子どもと一緒に、わたしも成長したい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:種村聡子(ライティング・ライブ名古屋会場)
子どものピアノの先生に怒られてしまった。子どもが、ではない。母親であるわたしが、である。
「息子くんには息子くんの練習のすすめ方があるはずです。その方法は息子くん自身が見つける必要があります。お母さんの成功体験を、息子くんに押しつけてはいけません」
わたしには9歳の息子がいる。息子は1歳から音楽教室に通っており、ピアノは6歳から始めた。わたし自身も子どもの頃から長い期間ピアノを習っていたこともあり、それなりに弾ける自信があった。そのため、毎日欠かさない彼のピアノの練習では、隣に座り、わたしなりに指導していた。そのときのかかわり方が大きいので、見直してほしいというのが先生の提案だった。
教室でのレッスンの際にも、息子は「お母さんがこう言ったから」という発言や、先生の指導を「あとでお母さんに聞けばいいや」と話半分に聞いていることがあり、自分事としてピアノに向かっていないという。「そろそろ、お母さんの指導がなくても練習を進めなくてはいけない年齢になってきたのに、いまの状態だと、いつまで経っても一人でピアノに向き合うことができませんよ」と。
先生の言うとおり、わたしは一から十まで口を出していた。何回練習するのか、新しい曲をもらったときの練習の進め方、息子が考える前にわたしが先に決めてしまっていた。これはピアノの練習に限ったことではなく、息子への、わたしの関わり方全般に言える問題点だった。
先生との会話のあと、思い出した言葉がある。「ネイティブ・アメリカンの子育て四訓」というものだ。子どもが自立に向けて育っていく段階での、親の心得である。
1. 乳児はしっかり肌を離すな
2. 幼児は肌を離せ、手を離すな
3. 少年は手を離せ、目を離すな
4. 青年は目を離せ、心を離すな
小児科の壁にこの四訓が掲げられていたのを見て、初めてこの言葉を知った。その時息子は乳児だったので、肌を離さないように思わずぎゅっと抱きしめた。そして、いま、少年になった息子は「手を離して目を離さない」段階であるのに、わたしはいまだに手も肌も離していなかった。わたしは少年をあかちゃん扱いしていたのだ。
子どもが生まれたばかりの時、身の回りの危ないものは取り除き、掃除をして、拭き清められた状態を保つようにしていた。いま、わたしが息子にしていることは、これとほぼ変わらない。習い事の練習、学校の勉強、家での過ごし方、すべてわたしが決めてしまい、さらに間違えそうなところを、息子が気づく前に先周りして言っていた。少しでも正しい方へ、最短な道のりで、という浅はかな親心である。
子どもが小さいうちは、手取り足取り、口を出すことは必要であるけれど、成長するにつれて子どもの自主性を大切にして、信じて見守ることを求められる。子どもの成長段階に合わせて、親が正しい関わり方をしていないと、どうなるのか。親も子どもも、いつまでたっても成長できない。わたしが、よかれと思ってしていたことは、息子の成長を妨げるかもしれない行為だった。
息子との関わりの中で、ある日、勉強の進め方でもめて「そんなに言うなら自分のやり方でやってごらん」と言ったことがある。そのとき息子は自分なりの方法で進め、テストではよい結果を出すことができた。「自分のやり方で100点とれたよ」と言う息子の顔はうれしそうに輝いており、その顔を見たわたしは「ごめんね」と「ありがとう」の気持ちでいっぱいになった。いつまでも赤ちゃん扱いをしてごめんね、そして、もう、君は自分で考えて行動できる時期になったことを教えてくれてありがとう、と。
子どもは成長しているのに、親であるわたしが一緒に成長できていなかったのだ。でも、親だって、はじめから親ではない。わたしは、親は子どもと同じ年月だけの経験値しかないのに、いつも親は子どもより先んじて成長していなければならないところが、難しいと思っていた。しかし、実は親が一歩先をいく必要など、ないかもしれない。親も子どもと悩み、考え、トライアンドエラーを繰り返して一緒に成長すればよいのではないか。子育て本は世に溢れているけれど、本の通りになんてならないし、子どもと親が抱えている問題は、それぞれ異なっている。すこしずつ、子どもと一緒に成長していきたい、いままで密着していた関係性から距離をおいて、子どもを見守れるようになりたい。それは、すこし寂しいことではあるけれども。
そういえば、わたしの母は、娘であるわたしが成人してからも横断歩道を一緒に渡るとき、手を繋いできたことがある。無意識に手が出てきてしまったようで、すぐに気づいて手を離してふたりで笑ったけれど、親になったわたしはその時の母の気持ちがよくわかる。いつだって親は子どもを想っているのだ。
久しぶりに、母と手をつないで歩いてみたくなった。いまでも母の手はあたたかく、子を想う、優しい気持ちであふれているはずだから。
引用:ネイティブ・アメリカンの子育て四訓
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