創英角ポップ体がダサいと知った夜について語りたい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミNEO)
皆さんは「テストプレイなんてしてないよ」というカードゲームをご存知だろうか?
UNOのようなカードゲームで、大人数でワイワイ遊ぶカードゲームだ。説明書にはこう書かれている。
【商品の説明】
アメリカで大人気の理不尽でおバカなゲームが日本上陸!
ゲームの目的はズバリ「勝利する事」。カードに書かれた「○○すれば勝利する」という条件を満たせば、それでOKです。しかし、なかには「××すれば敗北」するといったカードもあるので要注意。
プレイ人数:2~10人 / プレイ時間:1~5分 / 対象年齢:13歳以上
火曜日と水曜日は面白いテレビがないからと、小学生になった子どもたちと一緒に夕食後にカードゲームをするのが我が家の習慣になって早2年。ロフトに行くと、ついカードゲーム棚を物色してしまう。
子ども達とのカードゲーム時間は意外に楽しく、ハイボール片手に酔っ払いながら単純なルールのカードゲームを本気で楽しむエンターテイメントと化していた。小学校高学年ともなると大人と対等に戦える頭脳が出来上がってきているので、大人も本気で戦う。大人は大人で酔っ払っているから、小学生と戦うには丁度いい感じのハンデも自然に与えられる。
微妙なバランスが相まって火曜日と水曜日は家族でカードゲーム大会が定番となった。
そんな中、運命的に出会ったのが「テストプレイなんてしてないよ」だ。
手のひらサイズのコンパクトな白い箱に、黒字のシンプルパッケージ。余計な装飾がないパッケージに惹かれた。「とってもバカバカしいけどやめられない! 面白いもの大好き2~10人用カードゲーム」と黒字で書かれたシンプルな商品説明も面白そうだった。
そうして、私は悪魔に誘われるように「テストプレイなんてしてないよ」を手に入れた。そう、それが悲劇の始まりとも知らずに……。
…… その夜 ……
宮村家カードゲーム大会は開催された。参加者は小学5年生の娘、小学4年生の息子と夫、そして私の合計4人。BGMはVaundyの「踊り子」をチョイスした。
「テストプレイなんてしてないよ」では、まず、手札を2枚ずつくばり順番に山札を取っていく。そして、自分の番に手持ちのカードを使うというシンプルなルールだ。
「新しいゲーム!? やったーっ! 僕、配るね!」
ムードメーカーの息子が喜々としてカードを配り、プレイ開始。
「じゃあ、僕の番ね」
一巡目、一人目のプレイヤーとなった息子は、ニヤリと笑ってカードを出した。
「……はい! 僕の勝ち!」
「えぇー!? どういうこと?」
蜂の巣をつついたように騒ぐ私達を後目に、ドヤ顔の息子がカードを指差した。
「ほら、カード読んでみて」
しっかり者の娘が、信じられないといった顔でカードを読み上げた。
『勝利! すべてのプレーヤーの中で最も背が低かった場合、あなたは即座に勝利する』
カードに書かれた勝利条件を読んだ私達は絶句した。なるほど、こういうゲームか! ドヤ顔の息子を尻目に、敗者である私達は「テストプレイなんてしてないよ」のゲームスタイルを全員が理解した。
「テストプレイなんてしてないよ」は、早い話が超絶理不尽な運ゲーカードゲームだった。タイトルの通り、テストプレイをしたら理不尽過ぎるだろ! と弾かれるような適当なカードばかりで構成されているのだ。が、プレイしてみると存外に楽しくカードゲーム大会は大変盛り上がった。
そんな盛り上がり度マックスで迎えた最終戦。悲劇は起こった。
『創英角POP体:自分の前にこのカードを置く。すべてのプレイヤーはカードをプレイする前に「創英角POP体最高」と言わなくてはならない。言わなかった場合は敗北する。そう、これは邪悪なカードだ』
「創英角POP体」という言葉を初めて目にする子ども達は、早口言葉のようにスムーズに「創英角POP体」と言えない状態に盛り上がっている。
「そう、えいきゃく、ポップたい! あー、間違えた!」
ゲラゲラ笑いながら子ども達が叫ぶと。負けじとハイボール2本目に突入した大人も叫ぶ。酔いも相まって「創英角POP体最高」と連呼するだけでお腹がよじれるほど笑えた。
「でも、なんで創英角POP体なんだろうね」
カードゲーム大会を終え子ども達が寝室に入った後、Vaundyの「踊り子」のPVを見ながら私はふと疑問を口にした。
菅田将暉の嫁が古い遊園地にあるクルクル回る空中ブランコに乗り、妖艶に微笑むPVが私の最近のお気に入りなのだ。
「創英角POP体がダサいからやで」
日本酒を飲みながら、SEの夫が答えた。
……ほう。
「企業のおっさん達が、好んで多用するんだよね。強調したいのか何なのか解んないけど、仕様書とかに創英角POP体とか使ってくるんだよね」
「えっ、あかんの?」
「創英角POP体って、ポップ広告とかに使う文字やからな。インパクトのある文字ではあるけど、それをプレゼン資料とかで使われると見ずらっ! ってなるよな。おっさんくさいし、ダサいよね。資料作成はさ、やっぱり癖がなくて読みやすいゴシック体だよね」
「そうなんや……」
日本酒のおかげで珍しく冗舌な夫の話を聞きながら、私の心のバロメーターは急降下していった。
「ほら、見てみ。Google様に創英角POP体って打ち込むだけで『ダサい』って出てくるで。ほらほら、『創英角POP体は本当にダサいのか考えてみた』って記事が出てきた。ね、やっぱダサいんだよ。やっぱ今の時代はさ、グーグルフォントですよ。ほら見て、Noto Sans。美しいね、最高だね。昔はさ、フォントっていう……データを買う時代でさ……。だからさ……、何々でさ……。云々かんぬん……。」
夫は絶好調だ。ダイニングテーブル横に置いているPC画面にGoogleフォントを映し出し、Googleフォントがどれだけ素晴らしいシステムかを語り始めたが私の耳には入って来なかった。
なるほど。「創鋭角POP体最高」という言葉は、言葉とは裏腹に創鋭角POP体をディスっているカードだったのか……。
「私さ……、プレゼン資料とか創英角POP体で作ってるねん……」
私は焼酎の水割りを飲みながら、ボソッと呟いた。
「えっ……」
機嫌よく喋っていた夫の口が止まった。
一呼吸置いて、私の目をジッと見つめながら夫は真顔で応えた。
「あー。それは……ダサいな」
やっぱり……。やっぱり、そうなのか。
うおおおぉー! やっぱりか! やっぱりダサいのか!
人様の前でプレゼンするようになって10年以上の月日が経つけど、めっちゃ創英角ポップ体使ってるよ! なんなら、ゴシック体とか平凡よね、やっぱ創英角ポップ体くらいインパクトがないとね。とか、思ってたよ! 恥ずかしいーーーーーっ!!!!! 恥ずかしすぎる!
菅田将暉の嫁が、真っ赤な唇で「ダサいね、ダサいね」と囁いてるようにさえ思えてきた。マジか……。
「うん、それはヤバい。間違いなく黒歴史やな」
そんな私を見て、夫はここぞとばかりにゲラゲラ笑いながら追い打ちをかける。
そうか……、そうなのか。創英角ポップ体ってダサかったのね。
フォントにもTPOがあったのね。入学式に水着を着て行かないように、プレゼン資料に創英角POP体はご法度だったのね。
丸っとしたフォルムが可愛くて私は大好きだったけど……文字にも適材適所ってものがあるのだと知った夜だった。
そして、私は黒歴史を洗い流すように濃いめの焼酎の水割りをガブガブ飲んだ。
黒霧島で作った水割りは少ししょっぱかった。
さよなら、創英角POP体! 大好きだけど今後はプレゼン資料には使わないからね!
***
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