メディアグランプリ

笑いと涙の乳がん検診、その痛みが思い出させてくれる大切なこと


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「アンタこそ、手紙くれって」彼女からの最後の手紙の、出だしだ。
まともに返事を出せなかった。出したかもしれないが、出していないかもしれない。記憶すら曖昧だ。
インドネシアで頑張る彼女に、心いっぱいに、返事を書いておけばよかった。
あの時の電話に、すぐに、折り返せばよかった。
 
逢えない人となってから「あの時に戻りたい」そう思うことは、多くの人にあるのだろうと思う。それはきっと、あまり目を向けたくない気持ちだろうし、心臓なのか、胃なのか、その後ろあたりがズンと痛くなるものではないだろうか。
 
スコールのように突然に、この痛みが私を襲った。
「亡くなったの。乳がんだった。福岡で忙しそうだし、心配かけたくないから、言わないでって。そう言われていたから」友人からの電話を受けてから、「あの時に戻りたい」が止まらなかった。どうやってこの痛みと向きあっていけば良いのだろうかと、問い続けていた。
 
「もっと自信持ちなヨー!」私の顔を見る度に、と言ってもいいほど、彼女はそう言ってくれた。
ニット帽にゆったりしたVネックのトップス、ジーンズがよく似合う彼女は、時々タバコを吸った。全部が、自分にはないものだった。颯爽とキャンパスを歩く姿も。
彼女は自信に満ち溢れ、輝いて見えた。1つ年上の同級生は「カッコイイ姉御」のようだった。
 
同じ学部にいながら、異なる専攻だったので、接点は多くはなかった。
2年の時、講義も発表も英語のゼミに、背伸びして入り、彼女との距離が一気に近くなった。
英語でのプレゼンの度「またダメだ。進歩しない。全然できないー」後ろ向きまっしぐらの私の言葉に、「もっと自信持ちなヨー! 全然問題ないじゃん」と、お決まりの言葉をくれた。
学内英語スピーチコンテストの予選を通過しただけでも「スゴイじゃん!」とおもいっきり褒めてくれた。その本選、出場者唯一のタイムオーバー、会場中を真っ暗にし、時間切れを知らせる赤色灯をクルクルと回しても、「よくやったねー」と満面の笑顔をくれたのだ。外見も内面もカッコイイ、どこまでも与え続けてくれる友人だった。
 
インドネシア語を専攻していた彼女は、1か月の現地での研修で「ハマった」ようで、1年間の留学に旅立った。半年ほどして、インドネシアの木々の緑と、逞しいサイが添えられたポストカードが届いた。
「久しぶり! 元気にしてますか?一時帰国をした友人から、台が私から手紙来ないと言っていることをきき、今手紙を書いています。っていうかアンタこそ手紙くれって」で始まり、「では、返事待ってるよ」で終わっていた。
丸みをおびた、筆圧の強い文字で、現地での出来事が綴ってあった。私の近況も訊ねてくれていた。
だのに、アメフト部マネージャーとして夏合宿を控え、バイトもある、2時間の通学でクタクタ、仕方がない。そんな言い訳をして、まともに返事も書いていなかった。
 
卒業後、彼女は東京で、私は福岡で就職をした。
ようやく仕事に慣れてきた2年目。仕事を終えて更衣室で着替えていると、携帯電話が鳴った。同じクラス、ゼミの友人たちからで、東京で食事をしているという。皆の明るい声が聞こえてきた。「っていうか、電話出てよー! 全然繋がらないしー。ハハハッ。で、元気にしてる?」と彼女はまたも連絡無精の私を、笑って叱ってくれた。「会いたいね。またねー」
彼女との最後の会話だった。
 
この電話の数か月前から、2回ほど着信が残っていた。だけど、かけ直さなかった。仕事に慣れるのに必死で、また今度で大丈夫。自分の中で勝手に、よいこととしていた。
 
そして、また電話が鳴った。更衣室で。
「またね」で終わった電話から、数か月が過ぎていた。
友人は泣いていた。
彼女が旅立った。
 
みんなとの電話の時、外出許可が出て、久しぶりの友人との食事を楽しんでいたことを知った。
かけ直さなかったあの電話で、彼女は私に何を言いたかったのだろう。今度は私が「応援しているね!」と伝える時だったのではないだろうか。胸だけではなく、心臓や胃の裏側あたりが、たまらなく、痛く、重たかったのではないだろうか。
後悔の渦に飲み込まれていくようだった。
「ごめんね。私ってホントにダメだね」自信がなくなった。
 
数年後、勉強しているパッチワークキルトで、初めて大きめのタペストリーを作ることとなった。24×24センチの小さなものを作ってばかりだったのだから、90×90センチの作品は、チャレンジである。
東京での教室展にと、先生が私にくださったのはインドネシア更紗だった。
深い緑色の布地は、繊細ながらパリッとしていて力強さを感じた。なんとも魅力的でカッコイイ。
作品を、彼女に捧げよう。そう決めた。
 
1年半ほどで縫い上げたタペストリー、彼女のイニシャル「I」を中心に、周りに可愛い花とハートを配し、外側をバスケットで囲んだ。
励ましへの感謝、連絡無精へのお詫び、そして自信を持って、前を向いて進んでいくことへの誓いを詰め込みながら、一針一針を進めた。
 
「おばさん、よかったら観にいらしてください」
彼女のお母様は、案内状を受け取ると電話をくださった。
 
会社からの帰り道、着信に気づき、すぐに、かけ直した。
 
仕事で行けないとのことだった。
「今もね、泣いてしまう日があるの。韓流ドラマを観て、元気を貰っているのよー」と笑って話してくださった。
「今も想ってくれて、本当にありがとうね」と電話は切れた。
 
良かった。そう思った。
彼女も微笑んでくれているような気がして、ジーンズで街を歩きたくなった。颯爽と。
 
タペストリーを見ると、表布と中綿と裏布を縫い合わせるキルティングが少なく、キルト綿がプカプカとして落ち着かない。次の展示会までに、もっとキルトを入れたい。納得できるキルトにしよう。必ず、自信に繋がるのだから。来年秋が完成目標だ。
 
もうすぐ年に1度の乳がん検診である。マンモグラフィーがどんなに痛くとも、太い針での細胞診となろうとも、めげずに受診し続けよう。
「っていうか、元気で! 自信持ちなヨー」彼女の声が聴こえてくる。
 
笑いと涙で臨む、乳がん検診である。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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