メディアグランプリ

インタビューとは、基本ジャズである


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村隆(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
―そのバンドに入った初日に、ドラムの人から「おまえはぜんぜん聴けてない」って指摘されたんです。「おまえのPLAYは、ただソロを弾いているだけだ」と。
 
いったい何を言われているのか、最初はさっぱり分かりませんでした。僕も自信があったし、ちゃんと弾けているつもりだったから。結局、それから2年間ほど、ずっと叱られ続けたんです。
 
でも悩みながら演奏を続けているうちに、だんだん分かってきました。確かに聴けていなかった。僕はただ自分のパートをこなしていただけだった。ドラマーが何に注意を向けているのか、ピアニストがどういう方向に持って行こうとしているのか……。そういった、その場、その瞬間に生みだされるジャズ特有の「何か」をちゃんと捉えられていなかった。本当に恥ずかしい話ですけどね。―
 
これはもう10年近く前、あるプロのベーシストから直接聞いた話だ。彼の演奏はロックやポップスの世界では高く評価されていた。でも、誘われて入ったジャズバンドでは当初、まったく通用しなかったという。楽譜どおりに弾いていれば問題なかったそれまでの音楽とはまったく別次元だったと、彼は語っていた。
 
私はジャズに詳しくないので、彼が言おうとしている内容をすべて理解できているとは言いがたい。けれど、この話には普遍性があるとずっと感じている。ジャズに限らず、似たような状況は日常でも頻繁に起こっていると思う。
 
私は仕事柄、初対面の人にインタビューする機会が多い。だいたいどのインタビューでも、話を聴き始めてから40分前後は、相手が掴めない。もちろん、年齢、出身地、いまの仕事を選んだ理由、やりがい……といった概略的な情報は、質問すればすぐに分かる。だが、その人がまとっている空気のようなものが感じとれるまでには、それなりの時間が必要だ。相手の存在が発する、言葉以外の「何か」に触れ、そこに自分が馴染んでいくにつれて、インタビュー自体も深く、面白いものに発展していく。
 
ただ、その「何か」に触れられないままだと、思いもよらない結果を招いてしまう場合もある。
 
2年ほど前、日本海側にある小さなカフェを取材した。移住してきた夫婦が営む、オーガニックなメニューと海を見渡せる眺望が評判の店だ。片道150㎞の道のりを3時間以上かけて走り、約束の時間に到着。ところが食事は売り切れていて撮影できなかった。お客さんのほか、近所の人たちも遊びに来ていて、取材にもすぐに入れない。
 
1時間近く待って、ようやくオーナーの男性が取材に応じてくれた。これまでのいきさつや、この土地での生活、食事へのこだわり……などを40分くらい聞いた。記事を書くための情報は一通り手にできた。近所の人たちを待たせていたので、もう引き上げようと思った。そのとき、奥さんがテーブルにやってきた。店についてはご主人にある程度聞いたので、奥さんには調理についての質問をした。時間にして20分くらいだったと思う。
 
実際に食事を味わえないのは残念だったが、仕方がなかった。片道150㎞を、そのためだけにもう一度走るわけにもいかない。メニューの写真についてはメールで送ってもらう了承を得て、私は帰路についた。
 
だが、写真はなかなか届かなかった。私は写真のない状態で記事を仕上げ、原稿をメールで送った。「そちらから送って頂く予定の写真を、ここと、ここに、組み込もうと思っています」と注釈を付けて。
 
数日後、奥さんからメールが届いた。そこには、こう記してあった。
 
「このたびの取材はなかったことにしたいと思います。今後は、掲載する媒体を選ぼうと主人と相談していたところでもあるので」
 
意味が分からなかった。どんな媒体に掲載するのかは当然伝えているし、それを分かった上で取材を受けているはずなのに、いったいどういうつもりなのか? 私は「もし記事に不満があるのなら、いくらでも加筆・修正します」と返信した。
 
返ってきたメールは、さらに理解しがたいものだった。
 
「あの日は天気が悪かったし、料理も足りなかった。子どもも泣いていたので」
 
要は、明確な理由があるわけではなく、単に私が「気に入らない」ということだ。
 
さすがにしばらくは頭に来ていた。行き帰りと取材に費やした丸一日分の時間、原稿を書き上げるまでの労力のすべてが無駄になったのだ。記事を納品できないのだから、交通費などもすべて自腹となる。なんて身勝手なのだろうかと。
 
でも時間が経つにつれ、分かってきた。おそらく私は、奥さんの話に十分耳を傾けていなかった。逆に言うなら、もっと聴いてほしい話があったのだろう。それを私が察知できないまま、薄っぺらな質問だけで終わらせてしまった。
 
そのとき、あのベーシストの話を思い出した。セッションが成立せず、ジャズにならなかったのは、私の聴く力に問題があったのだ。
 
「音楽は競争じゃない。協調だ。一緒に演奏して、互いに創り上げていくものなんだ」。ジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィスは、そんな言葉を残している。
 
協調し、互いに創り上げていくもの。インタビューに限らず、あらゆるコミュニケーションの基本だろう。互いが一つに溶け合ってジャズを生みだすのか、それともソロ演奏の寄せ集めで終わってしまうのか―。いつだってそれは、その場、その瞬間の自分の聴く力にかかっている。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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