高度1万メートルで出会った理想の女性
202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:石川ひろこ(ライティング・ゼミ2月コース)
「お客様、失礼いたします。 他の座席からの移動をご希望されている方がいらっしゃいます。 お隣の席へご案内してもよろしいでしょうか?」
ハワイから日本へ戻る飛行機の中でフライトアテンダントから声をかけられた。
申し訳無さそうに言われたのだが私の隣の席は空いていた。
当然断る理由も無く、「もちろんです。 どうぞ」と答えた。
機内の前方から赤ちゃんが泣く声が聞こえていた。
「はは〜ん。 さては自分の席の近くで赤ちゃんが泣き、うるさくて落ち着かないから席を移りたい人がいるのだな。 子供だから泣いても仕方がないのにな。でもやっぱり子供の事をうるさいって思う人も多いのかな」
当時5歳の子育て真っ最中だった私はそんな事を考えながら窓の外を眺めていた。
しばらくすると一瞬、泣いてる赤ちゃんの声がクリアに聞こえた。
視線を前方に移すとビジネスクラスとエコノミークラスを分けるカーテンが開いた。
その時に初めて「赤ちゃんは前の方(ファーストクラスかビジネスクラス)にいるんだ」と理解した。
そしてフライトアテンダントに先導されて、前方から60歳前後の女性が歩いてくるのが見えた。
「そっちから来るの?」と私は驚いた。
驚きつつも、あまり気にしない素振りをしていた。
すると、その女性は私に向かって話しかけてきた。
「せっかくのんびり一人で座っていらしたのに、ごめんなさいね」と。
女性はとても優しい笑顔を私に向けた。
とにかく第一印象がかなり良かった。
てっきり赤ちゃんの鳴き声がうるさいと怒って文句を言い、ぷりぷり移動してきたのかと想像していた私はまた驚いた。
そこから私達の会話が始まった。
私「いえいえ。 どうぞ、どうぞ。 赤ちゃんすごく泣いてらっしゃいましたね」
女性「そうなのよ〜。 私は全然気にしないけれど、赤ちゃんのお母さんがね、”うるさくしてごめんなさい”ってわざわざ謝りに来られたの。 それがなんだか気の毒でね。
せっかくファーストクラスで日本までのフライトをご家族でゆっくり過ごそうと思ってだろうに、ずっとその間、私に気を遣うと思うと気の毒で。
だからフライトアテンダントさんに事情を話して移動してきたのよぉ〜。うふふ」
私は「な、なんと! そんな人がこの世にいるのか〜!」と心底びっくりした。
だって、この女性だってハワイから日本までファーストクラスのチケットを購入しているんだ。
それを全く嫌味な感じでなく、サラリと手放したのだ。
そして今、ご機嫌な様子で私の隣に座っている。
泣いてる赤ちゃんのママさんとも仲良くなってたみたいで、決して険悪な状況で席を立ってきた感じではなさそうだ。
なんと心が穏やかで、そして軽やな人なんだ。
彼女の周りにはそよそよと爽やかな風が吹き、小鳥がさえずってるかの様だった。
自己紹介をしてお互いの事を話すうちにすっかり私達は仲良くなった。
名前を「ちえこさん」というその女性は、当時ハワイに住んでいて実家の用事で一時的に日本に戻ると言っていた。
ハワイで画家をしてるとも教えてくれた。
私達の会話は途切れること無く続いた。
私はホノルル空港を出る直前に偶然、もう二度と会う事が無いと思っていた友人を見かけた話をした。
ちえこさんは、うんうん、と大きく頷き素敵な話をしてくれた。
「ハワイはそういう島なのよ。
そういう不思議なパワーを持ってるのよね。 ハワイって。
あのね、私が結婚したのって50歳の時なの。
それまでもずっと結婚願望はあったのだけど、なかなかいい人に出会えなくて。
でも、いつも ”王子様がいつか白馬に乗って迎えに来てくれるの”って信じて疑わなかったの。
50歳になってもそんな事を言ってるもんだから周りの人は皆、呆れてたわ。
でも私、本当に信じて疑わなかったのよ。
私は当時ハワイが好きでよく旅行に来てたんだけど、ある日ね、ついに王子様が現れたのよ。
私よりずっと年下のハワイ人なんだけどすごく素敵な人。
出会ってすぐにプロポーズされて結婚したの。
なんとね、彼は私がハワイに一人で旅行した時、空港からホテルまでのタクシードライバーだったのよ。
白い馬ではなく、白い車に乗ってたのよ。 ふふ。 面白いでしょ。
そして今は私達、ハワイで幸せに暮らしてるのよ」と。
とっても嬉しそうに旦那さんの話をするちえこさんがあまりにかわいくて。
それはまるで少女が初恋で胸をときめかせてるような印象だった。
この他にも楽しい話で盛り上がり、私達はずっと話しっぱなしだった。
そして飛行機が成田空港へ着陸準備をするちょっと前くらいに
「赤ちゃん、きっともう寝てるわよね〜。
そろそろ私、自分の席に戻ろうかしら。 楽しい会話を、ありがとう。
またハワイで会いましょう。 偶然どこかで会えたりするかもね!」と、ちえこさんは小さく手を振って飛行機前方へ歩いて行った。
あんなに話が盛り上がって仲良くなったのに、日本での連絡先やお互いのプライベートな所には決して踏み込まない。
そんな感じがまたスマートで後味がよかった。
「ああ、私もあんな女性になりたい」
軽い足取りでファーストクラスへ向かうちえこさんの後ろ姿を眺めながらそう思った私だった。
それから、まだちえこさんに再会はできていない。
でもちえこさんがずっと信じ続けていたら王子様に出会えた様に、私もまたちえこさんに再会できると信じよう。
きっとそれを実現させてくれる力を持つハワイで、また、いつか会える。
***
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