ほろ苦い、思い出のアイスラテ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小西 裕美(ライティング・ゼミNEO)
※この記事はフィクションです。
「そういえば先輩、あの可愛い店員さん、今日で卒業らしいですよ!」
「え、まじで!!!」
「はい、昨日仕事終わりに友達と寄ったら、そう言ってました」
後輩がニヤニヤしながら、こっちを見てくる。
そう、俺には癒しの店員さんがいる。
同じテナント内のスターバックスで働いてる子で、休憩中や仕事終わりに寄ると、いつも優しく「おつかれさまです」と声をかけてくれる。
その一言以外に、しゃべったことはないけれど、彼女の控えめな感じと、丁寧に作ってくれるラテがとても好きだ。
たまに、お店をのぞいて彼女がいると、レジに待ち列があっても並んでしまう自分がいた。
これがひと目惚れなのか? と考えて見たが、正直まだそこまでなのかは、わからない。
自分もアパレルで同じ接客業だから、ただの尊敬なのかもしれない。
ただ、このまま終わってしまうのは、何だかなあ、と思う。
今日は遅番だから、お店に行くなら休憩中しかない。
ああ、今日は天気も良いし混んでそうだなあ。
と思っていると、それを見透かしたかのように、
「今日は休憩、長めにとってもらって良いですよ(笑)」と後輩がからかってくる。
「いやいや、ちゃんと帰ってくるから!」と言いながら、猛ダッシュすればいけるかな、と考えている俺がいる。
それにしても、今日はお気に入りの服を着てきて良かった、と思った。
マルジェラの白いTシャツが俺の勝負服だ。
今日はツイてるなあ、と思った瞬間、「は、は、はっくしょん」と大きなくしゃみをしてしまった。
やけに鼻がむずむずする。
花粉症かな?
「お、これは向こうも噂しているんじゃないですか?」
と後輩が相変わらずニヤニヤしながらからかってくる。
休憩時間にお店に行ってみると、予想通りかなり混んでいた。
しょうがないので、最後尾に並ぶ。
レジまで12組ぐらい並んでいる。
やっぱりスタバはすごいな、と思いながら、カウンターの中へ目をやると、彼女はドリンクをつくっている。
お、やった! と思った。
彼女のラテが飲める。
とても忙しいみたいで、彼女はずっと下を見ながらドリンクをつくっている。
こちらには気づきそうもない。
どんなときでも、ひとつひとつ丁寧に作業するところがいいな、と思う。
彼女を見つめていると、突然さらりとしたものが鼻の奥をつたった。
なんだ、この感覚?
そっと指を鼻の下に当てると、まさかの鼻血だ。
え、まじで!??
このタイミングで!??
鼻の下をさっと拭い、鼻の上をぐっと掴んで上をむく。
お願いだから、これで止まってくれ・・・!
そう静かに並んでいると、前から店員さんがやってくる。
「こんにちは! よかったら、お待ちの間にメニューをご覧になられますか?」
いやあ、俺はいいかな、ラテって決まってるし。
と思ったが、鼻の上を掴みながら断るのも何だか変かな、と思い、とりあえず無言でメニューを受け取った。
お願いだから、いま俺に下を向かせないでくれ!!!
すると、また前から店員さんがやってくる。
今度は何だ!
「もし、お飲み物がお決まりでしたら、先にお伺いいたします」
そ、そうきたか。
ラテとだけ伝えればいいから、それぐらいだったら耐えれそうだな。
恐るおそる手を離すと、鼻血も止まってきた感じがする。
「ラテをお願いします」
「かしこまりました。ホットとアイスはどちらがよろしいでしょうか」
「え、えーと、(鼻血も出てるし)アイスで」
「サイズはお決まりですか?」
おっと、まだ続く???
ちょっとやばくなってきたかも……!
「トールでお願いします」
たらっと垂れてきたような感じがする……。
「こちらで召し上がりますか? それともお持ち帰りですか?」
「ええっと、持ち帰りで」
やばい、やばい、やばい。
「紙袋はご利用ですか?」
あああああーーーーー、やばいーーーーー!!!!!
限界を感じて、鼻を手で囲むと、手の平にぽたっぽたっと、赤い点が落ちた。
「ええ! 大丈夫ですか?」
注文を聞いてくれていた店員さんが、すごく心配してくれた。
「あの、良かったら、すぐに何か鼻をおさえれるものを持ってくるので、良かったからお席に座ってお待ちください」
まさかのここで、戦線離脱か……。
空いてる席に移動して、休んでいると、先ほどの店員さんがティッシュと氷を持ってきてくれた。
「あの、良かったらラテのお会計もこちらでさせていただきますね」
さすがはスターバックス。
突然の鼻血オペレーションも完璧だ。
このまま帰ってしまうのもわるいので、お言葉に合わせてラテをつくってもらった。
彼女の方をチラッとみると、ドリンク作成に必死で、こちらに気づいていないことだけが救いだ。
休憩時間のこともあるし、なんせこの鼻血姿を見られる訳にはいかないので、親切に対応してくれた店員にお礼を告げて、お店を出た。
今日は晴天で、太陽がギラギラしている。
お店との気温差で、むわっとした熱気を感じ、思わずアイスラテをグビッと飲んだ。
血の味と混ざって、いつもよりもほろ苦い。
カップを見て、ハッとした。
「thank you!」と書かれている。
まさか、彼女の字じゃないよな……。
ハッと店内を振り向くと、もう彼女は休憩に行ったのかいなかった。
ラテは氷が溶けて、少し丸い味になっていた。
***
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