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アフタヌーンティーは姉妹喧嘩の味


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上田聡代(スピード・ライティング特講)
 
 
「なあ、あの時、なにが嫌やったん?」
和やかなテーブルにアフタヌーンティーが運ばれてきた。その瞬間、記憶力の悪い私の脳裏に、あの日が蘇り無意識に出た言葉だった。
 
地上34階、高級ホテルラウンジ。見晴らしが良く、大きなガラス窓から下を覗いてみると、模型のような電車が走っている。都会の真ん中なのに、静かな音楽が流れる贅沢な時間。
77歳になる母の誕生日。遠く離れている3姉妹が相談し、喜寿のお祝いなので贅沢をしようと集まった。忙しい日常から解放された私たちは笑顔になった。母も嬉しそう。
 
そんな和やかな空気を、一気に乱してしまった私の言葉の理由は……
 
1995年。カナダのバンクーバーに在住していた姉の出産。初めての甥っ子に会えることが楽しみで、これまでにないワクワク気分で日本を出発した。
 
その頃、アメリカのミネソタ州に留学していた妹と連絡を取り、せっかくの機会なので3姉妹で集合することにした。数年ぶりに会った妹は、棘があるように感じた。しかし、生まれたばかりの可愛い甥っ子のおかげで、私たちは笑いが絶えない時間を過ごしていた。
 
数日過ぎて、「せっかく遠くから来たのだし、どこか観光に行って来たら?」と姉が提案してくれた。生まれたばかりの甥っ子がいるため、外出できない姉はお留守番。妹と2人でカナダのビクトリアを訪れることにした。
 
フェリーに乗って出発。気持ちの良い風に吹かれながらの写真撮影。英語ができない私も、その日は妹が一緒だったので安心。
ビクトリアに到着。観光地になっているので、迷子になることはなかった。色鮮やかな花々に囲まれた英国風の街並み。「花の都」と呼ばれる意味が十分理解できた。花に興味があるわけではなかった当時の私でさえ、心躍らせながら歩いていた。
 
そして、ビクトリアといえば、エンプレスホテルのアフタヌーンティー! 英国の伝統あるティーは贅沢ですが、「一度は訪れたい場所」として有名。アフタヌーンティーは、今でこそ日本でも珍しくないが、当時の私にとっては、想像の中にある特別なものだった。食べることもロマンチックな雰囲気も好きな私は、花よりこれがお目当て!
 
宮殿のようなホテルの外観で、写真撮影を楽しみながら仲良くおしゃべりしていた私たち。入口に立ててあったメニューを見て……
はっきりと覚えていないが、30ドルだったか50ドルだったか? 「高いな」と感じたことは覚えている。しかし、観光地で有名なホテルなので、私の中では想定内の値段だった。戸惑うことなく、入店の順番を待つ列の最後尾についた。
 
「高いわ。もったいない。私はいらん」と、突然妹が怒った口調で言ったのだ。数分前まで笑顔で写真撮影していた妹とは別人。切り詰めた留学生活をしていた妹にとって、大きな金額だったことはすぐに察しがついた。私は、社会人になり働いていたので、「おごったるよ。せっかく来たし食べようよ」と優しく誘った。
 
ところが、「いらん。食べたくない」
何とかなだめようと、「アフタヌーンティーって、どんなんか食べたいわ。」と言う私に向かって、「1人で食べてきたらいいやん!」
 
ここで私の怒りスイッチが入った。1人で食べてきたらという言葉。英語ができない私に向かって放つ言葉だろうか! 外国のホテルに一人で並んで行けって、それは最大限の意地悪に感じたのだ。
 
一人ではいけない自分に腹がたっていたのかもしれない。妹の言い方に腹がたっていたのかもしれない。その後、2人にどのような会話があったのかは、全く記憶にない。
ところが、テーブルについている写真が残っているので、食べたのだろう。一人の写真だったし、妹の写真は残っていないので真実はわからないけれど……
 
ここのアフタヌーンティーは、「一度味わったら、また戻ってきたくなるくらい幸福になれる」と言われているが、喧嘩したことしか記憶にない。
バンクーバーに戻り、妹が出発するまで、二人の間には険悪な空気が流れていた。その空気は、可愛い甥っ子でさえ、変えることができなかった。
 
それから19年。日本でもアフタヌーンティーは、ポピュラーになっていた。贅沢だけれど、私も友人と何度か楽しむことができるものだった。
母を囲んで和やかなテーブルに運ばれてきたのが、アフタヌーンティーだった。これは、ホテルのサービスだったので、私たちは誰も知らなかったのだ。
 
さて、冒頭の言葉に戻る。
「なぁ、あの時なにが嫌やったん?」
 
「高かったんや」と不愛想な妹。
「いや、だからお金出せって言うてないやん。一緒に食べよ言うただけやのに」と、ちょっと意地悪な口調になっていた私。
 
「あのな、どんだけ貧乏生活やったか知らんやろ!」と口調が激しくなる。
「アフタヌーンティーが嫌いなんやと思ってたわ」と私も負けていない。
「おごってくれるんやったら、そのお金がほしかったんや!」またもや妹が怒り出した。
なだめようとする母。話を逸らす姉。だが、無駄だった。
 
私たちふたりは、無言のままアフタヌーンティーを平らげた。
 
またやってしまった……
どうやって食べたかも、美味しかったのか、どんな気分だったのか、何にも覚えていない。しかし、19年という時間に成長した私たちは、部屋に戻った時には、何事もなかったように仲良く話していた。母と姉を部屋に置き、2人でプールに泳ぎに行けたことは、あの時とは違う。
 
妹と私。仲の良い姉妹と言われる。頼って頼られる存在。
ただ、どうもアフタヌーンティーは元凶のようだ。
 
いつかまた、一緒に食べたい。
3度目の正直で、次こそは笑って味わいたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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