手をグーにして写真を撮ることについて
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:飯田裕子(ライティング・ライブ名古屋会場)
「おれ、絶対手をグーにするのはダメだと思う。だって手をギュッと握るのは喧嘩の時じゃない? 怒ってるように見えるのは絶対イヤだよ」
「え? 写真撮る時、手をグーにする決まりなんてあったっけ?」
「うん、あるらしい。俺、やだって言ったんだけどさ。写真屋さんがどうしてもグーにしろってうるさいから、喧嘩しちゃったよ。これ、アメリカの家族も見るんだよ。その時、この手をどう釈明するのよ!」
この男性、実はアメリカ人。この話をしながらも、怒りが込み上げて来るようで、顔を真っ赤にして話している。彼は、ギュッと拳を握って話している。相当怒っている!
ほんとに、手をグーにする決まりなんてあったっけ? 早速ネットで調べてみよう。
すると、どうやら、たいがいの場合、椅子に座ったりして写真を撮る男性が、手をグーにするように勧められるようだ。しかも、どうも日本人は、写真屋さんに手をグーにしろと言われても、疑問は抱かないらしい。質問箱に、一件だけ「グーに握れと言われるのはなぜですか?」というのはあったが、それに異議を唱えたいというわけではなくて、単に疑問に思った、という投稿だった。
それに対する答えは、だいたい
「グーの方が、手をパーで膝に置くよりは見栄えがいいからだ」とか「しっくりくる」「気持ちが引き締まってしっかりした顔で撮れる」「きっちり見える」などだった。社会人研修でも、男性は、しっかりした人に見えるように手を軽く握るようにと指導されていたりする、とも書いてあった。日本語だから、日本人が質問して日本人が質問しているのだと思うが、これらの答えで、みなが納得している!
では、アメリカ人の彼は、なぜそこまでに、手をグーにしたくなかったのだろう? ちょっと考えてみた。
一つ考えられるのは、彼が、家族写真を撮ろうとした時の出来事だった、ということだ。彼は多分、仲睦まじい家族の様子を写真に収めてほしかったのだが、そこで、彼の価値観には合わない「グー」=「喧嘩の時の手」「怒りの手」をしろと言われたものだから、何が何だか分からなくなって、怒ってしまったのだろう。
もう一つ考えたのは、彼は、意志を貫く人間で、郷に入ったら郷に入ろうとはしないんだな、ということだ。意志を貫くのはもちろん大切なことだ。どんな場合も曲げない精神は、尊敬に値する。そんな彼を責めようとは思わない。彼が好きなようにすればいいと思う。(なんなら、写真屋さんも、彼の自由にさせてあげればよかったのに)ただ、社会のルールが違うところ、しかも、その暗黙のルールが「ものすごく」きつくて強い日本に来て、多少も合わせなかったら、きっと、かなり暮らしづらいだろうな、と想像できた。けれど、まあ、こういう生き方があってもいいのだろう。厚切りジェイソンと同じで、日本人にとっての当たり前が当たり前じゃないことを気づかせてくれる、むしろ有難い存在なのだろう。
しかし、ここで疑問に思ったのが、
じゃあ、アメリカ人の家族写真ってどういうのなのか?
これも早速、文明の利器、インターネットで調べてみた。
すると、家族写真は、ごく自然な、穏やかな姿で写っているものがほとんどだった。手はどうだ? だらんと下げていたり、子どもを抱いたりしていて、グーに握っている様子はない。家族全員、ポケットに手を突っ込んでいる、というものもあったし、足を組んでいるようなのもあった。基本的には、少なくとも自然体を装っていて、実にリラックスした雰囲気だ。コンセプトは、仲良しで幸せな家族か。これがアメリカの家族写真なら、アメリカ人の彼が言うことも、もっともな気がしてくる。
ん? でも、一緒に出て来た日本の家族写真だって、負けてはいないぞ。同じように撮影されたごく自然な感じの写真では、それがプロが撮ったものだったとしても、手などグーには握っていない。だいたい子どもを抱いているか、手を自然に伸ばしているかだ。それは、白黒で着物姿だったりする昔の写真でも変わらないようだった。
ただ、日米で違っていたのは、改まってのハレの日に、写真屋さんが撮った集合写真と思われるものだ。結婚式の写真を見ると、海外の写真では、手はだらんと下げるか、見えないようにするか、それか、ポケットに手を突っ込んでいる。日本だったら、お行儀が悪いから、ポケットに手を突っ込んで写真を撮ったりは絶対にしないだろう。私はこの結婚に関心がありません、みたいな意志表示と取られそうだし……。日本の、ひな壇を作っての結婚式の写真は、やっぱり男性は、ほぼ例外なく、足を少し開いて手をグーに握らされて座っている。さては、アメリカ人の彼は、日本人の彼女との結婚式での集合写真で、手をグーにして撮ることを拒否したんだな!
日本での自分の家族写真を思い出してみると、誰かが七五三だとか、60歳の誕生日だとか、何かの記念日に、いい格好をして写真館に行き、撮ってもらった思い出がある。お金を払って記念に撮るから、緊張しまくっていて、不自然でひきつった笑いにもなったりする。あの場で緊張するな、と言う方が無理という感じ!
「歯を出さずにちょっとだけ笑ってー」「そこの方、ちょっと首曲がってますよ」「もうちょっと背を伸ばして」「ちょっと手を握ってもらった方がかっこよく映りますよー」「そこの黄色い着物の女性の方、手は握らずに指を伸ばして重ねてくださいね」
すごく注文が多いと思うけれど、日本の習慣に照らして、その時の家族一人一人の一番いい姿を撮ってくれようとしていたんだろう。男性は、誰もが立派な日本男児に見えるように、女性はしとやかな大和撫子に見えるように。でも、もしかして、日本の特別な日の集合写真の場合、家族の仲の良さや家族の雰囲気を写し出そうとしているというよりは、何か違うものを主体に写そうとしてないか? その時の家族一人一人の様子を写した塩漬けを作っているというか……。あと、アメリカ人に指摘された後だと、やっぱり型にはめすぎていると言う気もしてはきた。
きっと日本の場合、「特別な日に撮る集合写真」という文化があるのかな、と思った。それはそれで、まあ長年撮られ続けているのだし、日本らしい写真として撮っておいて、他にも、スナップ写真のような全体写真も撮ってもらっておけば、日米両方の価値観にも合うし、いい記念になるのかも知れないな。次の家族写真の機会には、趣向の違う2枚をお願いしてみよう。
写真を撮る時の手の置き方でも、こんなにも悩めるのか! アメリカ人の友人がいなかったら、手の形なんて、疑問にさえ思わなかった。文化が違う人と接するのも面白いな。でも、今度会ったら、一見矛盾しているようにも見える、仲良し同士が拳をくっつけ合う仕草の由来と意味も聞いてみようかな。そして、たまには、なんで日本ではそうしているのか考えてみるのも面白いかもよ、と言ってみよう。
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