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メディアグランプリ

父の想いがこもった母の手料理


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺諒(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
家が嫌いだ。
 
正しく言えば、家でじっと過ごしているのが苦手だ。
学生時代にはスケジュールをびっしり入れてなるべく家にいることがないようにしていた。週末のアルバイトは家から出られる上にお金までもらえて、その上、休日賃金なんていいことづくしだと思っていたくらいだ。
生まれてから24年間ずっと実家暮らしで、大学にも往復3時間かけて4年間通っていたので、寝るとき以外くらいは別の場所で過ごしたいと思っていた気持ちが爆発していたのだ。
 
だからこそ、1週間の自宅待機が決まり、自宅から全く出ることが許されなくなったときはまさに監獄の中に入れられたような気分だった。
 
「せめて漫画を、漫画をまとめて借りに行く時間をください……」と思ったが、そんな願いも叶わず、1週間の監獄生活が幕を開けた。
 
お正月の三が日でさえアルバイトのシフトを入れていた自分にとって1週間も自宅にいることになったのは、記憶を遡っても高校受験が終わって塾から解放された中学3年生の頃以来ないのではないかと思う。
 
けれども始まってみれば意外と充実した1週間だった。いつもは後回しにしていることでも思い切って取り組める期間になったのだ。
 
例えば、録画番組や映画のシリーズの一気見。1週間待機することになったとはいえ、身体はいたって健康なのでいくら見ても疲れないのだ。
結局、昨年撮り貯めた大河ドラマ「青天を衝け」を20話、マーベル映画を時系列に見始めるという贅沢なことを楽しめた。
 
さらに、挑戦してみた中でも特によかったのが「料理」である。
これまでの人生で、「実家だと時間になってくるとご飯が出てくるから幸せだよね」という一人暮らしの友人が羨むような恩恵を受けて育った僕は、ラーメン、焼きそば、玉子焼き以外の料理にほとんど手を出してこなかった。
 
だけど4月からは念願の1人暮らし。憧れの自炊男子になるためにも、この機にクックパッドを見ながらまずは「親子丼」にチャレンジしてみることに決めたのである。
 
やってみると意外に簡単。そして何より楽しかった。具在は玉ねぎと鶏肉とえのきと卵。シンプルで大抵は家にそろっているもので作れるのを選んだのがいい方向に転んだようだ。
 
1回目は自分用に作り、2日目は母の分も一緒に作ってみた。
「美味しいね」と言ってもらえて簡単に調子にのり、3日目はスープとパスタを作ってみた。またまた「美味しい」と言ってもらえたことも嬉しかったし、何よりいつも忙しそうに動いている母がゆっくり休憩をとれている様子だったのことも嬉しかった。
 
ところが、3日間も続けて台所に立つと、何か違和感に気が付く。
自宅での料理の経験は全然なかったとは言ったが、アルバイト先では厨房に立つ機会が何度もあったので包丁で野菜を切るのもそれほど苦戦はしない。ただ、調理を追えると若干腰か背中が痛む気がしたのだ。これはアルバイト先では全く起きなかった身体からのサインだった。
 
4日目にしてその違和感の正体に気が付く。野菜を切る時やお肉を切る時にやけに猫背になって切ってしまっていたのだ。単純に自分の姿勢が悪いだけなのかと思って背筋を伸ばしてみるとまな板に置いた食材から自分の目までの距離が異様に長く感じた。そして気が付いた。
 
我が家のキッチン台は普通に比べてかなり低いのだ。
 
おそらく十何センチくらい低くなっているのかもしれない。20年間以上過ごしてきた自宅なのに全く気が付かなかった。
 
そういえば以前、父がこの家に引っ越してきたときのことを話していた。
 
「このキッチン台はお母さんのために作られたんだ」
 
それを聞いた時は「何を当たり前のことをいっているんだ」と気にも留めなかったのだが、今になってその言葉の真意が理解できた。
 
母は他のママ友たちと比べてもかなり身長が低い方だったのだ。
おそらく140センチに届くかどうかくらいだったはずだ。
 
そう、このキッチン台は背が低い母でも安全に自由に調理ができるように設計されたオーダーメイドの設備だったのである。キッチン台だけではない、シンクの高さもガスコンロの代の高さまで全部同じだ。急いで洗面所までいってみるとそこも同じ。なんと我が家の家具の高さは全体的に低く設定されていたり、意図的に低いものが選ばれていたりするようなのである。
 
ずっと母の手料理で育ってきたと思って生きてきた考え方がひっくり返されたような気持ちになった。僕は父の思いの込められたキッチンで作られた母の手料理で育ってきていたのだ。
自分が料理をするようになったことよりもそのことに気づいたことによっぽど感動していた。
 
後日、友人の新居に遊びに行った時にもついついキッチンに目が向いてしまって、スペースがとても広いことに気が付いた。そのことを伝えると、旦那さんからこんなコメントをもらった。
「やっぱり今後一番長くそこに立つのは嫁さんだからね。一番こだわってオーダーしたよ」
 
家とはただの建物ではなかったのだ。家族の思い出や思いやりのこもった大切な宝箱のようなものであったのだ。
将来お嫁さんをもらうことになったときには、思いやりをいっぱいに詰め込んだ過程を育みたいなと心から感じた。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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