メディアグランプリ

どんどん小さくなっていく盆栽の不思議


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記事:西條みね子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
ここ10年、20年の間に「盆栽」が日本文化を象徴するものの一つとして、より認知されてきた気がする。
有名なホテルやお洒落な高級セレクトショップが、ディスプレイとして盆栽を飾ることも珍しくなくなった。「BONSAI」が世界で通じる用語であることは、もはやよく知られている。
 
自然や四季を愛する、日本の芸術!
「間」や「アシンメトリー(左右非対称)」を美とする独特の感性!
クール・BONSAI! クール・ジャパン!!
 
……などなど、盆栽の持つ日本文化的な魅力はあちこちで語られているが、盆栽の持つ隠れたアピールポイントは、別のところにあるんじゃないか、と思っている。
 
盆栽は、「どんどん小さくなる」のだ。
 
 
一人暮らしを始めた頃、私は意気揚々とアジサイの鉢を買った。賃貸のマンション住まいではあるが、ほどほどの日当たりさえ確保できれば、多少の園芸は楽しめるだろう、と踏んだ。何より、花屋に並ぶ色とりどりの花に、植物好きの血を抑えきれなかった。
 
夏の間、花を楽しみ、秋が近づく頃に、はたと気づいた。
来年のために、植え替えをしなければならないのである。狭い鉢の中の栄養分は使い切ってしまっているので、定期的に植え替えをしないと植物はいずれ弱ってしまうのだ。
 
大抵の植物の育て方には、「植え替え」の箇所にこう書いてある。
「ひとまわり大きな鉢に、根を傷つけないように植えます」
ホームセンターで鉢と園芸用の培養土を買ってくると、マンションのベランダにビニールシートを引いてどうにか植え替える。
ふう、と腰に手を当てて立ち上がった私の目に写ったものがあった。大量の使用済みの土である。
コレ、どこにやったら良いの……??
一戸建てと違い、マンション住まいには、当然ながら捨てる所がないのである。
 
……闇に紛れて、近所の公園に埋めに行く、という選択肢が、脳内をかすめたのを白状しておく……。
しかし、ここは都内の住宅街だ。発覚すればご近所トラブル必須である。理性で踏みとどまり、捨て方を調べる。
 
何ということだ……。
 
調べて驚いた。自治体により多少の差異はあるが、土は「自然物」でありゴミではないので、基本的には捨てられないのだ。
ホームセンターの引き取りサービスや、不用品回収業者に引き取って貰う、などの対処法を見て、泡を吹きかける。かろうじて、端っこに書かれていた「少量なら燃えるゴミとして出せます」という文字を見て息を吹き返し、数週間かけて、ようやく処分することができた。
 
田舎で育った自分にとって、土は自然のものであり、どこにでもあるものだった。マンションで土を処分するのが、こんなにも大変だったとは……。
そして、植物は「だんだん大きくなる」のだ。来年以降、更に大量の土をどうにかしなければならない。気が遠くなってきた。
 
 
そんなある時、盆栽を始めることにした。
もともと日本文化が好きで、園芸もできるし、一石二鳥じゃないか、と気楽に始めたのだが、ここで思わぬ目から鱗を落とすことになったのである。
 
そもそも、普通の園芸と盆栽の違いもあまりわかってなかった私に、先生は優しく説明してくれる。
「盆栽では、毎年の植え替えが必要ですが、前の鉢と同じ大きさか、それより小さな鉢に植え替えます」
耳を疑った。
園芸界では「ひとまわり大きな鉢に」がセオリーだ。小さい鉢って、どういうこと??
「そのために、植え替えでは根の剪定を行います」
ますます驚いた。植え替えの時に「根を切らないように」はこれも園芸の決まり文句である。根を切るとは……。
 
どうやら、こういうことらしい。
盆栽は、平たく言うと「巨木のミニチュア」である。木を成長させて、枝や幹を太くしていきながら、同時に剪定を行って、大きさは維持、もしくは小さくしていくのだ。
地上部が小さいと、必要な水分も少なくてすむ。そのため、地下部である根を切って、より小さな鉢に植えることが可能なのだ。
むしろ、根を切って小さな鉢に植えた方が、植物も控えめに小さな葉を出すため、より「ミニチュア感」が増して盆栽らしくなる、と言うのである。
 
盆栽は、大きくならないのである。
大量の土がいらないのである……!
 
土が少ししか必要ない、なんて、狭い日本にピッタリの園芸ではないか。
そして、こんなミニサイズでも、芽吹き、花をつけ、実をつけ、紅葉し、落葉してまた、翌年を迎えるのだ。少量の土にも関わらず、何年も育てられるのである。
 
 
盆栽の魅力を伝えよ、と言われたら、今こそ、植物やガーデニングが好きなのに、マンション暮らしで涙を呑んでいる同士に、声を大にして伝えたい。
 
盆栽はどんどん小さくなるから、大量の土がなくても楽しめるよ……!!
 
 
 
なお、困った点としては、盆栽を始めると、なぜか鉢の数が増えていく、と言う現象も発生するので、注意されたい。
盆栽はどんどん小さくなるが、同時にどんどん増えるのである。
我が家は現在、20鉢から更に増殖中である。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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