「冬瓜(トウガン)」に救われたある夏の話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山本のぞみ (ライティング・ゼミ2月コース)
「あーやばいな、こりゃあ夏バテかも」
一昨年の8月のことだった。 心当たりはたくさんあった。
生後8ヶ月になる次女の夜泣きが再開し、夜はぐっすり眠れていない。
それに加えて、遊び盛りの長女3歳の相手もしなければならない。
連日、炎天下の公園で数時間過ごす。子供の水分補給は気にしていたが、自分のことはあまり記憶にない。んな日々の中、身動き全てが億劫で食欲が無い。長女を保育園に連れて行った後は、次女をリビングで放牧しながら自分も横になる。部屋の中はいつも以上に荒れていた。
こんな私の窮地を救ってくれたのは、とあるスープのレシピだった。
このスープは、私に「体をいたわる」ことを教えてくれた先生だ。
3ヶ月前に遡る。
次女の離乳食が始まるのに合わせて、情報収集を始めていた。
世の中の常識は、常に移り変わっている。
子育て経験者ならば、離乳食作りのあの膨大な手間はご理解いただけるだろう。
一束のほうれん草は、茹でて刻んで、すり潰して、更にうらごしすると、大さじ数杯分にしかならない。かかる労力と成果物とのギャップに気が遠くなった。
そして残酷なことに、手を掛けたものほど口に入れた途端に吐き出されてしまう。
なんだ、この不毛な戦いは。
来たる離乳食戦争をなんとか軽傷で生き延びたい、そして長女からたったの2年しか経っていないのに、既に食物アレルギーへの対応が変わってきていることを知り、スキルと知識をアップグレードさせる必要を感じていた。
本屋の育児コーナーをぶらりと眺める。お目当ての本はすぐに見つかった。とは言え、ほとんど2年前とは変わっていない。それでも一応購入した。
ついでに、隣の料理コーナーもチラリ。育休中は通常よりも手料理を作ることが多い。
子供の為にはもちろんだか、自分の為にも栄養そのものについても学びたい気持ちがあった。
「五大栄養素」「ビタミン」「ミネラル」……うん、どうしよう、興味が湧かない。
そんなことを考えていた時にふと目に止まった本があった。
(ちづかみゆき著「暮らしの図鑑 薬膳」)
思わず手に取ってパラパラとめくってみる。春夏秋冬プラス梅雨と、その季節ごとの食材、効能が書かれていた。
ちょうど梅雨に差し掛かろうという時だったので、試しに見てみる。
へぇ、とうもろこしってむくみ解消にいいのか。アスパラガスって疲労回復効果があるの?
「薬膳」というと、少し身構えてしまうが、日々口にしている食材の意外な効能に興味が湧いた。
そして、その隣に置いてあったもう一冊と一緒に購入して家に帰った。(櫻井大典著「ミドリ薬品漢方堂のまいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ」)
読んでみて分かったことは、食材にはそれぞれ体に良い効能があり、体を温めたり、熱を冷ましてくれたり、体調に合わせてアレンジしていくべきだということ。
そして、人の体は中庸、つまり偏りがなく真ん中、ニュートラルな状態を保つことを目指していけば良いということだった。
これらの本との出会いから、私のゆるゆる薬膳の日々が始まった。
離乳食作りでも、大人が食べる食事に関しても、薬膳的なバランスを考えながら付け合わせなどを考えるようになった。
バランスと言っても、今日は肉と葉物野菜が多くて体が冷えそうだから、味噌汁には根菜類と生姜を入れておこうとか、そろそろトマトが旬だから使おうとか、そんな程度のゆるいものだ。
それでも、主菜が決まれば付け合わせの候補が絞られる。
以前よりも少しメニューを考えるのが楽になり、また食材の効能を調べることも小さな楽しみになっていた。SNSでも、薬膳界隈の人をフォローして情報を流し読みするようになった。
季節が進む。子供が成長し、離乳食がステップアップするにつれて、どんどん余裕が無くなっていった。
1回食から2回食へ、そしてなぜか夜泣きが増えた。昼は休みたいが、そうもいかない。
元気の有り余る長女の相手もしなければならないし。もうなんだか疲れた……
そうして遂に、夏バテらしき症状に行き当たる。これはまずいことになったぞ。
そんな折、SNSに冬瓜を使ったレシピがあったのを思い出した。
冬瓜/ 体を冷ます作用が強い。むくみを改善し、一方では体を潤す作用がある。
夏バテには最高の食材だ。
重い体を何とか動かし、スーパーへ。えっと食材は……冬瓜とスペアリブと生姜か。
スペアリブ……じゃなくて、豚バラブロックでもいいか。
材料が少なくて助かった。
冬瓜の皮を剥き、食べやすい大きさに切る。豚バラブロックも、同じくらいの大きさへ切り、生姜はスライスしてすべての食材を鍋へ。ヒタヒタに水をいれて、塩を適量。あとは蓋をして煮るだけ。沸騰してから10分程経って様子を見る。冬瓜が柔らかくなっていたらもういいかな。
出来上がったそれは、なんとも色彩が薄い。
透明なスープ、柔らかく透き通った冬瓜、茹でた豚肉、生姜の薄切り。
作る前から大体想像がついたが、ビジュアル的にはあまりおいしそうではなかった。
それでも今日はもうこれしか作っていない。もしまずかったら、夫には申し訳ないがカップ麺でも啜ってもらおう。
意を決して食卓へ。夫の微妙な顔を横目に、平然を装って食べるよう促した。
「うん、美味しいよ、これ」
え? 本当に美味しい?
私も意を決して一口。きっと味気ないだろうと思った私の予想は軽く上回った。
じんわりと温かく、優しい塩味、豚肉のうまみがちゃんと出ているスープが、体に染みていくのが分かった。食欲がなかった私でもどんどん箸が進んだ。
本当にびっくりする話なのだが、この食事を取ってから何となくだるかった体調も少し良くなったのだ。
これまで、ジャンクフードで胃がもたれる、アイスを食べすぎでお腹を下すなどという経験はたくさんしてきた。
だけど、1杯のスープがこんなに染み渡った経験は初めてだった。
それからというもの、このスープは我が家の夏を乗り切るレギュラーメニューとなった。
そして、この一つのレシピとの出会いが、壮大なる「漢方」沼への入り口となったのだった。
***
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