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ワークライフバランスは禁句?


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:のんのんの旅(ライテイング・ゼミ2月コース)
 
 
20年以上経っても鮮明に覚えている。
「ワークライフバランスを口にするような学生は必要ない」
就職の説明会で、何気なく質問した学生は一喝された。
会場は、一瞬で静まりかえっていた。
 
会場の目立たない場所に座っていた私は、周りの様子を確認した。
参加していた、どの病院長も同様にうなずいている。
20年以上前の病院就職説明会である。
当時、ワークライフバランスが禁句だったのは、医療界だけではないだろう。
 
「24時間働けますか? ジャパニーズ、ビジネスマン」
団塊の世代なら、誰もが一度は耳にしたことがある栄養ドリンクのコマーシャルソングである。
ググれば、すぐに当時の働き方を確認することができる。
働き続けることが美徳であった1990年代。
栄養ドリンクを飲み、夜中まで働くビジネスマンの姿が目に浮かぶ。
日本の高度急成長を支えたのは間違いなく、働き続けたビジネスマンである
 
実際に医師になってみると、説明会で一喝された、あの言葉の意味を知る。
研修医になると、医療界の厳しさを知る。
研修医は何をやっても怒られる。
注射器を持てば、手が震える。
看護師さんに怒られないように、とにかく雑用を一手に引き受ける。
 
研修医が最も輝くことができるのは当直時間帯である。
夜中だけは、研修医が主体的に患者さんを診察できる。
眠れない当直で、患者さんから怒鳴られることは日常茶飯事だ。
強いストレスを感じながらも耐え続けることが当たり前だと思っていた。
 
先輩の医師は、何連泊も病院で寝ている。
何が起きてもすぐに対応できるように、月に数回しか帰らない先輩もいた。
それも当たり前だと思っていた。
なぜなら、医者になったから。
ワークライフバランスは禁句だから。
研修医を修了すると、自分の担当患者さんを持つことになる。
とくかく、毎日が不安である。
不安だから、休日も自分を落ち着かせるために病院に足を運んでしまう。
何が起きても病院に駆けつけられることが重要だった。
 
医師になった数年間は、土曜日も日曜日もない。
毎日が平日である。
もちろん、夏休みなどあるはずもない。
有給の存在を知ったのは、医師になって10年以上経ってからである。
時間外勤務にお金をもらえることも当然知らなかった。
そもそも時間外勤務という概念がなかった。
24時間、365日が時間内勤務である。
 
先日、病院説明会に参加した。
20年以上経った今、病院説明会は、オンラインで全国の学生が集まるようになった。
ある学生が質問した。
「ワークライフバランスについてはどうですか?」
20年以上振りに聞いた質問であった。
 
ほとんどの病院長が一斉にうなずく。
「もちろん、当院はワークライフバランスを最も大事にしています。当直の翌日は休み、夏休みは1週間、有給もしっかりとってください」
このように答えなければ、研修医は集まらない時代になった。
 
一方で、院内では毎月のように病院長が医師たちにお願いする。
「頼むから、有給をとって欲しい」
「時間外勤務を少しでも減らしてください」
「休日には、当番医以外は病院に来ないでください」
 
医師の働き方改革が2024年にスタートする。
ついに、国はパンドラの箱を開けた。
理由は、医師の健康を守るため。持続可能な医療を創るため。
年間960時間以内の残業に抑えるように。
すなわち、月に80時間以下の残業である。
例外的に、申請すれば、年間の残業が1860時間以内なら認められる。
 
しかし、その数字を守ることすら難しい現状が医療界に存在する。
なぜなら、自分の担当患者に会わないと不安になるのである。
ワークライフバランスについて質問する学生も数年後には目の色が急に変わる。
ベットサイドに足を運ばないと不安になる。
 
休日も病院に来ないと不安なのである。
自分の管理の甘さから人の命を落とすかもしれない。
働きたいからというより、休むと不安なのである。
 
一流のプロ野球選手は、試合後も毎日バットを振り続けると聞く。
明日から打てなくなるのが不安になるという。
だから、シーズン中は寝ても、覚めても、野球のことばかり考えているという。
 
目の前の命を救う。
そのことに、自分のワークライフバランスを考える余地はない。
ワークインライフである。
寝ても、覚めても、自分の担当患者のことばかり考えてしまうのである。
ワークライフバランスを禁句にしなければいけない実情がある。
 
医師の健康を守るために、医療を持続可能にするためにワークライフバランスを推奨する政府。
患者の命を守るために、自分の使命を果たすためにワークインライフを貫く医師。
どちらがいいとか、悪いとかいう問題ではない。
この難題にどう取り組むべきか、多くの病院の管理者は悩んでいる。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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