コロナ禍で2匹の猫と暮らし始めてわかったこと
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記事:西條みね子(ライティング・ゼミ2月コース)
コロナ禍をきっかけに、郊外に引っ越して2匹の猫と暮らし始めた。
「いつか猫を飼う」と心に決めていたが、ひとり暮らしで出かけがちの生活ではなかなか手を出せなかった。コロナ禍で在宅勤務になったのを良いことに、これ幸い、と念願の猫との暮らしをスタートさせたのである。
猫と暮らし始めてわかったことがある。
猫は、しゃべるのだ。
ここで
「出たよ……。猫が『ゴハ~ン』とか言ってるとか言う、飼い主にしか聞こえない例のアレね。はいはいはい」
と思われた方は、ちょっと待ってほしい。
日本語を話すのではない。しゃべるのである。
それがわかったのは、平日5日間は24時間べったりの、猫との密な暮らしが始まってからだった。
もともと私は、猫には免疫があった。子供の頃から実家で猫を飼っており、猫の扱いはそれなりに心得ているつもりだった。
しかし、私は気づいていなかったのである。実家の猫が子猫だった時代は私が子供の頃であり、記憶にある猫は一代目も二代目もおばあちゃん猫だったということに……。
保護団体から引き取ったのは、生まれて2ヶ月の子猫とそのお母さん猫の2匹だ。団体の人によると、お母さんと言っても、昨年生まれのまだ1歳くらいだろう、と言う。
この2匹が、恐ろしいまでにコミュニケーションを求めて来ることに気づくのに時間はかからなかった。
まずは夕方の「遊んで」攻撃だ。お昼は爆睡している猫たちだが、18時頃になるとパチリと目を覚ます。伸びをしながら寝床から出てくると、仕事をしている私の横に座り、
「ングルッ」
と喉をならす。「起きたよ!」と言っているのだ。
こうなるともうダメだ。腹ごしらえをしてからは、
「ウニャーンウニャーン」
と「遊んでくれ」を主張し、私は猫じゃらしをパタパタしながら仕事をする羽目になる。私と夕方に打ち合わせをすると、かなりの高確率で猫がないている、と同僚たちに認識されるまでにそれほど時間はかからなかった。
遊びも、中途半端なやつではダメなのである。テレビやスマホを見ながらおもちゃを振っていると、時々手が止まることがある。
「ンクルン」
と喉をならし「動かん」とモノ申されるので、慌てて居住まいを正し、振りに戻らせて頂く。
突如、
「ウニャアアアアアアアン」
と、おたけびをあげることもしばしばだ。
お腹もいっぱい、眠りも足りており、遊びにも飽き、ただただ「なんとなくつまらん」とのご主張なのだ。「どうしたどうした」と、なでなでやおもちゃで所在なさをお慰めするのは私の役目である。
目が合えば
「ウニャ!」
とごはんを要求し、片方の猫にごはんをやっていると寝ていたもう一匹が
「ブーニャーブーニャー」
と起きてきて「わーたーしーもー」と主張する。
「アオン」
とこちらの気を引きながら、トイレや台所など私の行く所はどこにでもついてくる。片付けをしていたらうっかりクローゼットに閉じ込めてしまい、当然、
「ンナーーーオ」
とご立腹になる。
猫というのがこんなにも感情豊かで、よくしゃべり、甘えん坊な生き物だったとは……。24時間中20時間は寝ており、気まぐれになでまわすのが猫との付き合い方だと思っていた私には衝撃だった。
これは、大変なかまってちゃんである。しかも2匹だ。
夕方、遊べ遊べと猫に背中をど突かれながら仕事をするのに限界を感じ、「ねこのきもち」の初回付録でもらった「電動猫じゃらし」のスイッチを押す姿は、さながら、夕飯の支度をする傍らで騒ぐ幼児に必殺Youtubeを与えるお母さんのようだった。子育てか。これは子育てなのか。
実際、子育てであった。
おそらく、言葉を話し出す直前の、1歳前後の赤ちゃんとのコミュニケーションに近いのでは、と思う。
姉の子供の、私には姪にあたる女の子が1歳になる頃、「まだ言葉を話せない、けれどこちらの言うことはある程度わかっており、彼女がわかっているということをこちらもわかっている」という不思議な感覚を経験した。言葉を話せぬ彼女の仕草のみを見て、「そうねーごはんねー」などと話しかけながら、なんだか、猫とのコミュニケーションに似てるなぁ、と思ったことを思い出した。
言葉ではない、しかし確かに通じており、コミュニケーションは成り立っているのである。
子育てと言うには、赤ちゃんと猫では天と地ほどの差があり、赤ちゃんの方が100倍大変だろう。一緒くたにしたら世の中のお母さんに怒られそうだ。
が、赤ちゃんは20年で大人になるが、猫はずっと、言葉を話さぬ1歳児だ。
ごはんと寝床と清潔なトイレがあればそれで良い訳ではなく、「ウニャアアアアア」や「ブニャーブニャー」から、甘えたい気持ちやさみしい気持ち、すねた気持ちから所在なさまで、意外に複雑な喜怒哀楽を読み取ってやらなければならない。
年を取ると活発さが減るので、より意思表示がわかりづらくなるのだろう。けれど、寝てばかりいるからと言って、何も考えていないわけではないのだ。感情豊かで、要求も要望もしこたま持っており、かまって欲しいのが猫なのだ。少なくとも、うちの猫は。
「ングルニャ」で「はいはい」と喉をなでる、まさに「おい」で「はいはい」とお茶を出す、おじいさんとおばあさんのような関係に、私たちはきっとなるのである。
***
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