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うちの親は嫌いだ! ~いい子からの脱却~


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記事:わこ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「ねぇね。そんなこと言っても何も変わらないでしょ」
そう言って、運転している私の横で、窓に片手を置き、頬杖をつきながら大人ぶって話しているのは、わが甥っ子「はるき」だ。
その頃、まだ彼は小学校3年生だったが話す言葉は、どこか冷めていた。
 
小さなころは、「女の子ですか?」と言われるほど、目が大きく、クリクリっとした愛らしい顔をしていた。
 
絵本が大好きで、特に松谷みよ子さんの「おさじさん」を何度も読んでくれと言っていた。
家族全員に読んでもらうので、中身を全部覚えていた。
あるときページを開こうとすると、モミジのようなかわいい手で、ページを押さえ、大きな瞳からポロポロポロと涙がこぼれ落ちる。
どうやら彼はそのシーンでは、悲しくなるらしく、後のほうでは、読んでほしいと本を持ってきても、そのページにくると「読まないで!」と本を閉じながらまた、ポロポロポロっと涙を流していた。
 
涙したページのことはあまり覚えていないが、1歳半の子が、こんなに感受性が強く、本の中身を理解しているんだなと感心したものだった。
 
おやつの時間、ビスケットを食べている彼に私と姉が「ちょうだい」というと、涙をポロポロこぼしながら「ど~じょ」といって、お皿にあった3枚しかないビスケットを、私と姉に1枚ずつくれた。そんな彼を見ていて「なんてやさしいやつだ! 子供なら嫌がるだろう」そう思ったものだ。
あまりにもかわいそうで、別のおやつを渡したことを覚えている。
 
彼が2歳の時、妹が生まれた。
「お兄ちゃんだから妹を守ってね」と言われ、生まれてくるときには彼女を守る「正義の味方」になっていた。
プラスチックの刀を振り回し、いじめていないのだが抱っこをすると「桃ちゃんをいじめるな!」といって私に刀をふりかざしてくる。
なんていいやつなんだとほくそ笑んだものだ。
 
そんな彼が小学校へ行き始めた頃、他の子と自分の家が違うことをどうやら感じたらしい。
そう、彼の家にはテレビがない。
姉の教育方針で、テレビを見せないためだ。
そのお陰で、彼は本が大好きで、1日5冊読むのは当たり前だった。
 
だが、小学校のお友達は、学校でもテレビの話だ。
挙句の果てには、ゲームの話。
彼はついていけるはずもない。
 
ある年のクリスマス。
「サンタさんに今年は何を頼むの?」と聞く。
「ゲームがしたいから頼んだよ。サンタさん持ってきてくれるかな~」と、嬉しそうに話す。
 
「お~少年よ。その願いはきっと難しいよ」と、心の中で思っていた。
 
姉の教育方針の中にそのようなものは一切ない。
あるのは本だけだ。
 
クリスマス。彼の手元に届いたのは、3番目に書いていた本だった。
どうやらサンタさんへのお願いは、1番目はゲーム機、2番目はテレビ、3番目に本だったらしい。
サンタさんへのお願いは、いつも3つ書きなさいと言われていた。
姉貴はさすがだ。1つだけだと願いは叶えられないことを知っていた。
 
プレゼントを開けてみて、彼の背中は落胆していた。
そんな彼を見かねて、私がドライブに連れていくと「どうして僕が1番に欲しいものはもらえないのかな。うちの親って何を言っても無駄だよね」そうやって話だす。
親がサンタさんだということを知っていながら、子供ながらに、親に気を使っていたようだ。
そりゃもうわかる歳だよなと苦笑いしたものだ。
 
「うちの親は、僕の言うことは何も聞いてくれない。だったら何も言わんほうが悲しくないからいいよね」そういいだした。
あまりにも私は悲しくなった。こんな小さな子供がこんなことを考えているのかと。
 
「あのさ、私も小さなころは、何言ってもじいじから聞いてもらえんかったよ。でもさ、何も言わなければもっとわかんないよね」と私が言う。
「でもさ、言ったからって何も変わらんかったんでしょ。それなら、黙ってるほうが楽じゃん」「僕もう嫌だよ」「うちの親嫌いだ!」と、今まで大声で自分の気持ちを話したことのない彼が、車の中で声を荒げた。
 
あ~ずっとこの子は、我慢してきたんだな。
 
「いいじゃん! 自分の気持ちいいなよ。言ってだめでもいい続けなよ。言わんければ本当のはるきの気持ちは誰もわからんよ」
「だって……」彼はうなずいていた。
 
そういえば、姉貴が言ってたな。
「はるきは、本当にいい子で手がかからない子だよ」って。
 
いやいやそれ違う。
我慢してたんだよね。
お母さんに嫌われないように。
そういえば反抗期なかったよね。
今はたぶん「中間反抗期」くらいの時期だけど、2~3歳頃に最初の反抗期ってなかったよね。
と、私の心の声が漏れそうになった。
 
ある日曜日、姉貴が遊びに来た時に少しご機嫌が斜めだった。
「ちょっと~聞いてよ~」
「うちのかわいい~はるき君が反発してくるのよ」
「あんなにいうこと聞いていたのに!」
 
これを聞いたとき私の心の中では、ガッツポーズをつくっていた。
 
はるきよ!
よく頑張った。いい子は卒業だ!

親からしたら、反抗期は辛いのかもしれないが、「結果はどうあれ自分の気持ちを相手に伝えないままで、ただ我慢をしている人間にだけはなるなよ」ずっと私はそう思っていたのだ。
昔の自分がそうだったから。
 
相変わらず、彼が大学に入学するまで、携帯も持たせてもらえず、他の家とは違う環境ではあったけど、自分の言いたいことはちゃんと伝えられる人間に成長していた。
 
はるきよ。これからも自分の思い通りにならないことはあるけれど、自分の思っていることは伝えられる人となってほしいと、ねぇねは思っているよ。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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