メディアグランプリ

19歳まで生きた愛犬、大五郎君との日々。

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記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
夕飯を食べ終えて、弟の興・オキと居間でゴロゴロとしていた時、父が帰宅した。
いつもは夕飯を一緒に食べるのに、少し遅い帰宅だった。
「ただいま」と言いながら、背中に隠していた何かを、弟と私の前に置いた。
 
「わー! 可愛い!」二人で歓声を挙げた。
 
足が短くて、元気いっぱいの子犬だ。つぶらな瞳がたまらなく可愛い。
「興が選んだ犬だよ。今日もらってきたんだ。」
名前は「大五郎」、弟が決めていた。
 
今から30年ほど前、私は中学2年生、弟は小学校6年生の時である。
 
「責任を持って育てるんだぞ。命なんだからな。」
犬を飼うことを決断した弟と私は、「大五郎を死ぬまで大切にします。台・興」と、父の前で誓約書を書いた。
 
大五郎はとてもやんちゃだった。
家にやってきたその日は、座布団の角をカミカミしてしまうは、カーペットの上で阻喪はするはで、父にひどく叱られた。
散歩となると、ぐいぐいと飼い主を引っ張って走りまくる。
一緒に遊んで、興奮が過ぎると、必ずと言っていいほど、手には嚙み痕が残っていた。
そんな元気いっぱいの大五郎も、「おすわり」「おて」「マテ」は覚えてくれた。
ある雪の日、嬉しさが抑えきれなかったのだろう、自分の胴輪を噛みちぎり、散々近所を走り回ったようだった。朝起きると、庭には大五郎の足跡があちこちに残り、大五郎はスッキリした表情で、スッと、窓の外に座っていた。
 
周りを山と川に囲まれた我が家では、いろんな生き物が現れた。庭にいる大五郎が鳴きやまない時は、仲間が傍に佇んでいた。夜中、様子を見に行くことも多々あった。猫はまだよい。人が近づけば、サッと逃げてくれる。大変なのは、ウシガエルだ。近くに寄りたいが、寄り付けない。声を出してみたり、小石を近くに投げてみても、少しも動かない。遂に弟は、魚採り網で、ひょいとすくい上げて、裏の川にボチャン! と返すのだった。
 
心が痛くなるのだが、大五郎にイタズラをしてしまったこともある。
小さな頃に、ダンボールをかぶせてしまったのだ。
ダンボールから出たくて、出たくて、ダンボールの中を走り回っていたのだが、私と弟は、笑ってそれを見ていたのだ。
 
「何をしているの!そんなヒドイことを! やめなさい!」母にひどく叱られた。「ごめんね。ごめんね。」大五郎に何度も謝ったことを、今でも鮮明に覚えている。
 
大学生となり、友人や彼氏との時間が増えた私は、自分が行くと決めていた夜のお散歩をドタキャンしてしまったことがある。
「何考えてんだよ! 大五郎が可哀そうじゃねぇかよ!」弟にきつく叱られた。
 
飼い主としては半人前の烙印を押されても仕方のない私だったが、母や弟に正してもらい、何とか一緒に過ごさせて貰ったのだ。
 
こんな頼りのない飼い主でも、両親とけんかをして落ち込んでいた時、バスケの試合でぼろ負けして、悔しくてたまらない時、大五郎の近くに行くと、そっと寄ってきてくれた。
そして、時に涙と鼻水まみれの顔をクンクンとしてくれたり、優しく手元や顔をペロペロとしてくれるのだった。
 
何度、支えてもらったか分からない。
 
大学卒業後に、就職で実家を離れることになった。
大五郎とお別れの日は、寂しくてたまらなかった。
弟と母にお散歩、お世話をお願いして、私は福岡へ引っ越しをした。
 
その数年後、弟は結婚することになった。
大五郎の世話は、母が一手に引き受けることとなった。
 
15歳くらいになると、足が弱くなり、お散歩も大分ゆっくりになっていた。
18歳の頃には、片目が見えなくなり、排せつも立ったままでは難しくなっていた。
「1~2歳用の赤ちゃん用の紙おむつに、しっぽ穴を開けると、大五郎にピッタリなの!」
老犬のお世話は大変なはずなのに、母は明るく話してくれた。
 
だんだんと痩せていく様子は、母が送ってくれる写真から感じられた。
 
「食欲が無いの。そろそろかもしれない。」母が電話でそう言った。
大五郎が19歳と半年の頃。10月中旬のことだった。
私は10月末の帰省を決めていた。
実家に帰ると、大五郎の体は半分ほどの大きさになり、ゆっくりと、深い呼吸をしていた。
「大五郎、ただいま!」そう言うと、大五郎はこっくり、こっくりと頷くような動きで返してくれた。思わず、顔を近づけて、「ありがとうね。ありがとうね。」と繰り返し伝えた。
大五郎はまたも、こっくり、こっくりと首を縦に動かして、答えてくれるのだった。
 
翌朝、目が覚めると、大五郎が動かなくなっていた。
「お母さん。大五郎が旅立ったよ。冷たくなっているの。」
 
母は、「台ちゃん、もう少しで帰ってくるからね。大五郎、頑張るのよ。」何度も、そう伝えてくれていたことを、その時に話してくれた。
「待っていてくれたんだね。頑張ってくれたんだね。」涙が止まらなかった。
 
大五郎との時間は、今でも忘れることのできない、かけがえのない思い出だ。
 
飼うことを許してくれた父、責任感の無い私を正してくれた弟、最後まで懸命に、温かく世話をしてくれた母。家族皆のおかげである。
 
心を通わせてくれた大五郎、それを支えてくれた家族に、改めて「ありがとう」を言いたい。
一緒に過ごせた時間は、私の一生の宝物である。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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