メディアグランプリ

もし僕が「会社を辞めて独立するって、どんな感じですか?」と質問されたなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村隆(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「会社員って、人間関係だけ我慢できればパラダイスじゃん。戻れるなら、俺は迷わず戻るね。絶対辞めてないと思う」
 
「独立? そんなこと考えない方がいいよ。毎日、毎日、ほんとに大変だから。夢は見ない方がいい」
 
6年前、僕が勤めていた新聞社を辞めて独り立ちしようとしていたときのこと。取材を通じて知り合ったカフェのオーナーやWEBデザイナーたちは、みんな一様に反対した。
 
そのなかでも親しくしていたある飲食店の経営者からは、少し感情的にこう言われた。
 
「起業するって? やめちまえ、そんなこと!」
 
普段は穏やかなタイプなので、正直驚いた。
 
当時、すでに起業塾などに通っていたため、独立に関して周囲からネガティブな反応が返ってきやすいことも学んでいた。「そういう意見に引きずられてはいけない」と、講師やコンサルはよく話していた。ただ、そうした類いの反応は、会社組織に属している人たちを想定してのものだった。
 
だから、すでに独立している「先輩」たちから先ほどの言葉を聞くとは思ってもみなかった。「どうして応援してくれないんだろう」と少し悲しくなった。彼らの忠告を聞くことなく、その数カ月後に僕は会社を辞め、一人で仕事を始めた。その理由はやりたいことの実現というだけではなく、どうしても見てみたい世界があったからだ。
 
何にも守られず、自分の力だけで生きる。そうすることで見えてくるもの、体感できるもの。それはきっと、いままでとは別次元の世界だ。そういう荒野のオオカミのような生き方を、自分の人生として歩んでみたかった。
 
だが、組織から脱けて直面したのは、自分の無力さだった。
 
毎月まとまった額が振り込まれるのではなく、生み出した成果の分のみ対価を得て、生活を維持する。それがどれほど難しいことか、僕には分かっていなかった。同時に、いままでどれほど会社に庇護されてきたのか、そのありがたさにも気付いた。まさしく「有り難い」ほど守られていたのだ。荒野のオオカミ? そんな格好いいものじゃない。実際には、真夜中に素っ裸で横殴りの雨に打たれているようなものだった。そんなことさえ体感するまで分かっていなかった。なんと愚かだったのか……。
 
そのときになって、ようやく「先輩」たちの言葉の本当の意味が理解できたのだった。
 
自分の能力を生かして楽しく働き、充実した人生を送っているように見える彼らも、みな苦しんでいたのだ。だからこそ、敢えて厳しい言葉を僕に投げかけてくれたのだ。つまり、それは心からの愛情だったのだと。
 
そのころに出会った、信頼できる数少ないビジネスコンサルの一人は、こう言っていた。
 
「独立して、簡単に成功するほうが実は危ないんだよ」
 
また、あるメンタルコーチに相談すると、こんな言葉が返ってきた。
 
「苦しんでいますよね。それ、正しい道を歩いている証拠です」
 
いずれも、そのときには意味が分からなかった。
 
簡単に成功するのが危ないって、どういうこと?
 
苦しい現状にいることが「正しい」って、なんなんだ? ちょっとバカにしているのか……。
 
ところが、これらの言葉も時間の経過とともに深く響いてくるようになった。
 
思ったように仕事が進まない日々。その期間に人としてもっと大切な、別の側面が養われている可能性がある。それは、ビジネスで安易に成功するよりも、ずっと深い意味を持っている。独立して長く闘い続けてきた彼らには、それが見えていたのだ。
 
僕の場合、そんな時期にもっとも養われたものは「地力」だった。たとえ手応えがなくても、結果が見えないとしても、自分で決めたことは続ける。一方で、もう無理だと判断するときが来たなら執着することなく断ち切り、新しい道へと歩み出す覚悟を持つ。つまり、地力とは生きる選択をし続ける力のことだ。
 
地力を養うなかで手にしたものがある。
 
「自灯明」(じとうみょう)。
ブッダが入滅する間近のころ、一人の弟子に語ったと伝えられる言葉だ。
 
「あなたが亡くなったあと、私たちは何を頼りにすればいいのでしょう」と弟子から問われたブッダは、こう答えた。
 
「自らを拠り所としなさい」
 
私という灯りが消えたからといって、うろたえることはない。他の灯りを探す必要もない。これからは自分が灯りとなって、自らを拠り所としなさい、と。
 
これまで何度、この言葉に救われたか分からない。
迷い、疲弊しているときには、だいたいにおいて何かにすがりたくなる。そして自覚のないままに、より暗い方へと歩みを進めてしまうものだ。
 
だが、ふと立ち止まって、
 
「自灯明」
 
と呟いてみる。すると少しずつ冷静さを取り戻すことができるのだ。
 
誰かの照明の元で生きるか、小さな灯りを自分でともすか-。
どっちがいいとか、優れているとか、そんなことを言うつもりはない。どちらにも大変さがあり、素晴らしさもある。冒頭の「人間関係だけ我慢すればパラダイス」という言葉は、それが地獄だという認識の裏返しだ。一方で、組織内の人間関係の軋轢の中でしか育まれない人間力というものも、確実にある。それはとても尊く、価値のあるものだ。
 
僕は自ら灯りをともす道を選んだ。それだけの話だ。
 
正直言うと、いまでもその小さな炎は簡単に消えそうになる。入ってくるはずだった案件が流れたとき、仕事の出口が見えずに投げ出したくなるとき、費やした時間と手にしたものの間にあまりに差があったとき、その灯りは文字通り「風前の灯火」となってしまう。
 
それでもまだ炎を守りながら歩み続けることができているのは、この灯りをとおしてしか見えない世界があることを知っているからだ。そして何より、生きているという深い実感がある。そうだ、考えてみれば僕が体感したいと願っていたものの本質は、この実感なのだ。
 
もし、これから独立したいという人から相談を受けたとしても、僕から適切なアドバイスや成功への道しるべなどはとても伝授できない。ぜひやったらいい、とも言えない。でも、まがりなりにも先輩として、これだけは言ってもいいかなと感じている。
 
「自ら灯りをともす人になれるよ。それは生やさしいことじゃないけど、あなたの灯りでなければ照らし出せない世界と、必ず出会えるはずだよ」
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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