ライターを辞めるにはまだ早い、セールスライティングができなくても
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤本摩理 (ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
私は悩んでいた。作った記事型広告で、さっぱり商品が売れないのだ。
私が作っていたのは記事型L Pというタイプの広告だ。ネットニュースなんかにポツポツ紛れ込んでいる広告の一種で、「人気商品ランキング」だったり「使用体験談」だったり、記事っぽい姿をした広告を指す。
アクセス解析をすると、クリック率は悪くない。私の作った記事型L Pをしっかり最後まで読み、商品ページへジャンプしてくれる人も少なくなかった。――ただ、最後の購入ボタンを押してもらえない。
アクセス解析を続けたところ、「私が書いた記事を読んだ後、同じ商品を紹介した別の記事を読んでそこから購入した」お客さんの存在まで明らかになった。
つまり、おそらく私の記事を読んで「いいな」と思い、別の記事を読んで「こっちの方がお得」と思って買われたということだ。実際のところ、値段は同じなのに。
理由はわかっていた。プッシュが足りないのだ。
真っ赤な太文字でお得感を強調する。今が一番お得だと強調し、今この場で買わなければ損をするのだと猛プッシュする。ページを閉じようとした瞬間にはクーポンのポップアップを表示して引き止める。
私はそんな広告に今までうんざりしていたから、雑誌のような心地いい記事を目指して作った。その結果がこれだった。
「商品のファンを作ってもしょうがない。うちで買ってもらわないと……」
私は商品の製造業社ではない。星の数ほどあるWeb制作会社のひとつで広告作成を担う、入社4ヶ月目のセールスライターだ。商品のファンを増やしたところで、他の業者にお客さんを取られて仕舞えば、やっていることはただの「ボランティア」になってしまう。
セールスライティングをして広告を打つからには自分の記事で買ってもらわなくてはならず、マーケティングにおいては、誠実=買ってもらえるわけではない。当たり前の事実に私は打ちのめされていた。
さらに、担当する商材の多くがダイエットサプリだったり、やたら高額な化粧品だったり、要は「マーケ臭」がものすごいものばかりだった。
「もうちょっとマーケ臭の少ないものというか、知られざる良品みたいな商材ってないんですかね」
私の上司はマーケターだ。愚痴をこぼすと、冷たく一言。
「今売れない商品を売れるようにするのが、僕たちマーケターの仕事。売れていないから相談に来る。藤本さんが言うような商品はまず来ないよ」
上司の言葉が、ぐさりと刺さった。
それもそうだ。私が入社したのは、Web制作会社のマーケティング部。マーケターの仕事は、現在売れていない商品やサービスを売れるようにすることだ。
納得すると同時に、心がボキリと折れる音がした。
「……私、この仕事辞めます。入社4ヶ月で申し訳ないですが、これは私がしたかった仕事じゃない」
上司は唖然とした顔で私を見た。
「じゃあどんな仕事がしたいの?」
私がしたいのは、マーケ臭ぷんぷんの商品を無理やり売りさばくことじゃない。安さを売りにして、人を焦らせて判断力を奪わせる文章を書く仕事じゃない。
セールスライティングは向いていない。やりたくない。私の中で気持ちが煮えたぎっていた。
「人を幸せにする仕事、ファンを作る仕事がしたいです。取材をしてみたい」
「……わかった。ちょっと退職保留にして。1ヶ月待って」
私は辞めるつもりで転職サイトを開いた。またフリーに逆戻りだと思っていたら数週間後、上司が本当に取材の仕事をとってきたものだから、私は辞めるに辞められなくなった。
「マーケティングは人と関わることが本質。今まで見習いだからお客様に直接関わる仕事は任せなかったけど、そこまで言うなら仕方ない。辞める前にこれ、行ってきて」
そうして私の背中を押してくれた。
この取材の仕事が、とんでもない規模だった。相手は従業員数6000人の大企業の重役3名。拒否権は無論ない。オンライン取材でなければ、きっと足はすくみ手も震えて大変なことになったはずだ――でも、この取材がことのほかうまくいった。
後で知ったのだけれど、対企業の取材は相手が大物であればあるほど楽になる傾向がある。立場が上であるほど、話慣れている場合が多いからだ。その上、企業や製品に対する愛情も深いから、話が面白い。
もともと、私は度胸がある方だ。しかも、いわゆる「校長先生の話」が大好き。いつまでもニコニコしながら聴いていられる。しかも私は「初対面ではやたらと印象がいいのに、2回目以降何を話していいか分からなくなって、どんどん印象が悪くなっていく」という困った性格なのだけれど、取材で相手に会うのは基本1回だけ。長所が引き立って、短所が全く出てこない。
取材はまさしく転職で、私はすっかりハマってしまった。
「仕事、辞める?」
「辞めません!」
私は喜んで退職届を取り下げ、取材ライティングの世界に夢中になった。
セールスライティングで悩んで退職を考えた入社4ヶ月目を切り抜け、私は今、インハウスライター(企業所属のライター)になって丸一年を迎えている。
主な仕事はSEOライティング、取材、L P(セールスライティング)の大きく分けて3つ。
ざっくり言えばSEOライティングは集客、取材は企業のイメージを良くするブランディング、記事型L Pは商品を売る広告の目的で作られる。裏にある目的はそれぞれ異なるし、求められている才能も異なる。もちろん、エッセイや小説やブックライティングといった、別の才能が求められるものもある。
もしこのどれかで挫折して、「自分は向いていない」と思っても、「書くを仕事にする」ことを諦める必要はどこにもない。
セールスライティングは向いていないけれど取材は天職。ライターとひと口に言っても、そんなことは平気で起こる。
「藤本さん、この商材の記事L P書いてほしいんだけど……」
「またL Pですか?!」
「嫌なのはわかってるんだけど」と言いつつ、すっかり私の操縦法を身につけた上司が受注金額を耳元でささやく。なかなかな金額な上に、私は取材の件で上司にすっかり頭が上がらなくなっているから、渋々ながら記事を書く。
私自身も変わったし、私がインハウスライターになってからの1年間で広告業界も大きく変わった。薬機法という化粧品や健康食品に関わる法律が改正されたのだ。Web広告の取締りが厳しくなり、マーケ臭ぷんぷんの怪しげな広告や酷いコンプレックス商材は広告審査から弾き飛ばされて姿を消した。おかげさまで以前ほどは嫌悪感なく仕事ができている。
書きたいもの、求められるもの。
揺れ動きながら、私はどうにかライターを諦めずに、今日も記事を書いている。
***
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