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手を挙げたのは、あてにならない息子を持つ親達だったけれど


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記事:Seiko(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
息子が高校を卒業した。
これが最後の制服姿か。
そう思いながら息子の後ろ姿を眺め、無事にここまで大きくなったことに感謝が込み上げる。
これで私も息子と一緒に卒業だ。
 
息子が高校生になってから三年間、私はPTAの活動に参加し続けてきた。
思えば三年前、右を見ても左を見ても知らない人ばかりだった。
まずい。これは。誰も知り合いがいない。
このままでは無事に三年間を乗り切れるかわからない。
入学式から暫くして、新入生保護者会があり、私は再び学校の門をくぐった。
保護者会では、きっとPTA関係の委員を決める。
これをやるしかないかな。
息子と二人、無事に高校生活を生き延びるには、私自らが高校ジャングルに飛び込むしかない。
 
うちの息子は学校からのお知らせの手紙を持って帰って来たことが無い。
全生徒に配布されたはずの手紙は、いつもどこへ行くのか?
中学までは、「今日は配布物があったよ」と知り合いから連絡がきた。
そして息子に聞くが、「そんなのいつもらった?」と言う。今日だよ、今日。
「そうだっけ? もらったならリュックの中にあるよ」
けれどもどこにも見当たらない。
そんな具合に、学校からのお知らせは、我が家にはお知らせされない。本当に困る。
三者面談の日程も教えてもらったことがない。
なにせ配られたはずの手紙がないのだから、息子も知らない。
同じクラスの保護者の誰かに聞くしかない。
知り合いがいなければ、知り合いを見つけて聞いてもらう。
中学の卒業アルバムも、申し込みをする必要があっと知ったのは卒業式の日だった。
 
でも、入学したばかりの高校には「手紙配布されたよ」と教えてくれる知り合いはいないし、
手紙の写メ送ってくださいと頼める人もいない。
そんなわけで、私はPTA活動をきっかけに保護者の知り合いをつくり、
助け合いをしてくれる人を見つける必要があった。
そのような事情で始めた私の高校PTA活動だった。
 
息子が高校一年生の時、クラス委員に手を挙げた保護者は五人いた。五人もいた。
全て男子の保護者だった。あとで聞けば、五人とも同じ理由で委員になっていた。
「息子があてにならない」
それを聞いてどれだけ心を強く持ったことか。良かった。うちだけではない。一致団結は早かった。
その年、このクラス委員のグループラインは、
「進路説明会があるというのは本当ですか?」
「(生徒の)研修旅行があるそうですが、それについて配布物はありましたか?」
そんな話ばかりだった。
私がどれだけその仲間たちに助けられたことか。
 
高校二年生の時は、新年度がコロナの緊急事態宣言中に始まり、学校が再開したのは6月だった。
遅い新年度開始後の保護者会で、新しいクラスでも私は再びクラス委員になった。
「お母さん、PTA好きだよね」
どの口が言うか。親の心、子知らずとはこのことだ。
しかし、この年はクラス委員だけでは済まなかった。
各クラスから選出された委員の中から、それぞれの学年で、PTA本部役員や広報委員を選ばなければならないのだけれど、PTA活動を敬遠する保護者は多い。
皆、出来ればかかわりたくないと思っている。
クラス委員くらいならいいけれど、それ以外はちょっと……。確かに面倒なこともある。
子供が小学校時代から今まで、幾つかのPTA活動に参加してきた私は、
そのメリットも経験しているので「絶対にやりたくない」とは思っていない。
それでも、長女が小学校の時に一度やったことのある広報委員だけはやりたくなかった。
やりませんオーラを発してした。
発しているとそれをやることになるのもPTAあるあるだ。
結局私は広報委員になってしまった。
なってしまっただけではなく、副委員長をすることになった。
えーっ。聞いてないよー。思っても仕方がない。なってしまったのだからやるしかない。
 
この年、コロナ禍で学校行事は全て中止になり、保護者が学校に足を運ぶ機会は一切なかった。
広報委員会を除いては。
PTA広報誌を作成、発行する為の広報委員会は毎月一度開催された。
委員会以外にも、委員長と副委員長は、学校に集まる機会が月に2、3回あった。
そうすると、自然と生徒達の様子や、先生方の姿を見かけることになる。
本来ならば、今学校内はどうなっているのだろう? と保護者には何もわからない状態だったが、
私達広報委員はそれを知ることができたし、委員同士の交流もあった。
特に新高校一年生の保護者の方達は、知り合いもおらず、学校の様子もわからず、
この委員会があったから学校や他の保護者と繋がれて本当に助かったと言っていた。
確かにそうかもしれないと思った。
 
息子が三年生になった最後の一年も、クラス委員をやった。
この年こそやるしかないだろう。
なんと言っても受験生。それこそ大事な情報を漏らすのは恐ろしい。
最終年は、ここまでで知り合いになり、付き合いも長くなってきた他のクラスの知り合いに、
「卒業謝恩会実行委員をやろう。一緒にやって欲しい。
自分が委員長をやるので、あなたは副委員長をやって欲しい」と誘われた。
えーっ。さすがにそれは……卒業式の頃に息子の進路がどうなっているのかわからない。
謝恩会の気分だろうか? そこは怪しい。わたしは気が進まなかった。
でも結局断り切れずに、謝恩会実行委員の副委員長をすることになった。
けれどもここでも結果オーライだ。
昨年に引き続き学校行事は中止で、保護者の来校の機会はゼロだった。
しかし、PTA活動のおかげで私は毎月学校に足を運んだ。
共通テストの申し込み締め切り日を知ったのも、学校に行っていたからだ。
行っていなかったらと思うと……冷や汗ものだ。
帰宅して息子に聞いてみたら知らなかった。もうホント嫌……
 
そうやって、私は、いや私達親子はPTA活動に助けられてきた。
そして、そこで知り合った方達と共に活動した時間も、繋がりも、私の宝物だ。
ちょっと知り合った同じクラスの〇〇さんではなくて、
お互い一人の人間として、関係を築いてきた。
私はPTA活動は保護者の部活動のようなものだと思う。
一つの目的があり、そこに集まった人達が協力し、その目的を成し遂げていく。
やりたいことも、時にやりたくないこともあるだろう。
でも、そういうものも全て含めて、部活動は、参加した本人しか経験できないことや得ることができないものがある。
 
昨年の暮れ、息子が一年生の時に一緒にクラス委員をやった友人達と三人で、
息子達の合格祈願に行った。
卒業式のあと、彼女達と学校の近くのファミレスで、お互いの息子の合格を喜びあった。
受験時の息子のあれやこれやを暴露しながら、私達も卒業おめでとうだね、と見合ったその顔は、長年の親友のようだった。
春になったらまた皆で、湯島天神へ合格の報告に行こう。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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