お母さんは心配性
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:塚本 よしこ(ライティング・ゼミ2月コース)
「きてる?」
玄関ドアの小さな穴から外を見る。
「来てる! 来てるよ、帽子かぶって!」
娘の初登校日。お世話係のお兄さんが、迎えに来てくれることになっていた。
「靴履いて!」
「おはよう! お願いします」
玄関を開けて挨拶すると、通学団の集合場所まで一緒に行った。
6年生が大半の通学団。同じ歳の子は1人もいない。
歩く速さに付いて行けるだろうか?
重たいランドセルを背負って、マスクをつけて苦しくないだろうか?
ここは学区の端で、学校まで30分近くかかる。
ランドセルは軽さを1番に考えたらよかった。
マスクももっと通気性のいいのにすればよかった。色んな思いが湧いてきた。
全員が集まり、さあ出発だ。
「いってらっしゃい」
地下道を渡り、少し行くと左に折れて姿が見えなくなる。そこまで背中を見送った。
行った、行ったよ……。
自分の手の届かないところに旅立ってしまったような、どうしようもない気持ちになった。
このまま付いて行きたい気持ちを抑え、180度向きを変えた。
そ、そうだ、段ボールを捨てに行こう!
家に着くと段ボールをまとめ、リサイクルステーションに車で向かった。
何かに追われるかのように、さっと捨て、車に乗り込む。
ちょっと学校の近くを通るだけだから。
誰に言い訳しているのか分からないが、車を学校方面に進めた。
横断歩道の前にランドセルの集団が見える。
あっ! 前を通り過ぎようとした時、一瞬娘が目に入った。
ここまで来たんだ。凄いよ凄い。頑張った! 心がぱっと明るくなった。
ライブでアーティストが登場した時みたいなときめきを感じた。
大回りして家に戻る。よかった、無事学校に着いただろう。
この心配ぶり? 過保護ぶり? を知られぬよう「ただ私はごみを捨てに行っただけです」と言わんばかりに足早に家に入った。
バカだな、見に行ったりして。これは誰にも内緒にしておこう。
12時下校か。まだまだ長い。
気を紛らわすように掃除を始め、ようやく11時半になった。
めったに外に出て掃除なんてしないのに、玄関先の草むしりを始める。
少し草を抜いては帰ってくる方向をチラッ。
少しホウキで掃いてはチラッ。
プランターの向きを変えてはチラッ。
時計を見てはチラッ。
あ、12時下校って12時に学校を出るということか。まだまだじゃないか。
それなら植木を整えよう。チョキチョキチョキチョキ。
12時30分、チラ見の回数が増える。
すると、遠くから黄色の帽子の軍団が近づいて来た。
無人島で、遠くに船を見つけたような気分だった。きたっ!!
隣のお爺さんも道路に出て孫を待っている。
「おかえり!」
隣の玄関先や庭がどうして綺麗なのか? よく分かった。
下校時間になると大体お爺さんは外に出ていた。
今日の私みたいに、あれこれしながら待っていたんだ。
その日の夜、小1の子を持つ仲間とメールを交わした。
Yさん「通学団に紛れて学校まで付いて行ったよ」
Tさん「子どもとは違うルートで学校まで見送った」
Aさん「遠く離れた場所から門に入るまで見ていた」
え?! 皆そうなんだ! あはははは。
私くらいが過保護で心配性なのかと思ったが、皆も私に負けず劣らずじゃないか。
なんだ、私も学校まで行けばよかった。
「子どもが受験で、心配で……」
友達からそんな話を聞く度に、どうして皆そんなに心配するんだろう? 大丈夫だよ、どうとでもなる。それに、親は変わってあげられないし……そんな風に正直思っていた。
ところがどっこい。受験どころか、小学校に娘が行くというだけで、このざまだ。
通学路に車が入って来ると、こっちに来ないで! とまで思ってしまう。
母の子を思う気持ちは、降水確率20パーセントの日に傘を持たせたくなるようなものだ。持って行っても重くなるだけ。大丈夫なのに心配が過ぎるのだ。
今までは保育園まで車で送迎していた。
しかし、これからは歩いて行き、帰ってくる。ちょっとした巣立ち。
それだけでも母というものは、こんな気持ちになるんだと身をもって経験した。
通学団で娘に話しかけてくれたり、優しくしてくれる子に、お礼をして回りたいくらいの気持ちにもなる。
もし今後、母が子を心配する場面に遭遇したら、過保護じゃない? 心配し過ぎじゃない?
と思っても、是非否定せずに話を聞いてあげて欲しい。
母の心配性は、金魚すくいで網が破れるくらい、しごく普通のことなのだ。
話すことで、気持ちが解放されて安心する。否定されると余計に不安になったりするものだ。
しかし、私なりに考えた心配の作法もある。
それは子どもには特に伝えないし、知られないようにするということだ。
結婚しない娘の為にお百度参りをしたと聞かされても、ドン引きされたり迷惑がられるのと同じで、子どもにとって母の過剰な心配は重荷になる。
心配はしても「あなたは大丈夫!」という思いを送り続けることが大事だと思う。
翌朝、集合場所で皆が来るのを娘と一緒に待っていた。
「お母さんもう帰っていいよ」
2日目にして娘から言われてしまった。あはは、そうですか。
私の心配も、初日に車ですれ違ったことも娘は知らない。
私の心配なんて知らなくていい。
「いってらっしゃい!」
そのまま逞しく羽ばたいて!
***
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