メディアグランプリ

拾って食べると子どもが育つ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:桐渕 真人(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
私は子供と一緒に、そこら辺で拾ったものを食べる。
海、山、川はもちろん、東京の都心部で、拾う。
胸を張って、豊かで贅沢なライフスタイルだと自負している。
活動の中で、子どもたちに生きる上で伝えたい本質がそこにあると、勝手に信じている。
 
例えば、最近でいうと4月初旬。
まだ長袖の上着が手放せない頃。
私達はイチョウの街路樹を見かけると、その根本をくまなく調べる時期。
 
モリーユ茸(標準和名:アミガサタケ)が採れるからだ。
フランスではとてもメジャーな高級きのこで、現地でも生だと一本3,000円程度で販売されているらしい(フランス在住の親戚に話すと大興奮だ)。
値段はさておき。たっぷりのオリーブオイルでじっくりと、出汁がオリーブオイルに移るようにイメージしながら炒め、少量生クリームを加えてパスタにからめれば、他では替えられない香りと旨みの塊が生成できる。家族からの絶賛をもらい、オレは天才に違いないと自己肯定感はストップ高になる。
 
そんな素晴らしい食材が、ここ日本にも生えてくる、どころか我々がこれを採取するのは都内の公園だ。
都心部でも条件が揃えば彼らは気軽に出てくるし、街路樹の周りにもときどき顔を出す。
良いときは半日遊んで数十本、市場価格で数万円分拾えたりする。
しかし、みんな知らないので誰も取らないし、存在すら認識されていない。
不思議なもので、人間は興味のないと、そこに異様な存在感を放つ異物が見えないのだ。
大概放置されてデロデロに腐ったり昆虫の餌食になっている。
 
一方
「危ないよ!」
「毒キノコと間違えたらどうするんだ。毎年何人も中毒のニュースが流れるじゃないか」
この話をすると、知識のない人にはほぼ100%言われる。
 
もちろん私は何万種類とあるきのこの全てを判別できるわけではない。
しかし、これは間違いなくその種類であると「同定」できる”持ちきのこ”が数十種類ある。モリーユの仲間、ポルチーニの仲間、トリュフの仲間などはそれにあたる(すべて日本で、その辺で採れる)。
きのこを安全に楽しもうと思ったら、似た毒キノコがある種、自信を持って判別できない種が目の前にあっても絶対に手を出さないことだけが重要だ。
私達きのこを嗜む人間にとって、毒キノコで中毒を起こすということは、「判別に自信のないきのこに欲張って手を出した」という不名誉にあたる。
 
ちなみに、きのこ拾いに無関心だった友人たちは、一度でも一緒にモリーユ取りを経験すると、その異様なヴィジュアルを今まで見逃していたことの不思議を認識、4月初旬にイチョウの根元を覗き込む行為が日常生活に加わることになる。
そこら辺で高級食材が、わりと気軽に採取できる体験は、眠っていた狩猟本能が目を覚ますのか、ものすごく楽しいのでハマってしまう。
 
このきのこに限らず、生き物を採取するなら暗黙のルールがある。
採り過ぎるとそのエリアでは絶滅してしまうので、環境にダメージを与えないように量を制限すること。
マイルールは「生えてるものの1/3までOK」。
 
きのこの他にも、身の回りの食材は季節ごとに移り変わっていくのが楽しい。
GW以降は潮干狩りの時期になる。都心部に流れる大河川の河口では、貝やアナジャコがたくさん採れる。とくにシジミは、富栄養化した都市河川が幸いして、スーパーで買ってくるものより旨みが強い。
夏はポルチーニ茸が、どんぐりのまわりにアホほど生えてくる。
川にザブザブ入っていける時期なので、水生生物にも事欠かない。
ただ、やはり乱獲して絶滅させてしまうことを避けるべきなので、私達は減っても困らない生き物を狙う。ブラックバス、アメリカナマズ、ウシガエル、カミツキガメなど外来種はそういう点で狙い目だ。それぞれ法律上生かしたまま持って移動できないので、現場で必ず締めて、血抜きまで終わらせて持ち帰る。
「え? そんなの食べられるの?」と聞かれるが、もともと優秀な食材として日本に持ち込まれたものなので、質・量ともに優秀。ウシガエル、カミツキガメは特に上品かつ旨みが強烈だし、他で代えがたいので、誰かスーパーで販売してくれないかな、といつも思う。
 
そんなこんなで、1年のスケジュールがだいたい埋まっていく。
この活動を、子どもたちと一緒にしていてとても良いと思うのは、命をいただいている実感があることだ。
 
きのこや植物は、何もなかった地面から一生懸命生えてきたものを刈り取るし、魚や動物は元気に目の前で泳いでいたものを、獲ったその場で急所にナイフを刺して即死させる。
子どもたちは誰に教わるでもなく、殺した命を無駄に捨ててはいけないこと、食べる分以上に採ってはいけないことを感じ、「いただきます」の意味が命に対する感謝であることを説明できるようになる。
 
スーパーのパックに入っていて、お金を払えば何でも気軽に買える環境の中でも、生きるためには他の生命をもらう、という本質を忘れてしまうことが、食品ロスや環境問題の根源にある気がする。
身の回りに自生する食材を狩猟採集する楽しみを覚えると、そして、来年も、ずっと未来も同じ時期にこの命たちに出会えることを楽しみに、環境負荷の低い生活習慣のモチベーションが持てるようになる。
 
活きた情報として命について学べる「拾い食い」を多くの子どもたちに体験させてあげたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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