メディアグランプリ

お母さんは人間だった


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記事:園田 美穂(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
たまたま寄ったスーパー。そこでいつもの光景を目にした。
やる気のない表情に棒読みの言葉。愛想が良いとはお世辞でも言えないその姿は、ただ作業をこなすロボットだ。声も小さくやる気のない女性店員が、今日もそこにいる。
 
向かい合う客はポケットに手を突っ込んだまま、携帯電話を片手に目線すら合わせようとしない。ろくに返事もせず、たまに返事をしたかと思えばタメ口で高圧的だ。見下したような態度で貧乏ゆすりをし、お金は投げるように出して去っていた。
 
私はこのやり取りが昔から好きではない。店員はお客に笑顔のひとつすら見せずに淡々と作業をこなし、お客も店員に対し、してもらって当たり前かのような横柄な態度で振る舞い、平気な顔でタメ口をきく。この光景を見ると、いつも心の奥の方がモヤモヤし始めるのだ。
 
そういえば、レジ打ちの仕事をしている母もこんなことを言っていた。
 
「ほんっとどうにかならんもんかね! こっちが聞いても、一切言葉も発しもしないで、ぶすーっとした態度でさ。そんな態度されると、いくら仕事だとはいえ腹が立つね!」
 
そう話す母は、とにかく昔から愛想がいい。私が小さい頃から、バスの運転手には『ありがとうございました』と丁寧にお礼を言ってバスから降りていたし、スーパーの店員には、どっちが店員か分からないくらいの満面の笑みで応対していた。
母はいつも口癖のように『お客さんはしてもらって当たり前じゃないんよ』と、子どもの私に言っていた。
 
そんな母は今年で67歳になった。
「最近はあちこち痛くて、もうお母さんも歳やね〜」とよく笑って話している。
この前の母の日には、日頃の感謝を込めて妹と三人で居酒屋に呑みに行った。久しぶりにお酒が進んだのか、母は少し酔った様子でこんな話しを始めた。
 
「お母さんね〜あんた達が進学したいって言ってお金ないで行かせてあげれんとかしたくなかったから、毎日家計簿とにらめっこで、どうやってこのお金を生み出そうかって必死やったよほんとに。よくやったお母さん! (笑)」
 
なんだか少し上機嫌なご様子。このまま過去の思い出話しをするのかと思いきや「よし! 帰ろう!」と勢いよく立ち上がる母。
 
帰り道も道路の白線からはみ出し、よたよた歩きだった母。そんな母の姿を見てふと思う。
 
 
母もお母さんを必死にやっていたのかもしれない。 多くの人に存在する母という役割。母親は子どもを育てて当たり前、ご飯を作って当たり前、掃除をして当たり前、欲しいものを与えて当たり前。子どものためには自分を犠牲にして当たり前で、遊んだり飲みに行ったり、綺麗なスカートはいたりするのはらしくない。子どもがいるのに、みたいなそんな風潮を感じる時がある。
 
 
ベビーカーを押した若いママがバッチリメイクをして、綺麗な格好で町に出かけていると未だに視線が冷たい、気になる。という話も聞く。私も含めて、人は役割で他者を見ている所はないか?
 
子どもの頃のお母さんは全治全能の神様みたいに、なんでも出来て頼り甲斐があって強い存在だった。出来てないことがあったら、母に言えば解決するし、私を守ってくれる完璧な存在のイメージ。だからこそ気に入らないこと、出来ていないこと、受け入れてくれないことがあると怒ってかんしゃくを起こしていた。
 
母に対して役割を求めるあまり、押し付けていたのかもしれない。そう思い、今までを振り返った時にあの時の言葉が思い出される。
 
「なんでやってくれないの? お母さんなのに」
 
私が今まで言ってきた言葉は母という役割に向けたもので、一人の人間に向けて言った言葉ではなかったかもしれない。幼いあの頃は何も気付けず、納得できずに何度も責めた。家庭というものを持ち、少しだけ同じ目線に立ったからこそ今初めて気付けたこと。
 
 
「お母さんも人間だったな……」
大きな変化になるきっかけだった。
 
 
 
それから人を見る視点をちょっと変えてみるようにした。視点を役割ではなく“その人”に向けてみることで、心が余裕を持って優しくなれた気がする。
 
例えば、帰りに立ち寄る店があるとする。だるそうにしている店員には、実は小さな女の子がいて「絵本を読み聞かせて」とせがまれてあんまり寝れなかったのかもしれない。店員としての役割として見るのではなく、一人の人として見てみてみる。そう考えてみたら、みんな頑張っているのだと少し許せてしまうことがあるのかもしれない。
 
 
もちろん、そこに甘えて役割を果たさないというのは違うが、大事なのはお互いが相手の役割を踏まえた上で人としても尊重すること。みんながそういう前提を持って、人に接する優しい世界になればいいなと私は思っている。
 
そして1週間後また同じスーパーに立ち寄った。担当してくれたのは以前の同じ店員さん。相変わらず何とも言えない対応だったけれど、以前とは違った。
 
その人自身は何にも変化はしていないのだが、何故かやわらかい気持ちで接している私がいた。いつも通りお金を払って「ありがとうございます」と伝えてレジを出る。食材がパンパンに詰められたバッグは、いつもより軽く感じた。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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