こども達は待ってくれない。常に何か事件が起きる。ドタバタした忙しさと、暑さ。夏は本当に体力を奪われる。
 
片付けがひと段落すると、
「でざーとたべてもいいですか?」と子どもが聞いてきた。
「全部食べれたね。どうぞ。おっきいのにするね」
「やったー」みんな同じ大きさだけど、個別に特別感を出すと、こども達は本当に喜ぶ。
「種気を付けてね」
この日のデザートはスイカだった。スイカは大好きなのだが、給食のスイカはイヤだ。後片付けが大変だから困る……。こども達がかじった所から汁がドボドボこぼれて、机や床がベタベタになる。
「わー! たねあった。しろいのもある」と口の周りを真っ赤にしているこども達の横で、掃除することを想像して、げんなりしていた。
 
こども達の半数が食べ終わる頃、私は掃除を始めた。床に散らばったごはんや野菜の端を集め、ベタベタになった机を拭く。掃除しながら、おしゃべりしていて食べ終えていないこどもに
「お野菜食べれる?」と声をかける。皿を片付ける時間が決まっている。早くしないと、間に合わない。こどもの様子と、掃除と、時間と、同時に気にしなければならないことが多すぎる。慌ただしくしていると、
 
「せんせー。ふくろちょうだい」とにこにこしながら子どもが話しかけてきた。
「袋?」念のため聞いてみたが、なぜ袋を欲しがっているのかは、分かっていた。長年保育士をしていると、こども達が言いたいことはほとんど分かる。
「たねいれるの!」私の膝元でじっと待っている。自分の1/3くらいの大きさ。一生懸命見上げようとしている姿は健気だ。
「そっか。おうち持って帰ったら楽しいもんね」
「ちがうよ。あした、ほいくえんのおにわにうめるんだよ」彼女は得意気に種を入れていた。
1人がやりだすと「ぼくも! わたしも!」と大行列が出来た。
「1個ずつね」みんなに袋を配った。
「スイカできたら、先生にちょうだいよ」と笑いかけると
「いいよー!」とあちこちから返事が聞こえた。スイカが欲しいと言いながら、それは絶対無理なことだと思っていた。スイカちょうだいねと言ったのは、私が子どもの夢を守る仕事をしているからだ。小さなポットに種を入れ、芽が出たら植え替えて、虫が来ないようにして……。野菜を育てるのは簡単なことじゃない。ましてや種から育てるなんて、絶対無理。そう思いながらも、彼らの楽しそうな姿に水を差すことは出来ず、見守っていた。
 
次の日。花壇に種をまいた。
「ここすいかあるからね! あかちゃん、さわっちゃだめだよ」小さいクラスの子に説明する姿は真剣だ。穴を掘って、土をかけ、水もあげた。
「いつ出来るかな」と一緒に世話をした。
それから毎日こども達は花壇を見に行っては、水をあげ世話をした。まだでない、まだでない。とさるかに合戦のかにみたいに、ずっと待ち続けていた。
 
1週間くらい経ったある日
「ねー! めがでてる!」雑草なのか、芽なのか分かりづらかったが、種をまいた所に、5本くらい葉っぱが出たいた。
「きてー! すいかでてる」クラスの子に声をかけると、みんなが駆け寄ってきた。
「すごい! すいかだ」
「よかったねー」芽くらいは出るだろう。大歓声の中、私だけが冷静で、素直じゃない自分がちょっとだけイヤになった。
 
芽が出た喜びが、こども達に世話をする勢いを加速させ、花壇に行く回数が増えた。親指ほどの大きさだった芽は、だんだん手の平くらいになって、2枚だった葉が3,4枚と増えていった。芽が大きくなるたびに、こども達は
「おおきくなってる!」と喜ぶ。その姿を見守りながら、実がならなかった現実を目の前にした時、こども達がショックを受けないか心配していた。
私の心配をよそに、こども達にはスイカができないかもしれないという不安は全くなかった。スイカは出来る! と信じている姿はたくましい。
こども達の期待通り、スイカはみるみる成長した。手の平くらいの大きさの芽が、どんどん伸びて、ツルは、花壇の半分を這う長さになった。
 
 
3週間後の朝、いつも通り花壇に行こうとすると、
「すいかだー!」子どもが叫ぶ声がする。行ってみるが、私にはよく見えない。
「ん!? どこ?」とこども達に聞くと
「ここ! 見て」と葉っぱをめくって子どもが見せてくれた。花壇に群がるこども達をかき分けて、覗き込むと、うっすらとしたシマのある本当に小さいピンポン玉くらいの実ができていた。
 
「おー! スイカだ!」子ども以上に大きな声が出ている自分に驚いた。教えてもらわなければ絶対に見落としてしまう大きさだった。小さいながらも黒のシマ模様は間違いなくスイカだ。絶対育たないと思っていたスイカが、目の前にあった。
 
「ねーみせて」と花壇に次々こども達がやってくる。
「みるだけだからね。さわっちゃだめだからね」と育ったスイカを割られないようにする姿は、真剣だ。
「あかちゃんすいかだ!」
「すごーい!」とこども達はツルの下をじーっと覗き込んで、大歓声を上げていた。
「よかったね。本当にスイカになったね。もっと大きくなるかな?」と喜ぶフリをした。心からスイカの成長を信じていたこども達と、一緒に喜ぶ資格は自分にはない気がした。
 
 
大人になると、知識と経験が増える。見通しがもて、大体の予想を立てられる。やってみる前から結末が分かるから、やらないことが多くなる。
こども達は、”種からスイカは育てられないに決まっている”と決めつけなかった。”出来るにきまっている”と信じてやってみた。ワクワクしながら、毎日世話をするこども達を見て、自分は結末を決めつけ、挑戦しなくなっていたと思った。
 
保育園の先生を辞めて、次どうなるか分からないから、辞められない。結果が予測出来ないから、不安で動き出せないんだ。私とこども達の違いは、どうなるか分からないけど、とにかくやってみようと行動していることだ。動き出して、自分が信じる結果になるようやりつづける。こども達は”スイカができる”と信じて、できるように世話をした。私だって、自由に生きたい。と思うなら、なれると信じて、挑戦してみればいい。本当の結果はやってみなければ分からない。
 
「もう先生でいたくない」
たった1人で、はじめて本当のきもちを声に出した。
やるしかない。ときもちが固まった。
 
 
 
***
 
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2021-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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