メディアグランプリ

彼女のことを思い出させてくれたバスボムの店員さん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ぬもさん(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しですか?」
「あっ、退職祝いのプレゼント用に。ギフトセットはありますか?」
 
店内にはバスボムやボディケア関連の商品がずらっと並んでいる。
普段はこのような美容関連のお店に行くことがほとんどないため、どうしたらいいのかわからない。
とりあえず店員さんにお願いすればなんとかプレゼントが買えるのではないかと思って、お店に入ってみたところだ。
 
「プレゼント用でしたら、こちらのバスボムセットが人気です」
「期間限定のクリスマスバージョンと通常バージョンがございます」
案内された商品は、価格も予算内で、可愛さもあった。
これでお願いします……と言おうとしたら思わぬことを聞かれた。
 
「プレゼントされる方はどんな人でしょうか?」
ドキッとしてしまった。プレゼントを買うことが目的になってしまって、相手のことが二の次になっていた。
「えーっと、20代前半の女の子で、今時風な感じです」
パッと出た言葉がこれだった。
もっと他にも彼女を表す言葉があるような気がするが、言葉に詰まってしまった。
今になって、彼女のことあまり知らなかったのかもしれないと後悔の念が押し寄せてきた。
 
 
彼女は高校を卒業して、現在の会社に入社してきた。
最初は事務関係の仕事をしていたが、デザインの仕事がしたいという希望があり、私の部下としてやってきた。
デザイン未経験ということもあり、つきっきりで指導することが多かった。
デザインの仕事は側から見れば華やかに見られがちだが、実際はパソコンに向かって黙々と依頼をこなす地味で大変な作業ばかりだ。
それでも、彼女はとても明るく、受け答えも素直に応じてくれるいい子だった。何より、いつも笑顔なのが印象的で、彼女の一番の魅力だった。
私とは10個も歳が離れていたが、彼女の愛くるしい性格もあって、それなりに先輩後輩関係も好調だった。
 
しかし、年々と事業が拡大していき、仕事量も次第に増えてきた。
ワンマン体質の社長に耐えられず、辞めていく社員も増えた。
いつの間にか人材の入れ替わりが激しくなり、環境の変化が目まぐるしい。
急激な変化に戸惑った社員は大勢いる。彼女もその一人だ。
その頃、私は他の部下の指導を担当していた。そのため、彼女との会話は次第に減り、挨拶しかできない日も度々あった。
気がついた頃には、彼女に笑顔がなく、毎日辛そうに仕事をしていた。
 
「大丈夫?」
「大丈夫です。頑張ります」
いつもなら笑顔でハキハキと笑顔で答えていたが、この時は顔が引き攣っていた。
太陽の方を向いて咲くひまわりのようなイメージだった彼女が、気がつけば頭を下に垂らした状態で、どうにか枯れまいと必死に咲き止まっている状態だった。
どうにか彼女をサポートしなければ……。
そう思っていた矢先に退職願いの届出があった。
 
もっと早く気がついていれば、こんな辛そうな顔をさせなくて済んだのだろうか。
もっと声をかけていれば、彼女の変化に気がついたのではないか。
頭の中でずっとぐるぐるしている。
 
今更考えてもしょうがないことはわかっている。
退職日まであと3日。
最後の日は明るく送り出してあげたいと思い、プレゼントを送ることに決めたのだ。
 
 
 
「若い子へのプレゼントなら、こちらもおすすめです」
店員さんは、バスボムと小さな瓶が入ったセットを見せてくれた。
「この小さな瓶はなんですか?」
「こちらはリップスクラブです。SNSで若い子の間で流行ってるんです」
リップスクラブ? 聞いたことがないワードで頭の上にハテナが大きく浮かんでいる。
「唇の乾燥予防に使うアイテムです。試してみませんか?」
そう言って、店員さんは私の手にリップスクラブをのせてくれた。
ピンク色のジェルが次第に手に馴染んでいく。イチゴの甘い香りがほわ〜んと漂ってくる。
最後にジェルを流すと、手がしっとりと潤っていた。
 
そういえば、彼女の次の転職先は美容関係のSNSを担当すると言っていた。
彼女ならリップスクラブについても知っているかもしれない、興味があるかもしれない。いつもインスタで情報を検索していると言っていたのを思い出した。
このプレゼントはピッタリだと感じ、購入することにした。
「おすすめしていただいた、リップスクラブが入ったセットでお願いします」
「ありがとうございます。きっと喜びますよ」
店員さんの言葉で、喜んでいる彼女の姿が浮かんだ。
 
最後は笑顔の彼女をみたい。
先輩として何もしてあげられなかったかもしれないが、一緒に仕事をしてきた仲間でもある。
約3年間も共に多くの仕事を成し遂げてきた。大変だった仕事も、彼女がいたからできたことも多かった。
これから一緒に仕事をすることはできないが、彼女が進む新しい門出を祝おうではないか。
彼女はまだ20代前半だ。きっと楽しい出来事がこの先待っているに違いない。
 
彼女のことを思いながら、プレゼントを購入できた店員さんにも感謝している。
花束とこのプレゼントを明々後日に彼女に渡そう。
心を込めて。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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