メディアグランプリ

難聴者として産まれてよかったと思う私のささやかな強がり


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記事:山本麻代(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
遺伝性難病による先天性重度感音性難聴を背負って生まれた私。小学生時代に受けた言語訓練により、聴者(聴こえる人)並みの発音を身につけ、補聴器が髪の毛に隠れていると、ぱっと見、障害者とは分からないほど。
親の教育方針により、地域の学校に通い、聴こえる世界で、聴こえる人のように生きてきた聴こえない人……難聴者というと、「手話を使う」「発音がおかしい」など、テレビドラマの影響もあり、すぐ気が付くイメージもあるかもしれない。
しかし難聴のレベルも軽度から重度までと幅広く、中には片耳難聴者もいるため、聴こえる世界で、聴こえる人のように生きている難聴者は多い。日本の難聴者人口は1000万人以上とも言われており、ざっと、本当にざっと計算したところ、約12人に1人が難聴者ということになるのであろう。そう考えるとあなたの隣の人も実は難聴者かもしれない。
 
難聴に限らず、健常者に最適化された社会の中で、障害者として生きていくと、苦労話はこれでもか、これでもかと語ることができる。多くの人も「障害者=大変、困難を乗り越えて」と想像するのではないだろうか。
旬の苦労話はコロナ禍によるマスク社会であろうか。私たち難聴者は口の動きを見て、表情、顔の動きなどを見て、フィーリングで会話を想定してコミュニケーションを図るため、マスクで口はもちろん、顔の大半が見えなくなることは、ただただため息つくしかない。このご時世、マスクの必要性も分かっているつもりなので、ため息は口中に納めて、毎日のように、初対面の方に「私、聴こえないので」と自己紹介から始まり、マスクをずらして口の動きを見せてもらうか、筆談をお願いしている。1回こっきりかもしれないこの場面で、聴者並みの発音で「実は聴こえなくて……」と話している自分が滑稽にすら思えることもある。
 
反対に、難聴者でよかったワ、と思うこともある。と言うと、聴者はどんなことを想像するだろう。人の優しさに触れることができた? イヤな言葉を聞かなくて済む? 直接的に言葉として聴こえていなくても、表情からダダ漏れですが……
 
私が難聴者でよかったと思う場面、それはその人の人間性がよく見えることである。
 
私が初めてそう感じたのは、小学生時代の担任の先生を見て、である。兄弟の担任でもあった先生はとても頼もしいという感じで、親も信頼していた。私がいるクラスの担任となった時はとても嬉しかったことを覚えていて、親も「あの先生なら大丈夫。安心だわ」そう思っていた。ところが蓋を開けてみたら、兄弟に対する態度と私に対する態度があまりにも違いすぎて、明らかに鬱陶しい対応だった。子供心に「え?同じ人だよね?」と面食らったものだ。それは親も気付いたようで、卒業後、「あの先生、差別がすごくて、実は嫌だった」そう話したら、「うん、あんなにも態度が違うとは思わなかった。兄弟はえこひいきされていただけだったのね」そう言う親の言葉に、自分が被害妄想を抱いているわけではないと分かって、ホッとしたものだった。
 
世の中は、いい人、が圧倒的に多い。けれども中には露骨に嫌な顔を向けてくる人もいる。聴こえないと分かると、先ほどまでの笑顔はどこぞ、「厄介なものに当たった」と言わんばかりに瞬間、眉をひそめたり、どうした宇宙人にでも出くわしたかと思うほど顔を強張らせたり、「あ、もう結構です」と愛想笑いしてその場から立ち去ったり……
その度に私という存在そのものを否定されたかのような気持ちになってきた。聴者と難聴者の隔たりはベルリンの壁の数十センチより厚いのか。
 
もちろん中には障害者に慣れていなくて、どうしたらいいのか分からず、固まってしまう人もいる。そういう時はこちらからお願いしたいことを話すと、ソワソワしつつもきちんと接して下さる。
 
それでも極まれに遭遇する、私にとって理不尽な出来事に傷つく一方だった。極まれなだけに、うら若き乙女の脳天にドスンと突き刺さるのである。結構痛いのよ。
そこで「痛いの痛いの、飛んでいけ~」的に、「そういう人と分かってよかった、よかった」と自分におまじないをかけるのである。
 
障害を差別したり、偏見の目で見てはいけない、という模範的なことを言うつもりはない。
人の数だけ価値観があるし、私のように傷つく人もいれば、なんとも思わない人もいるであろう。
 
人には合う、合わないがある。私としてはできるだけ裏表のない関わり方で生きていきたいので、自分の障害のおかげで、その人の人間性がよく見えるのはある意味、とても便利なアンテナにもなる。それは難聴者として産まれたことの恩恵だなぁ……と思うのは、私のささやかな強がりだと思うし、かわいい強がりだなと我ながら思う。
その強がりとともに、今日も「耳が聴こえません」シールを貼ったマスクをして外出するのだ。
 
 
 
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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