花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:草間咲穂(ライティング・ゼミNEO)
約束の日は、リネンのノースリーブのワンピースを着ていても
暑くて暑くてしかたない程、照り返していた。
宛てもなく散歩をしよう、そう言って辿り着いたのは、
俵万智の回顧展だった。
「なんだか面白そうだね、入ってみようか」
「面白そうだね、でも短歌ってなんだっけ」
俵万智、
軽やかな口語調で日常を詠(うた)い、短歌を身近な存在にしてきた歌人。
短歌、
5・7・5・7・7のリズムで作る短い詩。
すぐさま携帯で検索して出てきた解説に、
「あぁ、そうだった!」
とピンとこないほど、あまり身近になかったような気がした。
でも、暑くて仕方ない日にあてもなく歩いた先にあった涼しげな会場へは、
入らない選択肢はなかった。
手を繋ぎながら館内に進むと、目の前に広がったのは壁一面に書かれた言葉の数々だった。
「ほんとだ、5・7・5・7・7だね」
高い天井まで突き抜ける柱に大きく書かれているもの、
床に書かれているもの、会場は沢山の言葉で埋め尽くされていた。
中にはどこで読んだか思い出せないけれど、「あ、知ってる!」という作品もあった。
私たちは静かな会場を、ゆっくりと歩きながら、黙ったまま、それぞれが目の前の短歌を眺めていた。
手の先から伝わる、「もう次に行こうか」という合図をお互いに静かに感じ取りながら、
次の壁へと足を進めていった。
言葉を交わさなくてもいい。
目の前の言葉を前にしながら、言葉のない手から伝わる感覚の方に心を奪われていた。
しばらく進んでいると、手が壁の正面に引っ張られる感覚があった。
壁に真正面を向いて横並びになった時、目の前にあったのは
”はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり”
という短歌だった。
なぜか、他の短歌とは違う感覚があった。とても惹かれた。
そして思わず聞いた。
「光と闇、どっち?」
少し時間をかけて、こう返ってきた。
「うーん、光かな」
「なんでそう思うの?」
「だって、花火って綺麗だから」
その時、とても彼らしいと思った。
彼の目は、真っ直ぐ壁を向いていて、その先には花火を見ているようだった。
その言葉を聞いたとき、私の頭に瞬時にして頭の中に浮かんだ情景があった。
それは、花火が打ち上がった時に放つ光が照らす、その人の横顔だった。
光と闇は対照の言葉ではなく、私は「暗闇」を思い描いていた。
今日の様な暑い夏の日、
「暗闇」の中で、花火が上がった瞬間だけ、私たちを「光」が照らす。
その瞬間に、真っ直ぐに花火を見つめるとても綺麗で愛おしい
横顔を私は見ている、そんな情景だった。
他の全員の視線が花火を向いていても、
私だけが45度、角度を変えて花火ではなくその人を見ている。
そんな風景が一瞬にして私の頭の中には描かれていた。
「どっち?」
そう聞かれて、そのまま答えると、
「でも花火って少し寂しくなるかも。
心の中の闇は少し感じるかもしれない」
そう返ってきた。
そして、
「面白いね、同じ言葉を読んでも、違うんだね。さっきの咲穂らしいね。」
と言った。
私もそう思った。とても面白いと思った。
違う、ということは一つも寂しさにつながらなかった。
私はその人を見て、彼は真っ直ぐに花火を見ている。
その構図は、とても私たちを描いていると思ったし、だからとても楽しいんだと思った。
同じ言葉を読んでも、感じることが違う、思い描くことがちがう、解釈が違う。
そしてそれを互いに素直に伝え合うことができる相手がいる。
とても面白いことだと心から思った。
その後、また壁から壁へ、膨大に展示されている短歌の数々について話しながら進んだ。
とても、とても贅沢に感じた。
どんなに高級な食事に行くよりも、どんなに高いプレゼントもらうよりも幸せだと思った。
同じ言葉を目の前に、どう捉えたか話すこと、違いを知ること、同じであることを知ることは何にも変え難い嬉しい気持ちをもたらしてくれることを知った。心から充足を感じていた。
そして、お互いにそう思っているとも話した。
もともと、色々なことを話すことは好きな二人だったけれど、
この”短歌”という偶然の出会いがきっかけで、より話すようになった様にも思う。
同じ本を読み、違う本を読み、時には映画を観て、互いに何を思ったか、感じたか伝え合う。
それはとても幸せな時間だとより感じるようになった。
その感覚についても話した。私はなぜそう感じたのか、聞こうと思うようになった。
話すことでより向き合いたい、知りたい、という感覚をより強く持つようになった。
あの夏の暑い日に偶然でった一つの短歌は、
私にとって、私たちにとっても大きなきっかけになった。
そして、言葉を使って生きている私たちの無限に拡がる可能性を感じた。
この出来事は、天狼院書店に入るずっと前のことだ。
そして天狼院書店に入って、数ヶ月過ごす中で今感じていること。
それは改めて、私たちは言葉を使って生きている、ということ。
言葉の無限に拡がる可能性。
天狼院書店はあらゆる角度から言葉に向き合う機会がある。
お客様に対してもその可能性を提供していると感じる。
毎週書くようになった今より感じる。
今この文章を書きながらそんな記憶がふと蘇った。
《終わり》
***
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