ペヤング、その開き直り、あるいはそのコペルニクス転回について。
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記事:細井 岳(ライティング・ライブ東京会場)
シンクからベッコンと音がしない。
昔はシンクに湯をかければベッコンと音がしたものだが……などと考えていたら湯切りが終わった。 フタの上で温めておいたソースを脇にのけ、フタをペリリリとはがす。 もうもうと湯気を放つ麺を眺め、 ふくふくとした気持ちになる。 湯気は人を幸せな気持ちにする。 麺が満足いく仕上がり具合であることを認め、 幸せ感は増す。
箸で麺をほぐす。 麺のしたにひいておいたキャベツの仕上がりも確認する。
よろしい。
ソースの小袋を慎重に開ける。 ここで焦ってはいけない、急いては事を仕損じる。 焦って袋を変な感じでさいてしまうと貴重なソースをぶちまけてしまいかねない。 注ぎ口が細くなるように、 慎重かつ繊細に小袋をさく。 ソースが糸のごとく細く出るように小袋の握り具合を調節し、ソースを麺にまんべんなく降り注ぐ。
そうして出来上がったソースの茶色と麺のオフホワイトによる縞々を愛でる。 今、この時しか現れない、束の間の美を。 それを容赦なく箸でグチャグチャに混ぜる。 美しいものをメチャクチャにする。 その暴力的な快楽にうっとりしてしまう。 カップの底にソース溜まりがなくなるまで、しっかりと麺に絡ませる。 最後にふりかけのコショウと青のりの小袋をさき、 ふりかけるのだが、 ここも慎重を期さないとコショウで鼻をヤラレる。 小袋を慎重に切り開き、 ふりかけて、 完成。
堂々たるペヤングソース焼きそばである。
私はペヤングソース焼きそばを愛すものだ。
が、私はペヤングを月に一度しか食べることができない。
二つの問題から、 そのような制限を設けることになった。 一つ目は寄る年波による身体的ダメージ問題。 私はペヤングを食べると十中八九、 体調を崩す。 それまでは朝・昼・晩にペヤングを食しても、 全く問題はなく、 むしろペヤングを食べられた事による精神的充足もあり、 心身ともにスコブル快調なくらいだったのに。 この症状は35歳を過ぎたくらいから認められるようになった。 加齢とは、げに哀しいものだと思う。
二つ目は放屁問題。 こちらも身体的なものだ。 私はペヤングを食べると放屁の頻度が増し、且つ臭くなる。 放屁被害者である家族は以下のように証言する。
父曰く、
「お前の腸は腐っている」
妻曰く、
「この臭いを嗅がされるくらいなら、鼻などいらないとすら思う」
何という酷い言われようだろう。 そこまで悪しざまに言うことはないじゃないか、 僕らは家族だろ? と私は傷ついた。 が、自らの放屁臭をあらためて嗅ぎ、 なるほど家族にそこまで言わせるほどの悪臭だと思った。 しかし、放屁の臭いなんて自分でどうすることも出来ないわけで……そのどうしようもなさと、その悪臭を発してしまう我が身を呪った。 やはり哀しくなった。
そのような訳で、 私自身と家族の為に、 愛してやまないペヤングをひと月に一個までとすることにした。 とてもまっとうな意味においての自粛だと思う。
それまでは食べたいときに、 食べたいだけ、 自由に食べていたペヤングであったけれど、 こうなると否が応でも付き合い方が変わるわけで。 私は月に一度になってしまったペヤングとの逢瀬をより深く楽しむことにした。 冒頭に書いたようにペヤングが出来上がる一連の一挙手一投足を味わうようになったのだ。 そうして、私はペヤングの真の偉大さに気付くことになった。
「やきそばって言うけど、全然焼いてないじゃん」
湯切りの最中に、そう気付いた。盲点だった。あまりに盲点すぎて愕然とした。
私の中でペヤングは「やきそば」という認識だったのだ。 ゆるぎなく「やきそば」だったのだ。 だいたい本人も「ペヤングソースやきそば」って堂々と名乗ってるしね。 焼く工程がないのに「やきそば」と。 なんという開き直りだろうか。 その開き直りに愕然としたのだ。 すごいメンタルだ。 ペヤングにメンタルがあるのか知らんけど。
「カップやきそばなんだから、そんなの当たり前じゃん」と皆さんはおっしゃると思う。
いやしかし、考えてみて欲しい。
「焼いてないのにやきそばって言う?」って、そのツッコミ。
それをペヤングは受け続けてきたはずで。 調べてみたら、 ペヤングは発売されて今年で47周年だそうだ。 実に47年、 開き直り続け、そのツッコミを受け続けてきたというわけ。 それでもなお、 やきそばなのだ。 そして世間にやきそばであると認めさせてしまった。 焼いてないのにやきそば、 このコペルニクス転回。 この事実に思い至った時、 私は本当に感動した。
何の本に書いてあったか忘れてたけれど、座右においてある言葉がある。
「本物は本物であることにあぐらをかくが、 偽物は本物であろうとする分、 そのものの本質に迫るのだ」
極めてペヤング的な言葉と言えよう。焼きそばが本物であるとしたら、ペヤングは「本物の偽物」だ。 なんだか哀しい。 けれど、 その哀しさを乗り越え、 誰に何と言われようともやきそばであろうとし続ける姿は胸を打つものがある。 ペヤングは哀しくも雄々しい。
そんな事を考えて、 今月もペヤングのカップに湯を注ぐのだ。
***
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