メディアグランプリ

おもてなし大国、イラン


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記事:よしかたよしこ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「イランに行くと、現地のイラン人が家に招き入れおもてなしをしてくれる」
そんな噂を聞いたことはあるだろうか?
 
世界一周旅行をしていた夫婦から私は聞いた。現地で仲良くなったイラン人の家にお呼ばれし、ごちそうを振る舞ってもらったという。次はイランに行こうと思っていた私は他の旅人のブログも検索してみた。
……他にも同じ体験をした人がいる。イランとはそういう国なのか……?
 
かくして、私は女友達とイランに飛び立った。
私たちもお呼ばれされてごちそう食べたいね。冗談まじりに言いながら。日本昔ばなしに出てくる欲張り婆さんのごとく。
 
イランは色んな人が気軽に話しかけてくる。すれ違いざまに挨拶をしてくれたり、小学生の子供たちも「ハロー! どこから来たの?」と、とてもフレンドリー。市場の人たちも親切だ。
とある町への移動のためバスに乗った時のこと。イラン人の家族に声をかけられた。14歳の女の子とその両親の3人家族。といっても彼らはほとんど英語が喋れず、行き先が一緒らしいということしかわからない。優しいお母さんがパウンドケーキを分けてくれた。そして言った。「Come home」
こ、これが、イラン人からのお呼ばれか……!?
なんと、噂は真であった……!
 
しかし、行き先が一緒と思われたその家族は私たちの目的地の手前で降りるようだった。何度も「Come home」と言っている。本気なのか……!? これは行ってみたい。善良な市民にしか見えない家族。危険はなさそうだ。しかし、こんな「地球の歩き方」にも載っていない町で降りてしまったら、この後の移動手段がわからない。そもそもこの家族英語喋れないし。でもどうしても私たちを招きたい様子。どうしよう……。困っていると、英語のできるイラン人が状況を理解し通訳をしてくれた。好意は嬉しいが難しい。断られたのがわかると、家族はとても残念そうにバスを降りていった。
ううう、なんて切ないんだ……。
しかし、初めて会った異国の旅人を家に招待したいというイラン人とはいったい何者なんだ?
 
さて、別の町で観光をしていた時のこと。
またイラン人家族に声をかけられた。今度は日本語が堪能な男性。妻が日本にいるという。サイードと名乗った。そして彼の娘、両親、お兄さん。
「えっ、2人で旅してるの? 僕らも家族旅行なの。車に乗りなよ観光連れてってあげる」
あれよあれよと彼のペースでぎゅうぎゅうの車に乗せられ、町中を案内してもらった。想像以上のおもてなしだ。
彼にとってはなじみのある日本からの旅人ということで親切にしてくれるのはわかるが、それはだんだんおせっかいに感じられていった。
「次どこの町へ行くの? シーラーズ? 僕らも同じだよ。家族の家があるから。バスで行くのは危険だよ、キャンセルしちゃいなよ。僕の車で連れてくよ」
イラン滞在中全てをサイードツアーにされそうな勢いだったため、自由なバックパッカーを気取る私たちは理由をつけてお断りした。
 
「じゃあ何かあったら電話してよね! プリペイド携帯買ってあげるから」
無理やりプリペイド携帯を持たされた。そしてその後別行動をとったものの、シーラーズに着く頃にはプリペイド携帯に怒涛の着信が来るのである。
シーラーズのホテルにチェックインし落ち着いてからかけ直すと言われた。
「なんでホテルとっちゃうの? 家族の家に部屋用意しておいたのに!」
 
あれほど望んでいたイラン人宅へのお呼ばれだが、想像以上の勢いに、軽い気持ちで期待していたことを反省した。日本の「お・も・て・な・し」とレベルが違う。
サイード家族の家への宿泊は辞退した私たちだが、この町でも彼の家族や友達たちと観光や食事を共にした。仲間たちは突然現れた異国の旅人を煙たがるでもなく、過度に気を遣うでもなく、自然と楽しい時間を一緒に過ごした。
そして最後にサイードは言った。「ちょっと家に寄ってく?」
……これはお受けしよう。ついにイラン人宅へ潜入だ。
 
お金持ちらしいサイード家族の家は、立派なマンションだった。中に入ると広いリビング。見事な絨毯。家族写真がたくさん飾ってある。そしてサイードのママと、小さなおばあちゃんが現れ、胸に手を置いてニコニコと挨拶してくれた。
そうか、この女性たちはサイードたちのように外出しない。お客さんが家に来てくれたら嬉しいんだ。
リビングには次々とフルーツが並べられる。マンゴー、ラ・フランス、いちじくにざくろ。チョコやイランのお菓子、お茶。素晴らしいおもてなしをしていただいた。ママが「泊まっていかないの?」とさみしそうにする。あれだけおせっかいだったサイードが、「ホテルとってあるから仕方ないんだ」と説明している。
人によって表現は違えど、ぜんぶイラン人のおもてなしの心なんだ。
胸がキュッとなった。
 
時代はコロナ禍。近々日本も外国人観光客の受け入れを再開するという話も出ている。私の住む京都では、静かだった京都がまた荒らされる、と後ろ向きな声も少なくない。でも私は世界中から旅人が訪れたら、あのイランのおもてなしを思い出す。おせっかいのごとく世話を焼いてくれたサイードや、ニコニコ挨拶してくれたおばあちゃんを。
 
サイードの好意を断る私たちに彼は言った。「なんで自分たちだけでやろうとするの。迷惑かけないようにって日本人は思うの。僕たちは好きだからこうしてるんだよ。僕が日本に行ったらお返ししてくれたらいいじゃない」
サイードへのお返しはできていない。だけど、代わりに日本に来てくれた旅人にお返しをするね。同じようにはできないかもしれないけど。私なりの表現で。きっと。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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