トイレのトモダチ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中江園加(ライティング・ゼミ12月コース)
小さい頃は一人でトイレに行くのが怖かった。どんなに明るい昼間でもトイレだけはなぜか暗くてなんとなくジメジメしていて、そしてそこだけ空気がひんやりと冷たい気がした。
そんな場所に夜中に一人で行くなんてもってのほかだし、昼間でも怖くてお母さんに付いてきてもらったりしていた。
家のトイレでも怖いくらいだから、小学生になって「トイレの花子さん」なんて怪談話を聞いてしまったらもう大変。どれだけ急を要していても学校のトイレの3番目は絶対に入らないし、「学校の七不思議」のひとつ「校庭の横にある外のトイレ」なんて絶対に行かない。一度怖いと思い始めると、トイレにまつわる怖い話をさらに連鎖で思い出してしまって恐怖が止まらなくなる。
「もし上から人がのぞいていたらどうしよう」
「青い紙と赤い紙どっちがいい? なんて声が聞こえたらどうしよう」
嫌だ、怖い、怖すぎる。
そんな恐怖の妄想に駆られ、学校のトイレに行くことが出来なくなった私は「このままだと健全な学校生活を送れなくなる!」と焦って考えた末にある作戦を思いついた。
「そうだ! 誰かが先に入ったのを見計らってトイレに行けばいいんだ!」
早速私は作戦を決行してみた。休み時間に人がトイレに行くのを見計らって一緒に入ってみる。いかにも自然な感じを装って。トイレは相変わらず不気味な暗さだけど、そこに誰かがいるっていうだけでなんだか心強く、個室もいつもより明るく感じられた。
「よし。作戦成功だ!」そう思ったのも束の間、先に入った子が用を足して先に出てしまう。私は焦った。人がいなくなると急にまたいつもの薄暗いトイレに戻り、いかにも何かいるような気配がしてくる。急に怖くなった私は大慌てで個室を出た。
「これじゃ安心して用が足せないじゃないか!」
こうして初めてのトイレ付いてく作戦は失敗に終わったが、あきらめの悪い私はすぐに次の作戦を思いついた。
題して「トイレ一緒に行こうよ大作戦」だ。
そうだ。何も誰かが入った後をこっそり付いていく必要なんてない。付いていくから先に相手が出てしまうんだ。だったら最初から一緒に行けばいいじゃないか。
そんな簡単な答えにようやく辿り着いた私はクラスメイトの女の子をトイレに誘ってみた。その子は「いいよ!」と簡単に答えてくれ、それから私達は休み時間ごとに一緒にトイレに行く仲になった。言わば「連れション仲間」って奴だ。
その子とは特に仲が良かったわけでもなく、たまたま近くにいたから声をかけたような気がするが、トイレに一緒に行くようになってからトイレで色んな話をするようになって仲良くなった。
いつの間にかトイレはもう暗くて怖い場所ではなくなっていた。
それからは小学校、中学校、と色んな「連れション仲間」がいたが、トイレは内緒の話をするにはもってこいの場所だった。
気になる男の子の話、先生の悪口、誰と誰が付き合っているかもなんていう噂話。
トイレで話をしたり聞いたりしたことはトイレの中だけの秘密だ。
高校生にもなると、ちょっとお洒落な女の子達が中心になって「初めての化粧講座」をトイレの鏡の前で開いてくれたり、他のクラスの女の子達とも「トイレ待ち」の時間で仲良くなったりした。みんなで悩みを打ち明けたり、相談をしたり、トイレはちょっとした社交場になった。
そして大人になった今、トイレは本来の個室の用途を存分に発揮し「ちょっと一人になれる場所。一人でこっそり泣ける場所」になった。
仕事で行き詰った時、悩んでいる時、泣きたい時。煙草を吸わない私は大勢の人がいるフロアをそっと抜け出してトイレに向かう。
鏡の前で手を洗い、自分の顔を見て「まだ大丈夫。がんばれ!」って気合をいれる。
そうしたらなんだかもう少しだけ、がんばれそうな気がするから。
どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、どんなに落ち込んでいる時でも、人前で泣けなくなった私達大人を、トイレがまるで気心の知れたトモダチのように優しく迎えてくれる。
「辛かったね。ちょっとだけ休んでいきなよ」って。
個室に籠って、みんなにバレない様に、ちょっとだけこっそり泣いたら、またいつもみたいに何でもないよって顔してトイレから出よう。そうしたらまた笑えるから。
***
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