メディアグランプリ

昔も今も、風に吹かれるのが好きなのだ。これでいいのだ!


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記事:mikkiharugon (ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
小学生の頃、家の近くにゴルフ練習場があった。
今では名古屋市のベッドタウンとして知られているが、それが造られた昭和50年代は、私の住む町はまだまだ片田舎の部類だったと思う。私が覚えているのは家の前にある田んぼから名古屋城が小さく、だけどはっきりと見えたことだ。そのくらい、住宅よりも田畑が多く、名古屋城まで視界を邪魔するものが何にもなかったのだ。
そんな頃、土地が余っていたからなのか、緑色のネットで、ある一画全部がきれいに覆われた。ゴルフボールが外に出ないようにするために。今どきの大きなゴルフ練習場と比較すると小さな練習場だった。ゴルフ練習場のハシリみたいなものがこの町にあったことは、今思うと驚きだ。
 
私は小学校が終わると、その練習場の近くを通って帰った。ゴルフ練習場は、当時私の周りにはいない、ちょっとお金持ちそうなおじ様方が通われていたように思う。
辺り一面田んぼだったあの頃、ゴルフのために通えるのは贅沢で、暮らしに余裕のある人たちに見えて、そこはすごく特別な場所に感じていた。
 
その緑色のネットは、小さかった私には天にも届くように感じる高さがあった。
風が吹くと、そのネットにあたり「びゅーん、びゅーん」と音を立ててネットはうねっていた。
ふわーん、ではない。「びゅーーーん」だ。私はそのネットが生きているように見えた。緑色の大きな一枚の生き物だ! 風があるときだけ、急に息を吹き返す。それもネット全部が一気に動き出す。
 
ネットが風にのって動くのを下から見ているのも面白かったが、あるとき私は友達とそのネットによじ登ることを考えた。お転婆だったのかもしれない。自分ではおとなしくて控えめな性格だと思っていたが、いざとなると行動が大胆になるのは、子供の頃から変わらぬ私の特性のようだ。
 
そのネットの格子のサイズは、子供が指をひっかけてよじ登るにはちょうど良かった。
今だったら、「そんなことしたら危ない!」「お行儀悪い」と言われて登らないか、あるいはネットによじ登るなんて考えが、子供たちの頭に浮かばない時代なのかもしれない。
 
私は、友達とできる限り上の方まで、ネットをよじ登っていった。
かなり上まで登ったような気がする。そして、ある時、風が吹いた。
 
びゅーーーん。
 
吹いてきた風に乗って、まだ軽かった私はネットと一緒にフワフワと空中で舞った。
地面が顔の下のほうにある。足が地面についてない!
私の体が上下に揺れるスピードは風次第で、同じ動きはひとつもない。
ネットに張りついている私は、風と一緒になって自由であることを全身で感じた。
 
あの感覚を今でも覚えている。
 
怖くなかった。気持ちよかった。
鳥になったらこんな感じかな、とも思った。
 
なぜ、急にネットと一緒に風に吹かれた小学生の頃を思い出したかというと、
ふと「私、これからは風に乗るみたいに、ふわふわっと生きていこうかな」と思ったから。
 
このコロナ禍、仕事探しも仕事定着も、もろもろ大変苦悩している人々がいる中、私は半年前に、安定した会社、安定した立場報酬があったにも関わらず、自分の本意に従い白紙の道を選んだ。
不安がないといったらウソになる。本当に何にも無くなったからだ。
収入も肩書も全て御破算! 名刺を持たない生活なんてそれまで考えられなかった私が、何者とも証明するものを持たずに生きていけるのかしら?
それでも、「まっさらにする」ことを選んだのは、人生の後半戦もとうに過ぎた残りの人生の、今、この分岐点で、覚悟の杭を打ち込んでおきたかったからだ。
ここだけは筋を通しておかないと、きっと私は残った時間を後悔と共に過ごすだろうと分かっていたからだ。
 
世間一般からすると私の状況は不安定要素だらけのようだが、「不安になったら、ここまで図太く生きてきた自分の姿を思い出せばいいんじゃない?」と私は思った。
これまでも「こんな道を選ぶ?」という選択をしてきたり、オーットットと崖から落ちるような危機的状況の時も……あ、大丈夫だったわ、私……と思い起こし、気持ちを奮い立たせた。
 
そして、子供の頃、ふわふわと風に吹かれ、自分に正直に生きてきた時が気持ちよかったことを思い出した。あの時、風に乗って上下に揺れながら浮いている感覚が自分にとってはあまりにも自然で特別感がなかったから、ずっと忘れていたのだ。
いろんな経験くっつけて、大人という名で、イイカッコして年数だけは重ねてきたけれど、中身はそんなに変わってない。「私は、昔も今も、イイなって思う感度は変わってないのね」そう気づいたのだ。
 
大人になった私は、そして緑色のネットのことを思い出した私は、ここから先、他人の物差しではなく自分の物差しで選ぶ道がいくらでも広がっていけることを感じている。
この分岐点は、「本来の私」に戻る場所。
そして、選んだ道の先に広がる果実も自分で拾うし、落とし前も自分でつける。
 
ああ、庭の草木に春の風が気持ちよく吹いている。
私も心地よく吹かれている。
そして、これからも風に吹かれることを感じながら生きていく。
これが私の生きる道。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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