デートの前に狙撃しないでくださいお願いしますこの通りです
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:光山ミツロウ(ライティング・ゼミNEO)
「うわぁ、またですか……お願いですから、もう勘弁してください」
目の前の惨状に、私は心底ウンザリしていた。
今週だけですでに3回目だった。
なぜ私だけが、こんなひどい仕打ちを受けなければならないのか。
私がいったい彼らに何をしたというのか。
こんなひどいことを、何度も何度も、しかも私だけを狙ったみたいな姑息な手口でやるなんて……。
このひとでなし!
私は心の中でそう叫び、地団駄を踏んだ。
ついさっき、玄関を出た時は最高の気分だった。
初夏の爽やかな晴天で暑からず寒からず、ドライブデートにはもってこいの日和だった。
もうウキウキだった。
海沿いの道を彼女と、そして太陽と一緒に、ドヤ顔をする等して調子にのって駆け抜けたいと思っていた。
それがどうですか。
一体これは何なんですか。
私の車のフロントガラスに起こっている惨状を前に、私の心には一瞬で暗雲が立ち込めた。
何でこんなに私ばかりが狙い撃ちされるのか。
しかも狙い撃ちしてくる彼らはその瞬間にはほぼ姿を現さない。
一瞬その姿が見えたかと思ったら、次の瞬間には消えていることも多々ある。
先月などは、高速道路を時速100kmほどで走っていたのにも関わらず、狙い撃ちされた。
千歩譲って停まっている時ならいざ知らず、高速移動している時でさえ私の車を狙い撃ちし、見事に仕留めるってどんなスキルなんですか、と。
あと、どんな怨念なんですか、と。
そうか。
彼らは基本的にしゃべらないし、だいたい無表情。
性格はよく知らないが、おそらく腹黒だろうし、ムカつくことに賢そうでもある。
これらの手口といいキャラクターといい、どちらもゴルゴ13のそれではないか。
彼らはゴルゴ13の愛読者なのか。
「人生で最も影響を受けた人物は、そうゴルゴ13です」とか、いけしゃあしゃあと面接で言ったりしてるのか。
字も読めないくせに!
そもそも就職とかする気のない生粋のフリーランスのくせに!
私はだんだん腹が立ってきた。
ちなみにゴルゴ13(ゴルゴサーティーン)とは、さいとう・たかを氏による漫画作品のことで、デューク東郷という武骨で無口な凄腕スナイパー(暗殺の依頼を受けて狙撃銃で実行する人)の活躍を描いたハードボイルドな物語のことである。
ゴルゴ13という言葉それ自体は、デューク東郷のコードネーム(ざっくり言うとあだ名)のことだ。
私の車をこんな残念な姿にした彼らは、狙った獲物は絶対に逃さないという信念を持つゴルゴ13の影響を受けているのか。
何かムカつく!
腹黒そうなのに、賢そうな雰囲気だすのもムカつく!
燦燦と降り注ぐ陽光の下で、私の怒りはいや増しに増した。
暗雲は雷雲と化していた。
こんなことがいつまで続くのだろうと思った。
人生において何回狙撃されれば許してもらえるのか。
思えば人生で最初に狙撃されたのはいつだったか。
確か高校の頃だった。
学校帰りに2人の友人と私とで、バカ話をしながら人通りの多い街中を歩いていた時のことだ。
急に友人のうちの一人が飛び上がって私から距離を取り、私の腹部を指さしながら、人を見下したような奇声を発した。
「うわぁ、光山お前っ! きったねぇ! ぎゃはははは!」
そのあまりの驚きように、周囲にいた街の人たちも何ごとかと、私に視線を向けた。
「は?」と私。
横にいた友人が急に、しかも奇声を発しながら飛び上がるようにして動いたものだから、私は彼がとうとう気が違ったのかと思った(その兆候のある友人だった)。
が、そうではなかった。
何のことはない、私が狙撃されていたのだった。
友人が指さした先、つまり私の制服シャツの腹部には、こげ茶色をベースとして、白だの黒だの緑だの、良く分からない気色の悪い物体が混じっているペースト状のものがべっとりと付着していたのだった。
白い制服シャツに手のひら大に飛散した気色の悪いものをこの目でみた瞬間は、一体何が起こったのか分からなかった。
思えばこの時から、彼らは狙撃されたことさえ本人に気づかせない巧妙な狙撃スキルを持ち合わせていたのだ。
ほどなくして、頭上から聞こえてくるふざけきった鳴き声で私は全てを理解した。
「カァ~カァ~カァ~」
あなたみたいな間抜けな人間を小バカにするのが唯一の楽しみなんですよ私、ぎゃははは……そんな明確な意思を含んだ鳴き声だった。
人生における狙撃の初体験は、そこからさらに苦々しいものとなった。
というのも、状況を理解し、恥ずかしさで固まっている私の横には、腹を抱え、あろうことか目に涙を浮かべてまで爆笑している友人が2人。
「やばいんだけど! きったねぇからこっちくるな! ぎゃはははは!」
「うぇっ! 直撃じゃん! 何で3人いてお前だけなのよ! ぎゃはははは!」
さらには近くにいた買い物帰りと思しき主婦、他校の女子生徒、暇そうな御老人等、ことの次第を理解しはじめた周りのオーディエンスも、次第に私に好奇の目を向け始めていたのだった。
図らずも私を中心にした半径5メートルくらいの人々が、この出来事を前に私がどういうリアクションを取るのか、次にどんな言葉を発するのか、固唾を飲んで見守っているような、そんな錯覚を覚えた。
シーンと静まり返った劇場の舞台で、ひとり気色の悪いペースト状のものにまみれた私の、次のセリフを聞き逃すまいと、友人、主婦、女子高生、老人、その他街の人々数名が、客席から固唾を飲んで私を凝視していたのであった。
私は口を開いた。
「うるせぇなぁ、運(ウン)が良いってことでしょ!」
本意ではなかった。
しかし、気が動転していた私は、こういった状況で良く聞く、何のひねりもない常套句を発するくらいしかできなかったのも事実だった。
観客のガッカリ感がひしひしと伝わってきた。
ボケてもないのにスベッたような気分だった。
私は、晴天の駐車場で、自分の車のフロントガラスに盛大に付着したペースト状のものを処理しながら、当時の気持ちを思い出し、土砂降りの気分になっていた。
この初体験以来、私はことあるごとに狙撃されてきたのだった。
特に車を運転するようになってからは狙撃の回数も顕著になった。
多い時など月に10回は狙撃されている。
処理の手際が年々上達している自分にも嫌気がさすというものだ。
どうして私の車だけこんなに狙撃されるのか。
もしかしたら、車の色が関係しているのかもしれないと思い、すぐにスマホで調べてみた。
もし自分の車の色が狙撃されやすい色の筆頭であれば、納得感と共に、この土砂降りの気持ちも少しは晴れる気がしたからだ。
するとイギリスの自動車用品小売店であるハルフォード社という企業が、鳥にフンを落とされやすい車の色を調査したデータに行き当たった。
調査結果は、赤、青、黒の順に鳥のフンが落ちやすいとのことだった。
結果を知った私の土砂降り気分は、晴れるどころか雨脚が増し、次第に暴風雨となった。
デートの出鼻をくじかれた怒りと共に、なんで? というやるせない気持ちだけが残った。
こんなことなら調べなきゃよかった、とも思った。
私の車の色は、あの時の制服シャツ同じ、白だった。
***
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