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茶色弁当の復讐


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミNEO)
 
 
「可愛いお弁当がいい」
小学4年生の娘が、ボソッと呟いた。
 
「運動会のお弁当は、ミレイちゃんみたいな可愛いお弁当がいい」
 
キョトンといている私に向かって、娘は畳み掛けるようハッキリと声に出して言った。
 
……ほう。可愛い弁当とな?
それは食べられる弁当の話なのだろうか?
 
明日の運動会のおかずを聞いただけなのに……、想定外の回答に私は困惑した。
 
手作り弁当と言えば茶色弁当しか知らない私にとって、可愛いお弁当という物は未知の世界であった。
 
我が家の弁当と言えば、卵焼き、唐揚げ、ウインナーに石井のミートボールもしくはハンバーグが定番のおかずである。それは、私の母から脈々と続く伝統文化だ。その他、弁当箱いっぱいに敷き詰めた白ごはんの上に豚バラ肉と玉ねぎを甘辛く炊いた物を乗せた松屋の牛丼弁当モドキや弁当箱一杯にドーンッとナポリタンが入ったナポリタン一色弁当など私が作る弁当は男性が喜ぶような茶色弁当が主流だ。
 
小3の息子には大変好評なのだが、小学4年生になった娘的には従姉妹のミレイちゃんが持っていくような可愛いお弁当を持っていきたくなったのだろう。
 
ちなみに、息子にも「明日は何のお弁当がいいの?」と聞いたら、「うーん……、うどん! 冷たいうどん!」と返ってきたので、冷凍うどんを茹でて弁当箱に入れ、ワカメと薄焼き卵を乗せ、水筒に大量の氷と創味の汁を入れて持たせる予定だ。大変、手間のかからない親孝行な弁当だ。
 
娘と同じ年のミレイちゃんは、TikTokをこよなく愛し破れたズボンとお腹の出た服しか持っていない女の子だ。「なんで破れたズボンしか履かへんの?」と聞くと、「ダンスやってるから!」と、長い髪をなびかせクルッとターンして決めポーズで返されたことがある。
 
そんなミレイちゃんが持っていく運動会のお弁当は、大変可愛いらしい。
 
とりあえず、「可愛い お弁当」でGoogle様に検索をお願いしてみると……。可愛く折り重なったリラックマおにぎりや目玉の付いたウインナーにお花卵などカラフルなお弁当が並んだ。
 
これを作れと。
……いや、無理でしょ。
お花卵とか……、無理ゲー過ぎる……。
 
ゆで卵を竹串5本でグルッと囲み、竹串の両端を輪ゴムで留めて作るお花卵は茶色弁当専門の私が作れるとは到底思えなかった。32歳4児の母、長野県在住のキラキラママの料理動画を見ながら私は絶望に打ちひしがれた。
 
しっかり者の娘は産まれた時から手がかかったことがなく、育てるのが大変楽な子だった。物心付く前にやんちゃな弟が産まれたため、生まれながらのお姉ちゃんだったように思う。
 
小さな頃から物わかりが良く、自分からアレがやりたいコレがやりたいといったような要求もほとんどされたことがなかった。
 
保育園の帰り道、私の携帯電話に仕事の電話がかかってきても横で辛抱強く話が終わるまでまっていうような子だった。
 
そんな娘が可愛いお弁当を作って欲しいと言うのだ。どうにかして希望を叶えてあげたかった。
 
「可愛いお弁当ってどう作るの?」
困った私は奈良に住む、末の妹に助けを求めることにした。ミレイちゃんの母親である。おませなミレイちゃんの母らしく、3姉妹の末っ子である妹は昔から手先が器用で要領の良い子だった。学校の勉強などはからっきし駄目だったが、長女の私が解けないような社会性や機転が問われる人生の問題に強かった。
 
「お姉ちゃん、どうしんたん?」
 
「娘が運動会に可愛いお弁当を持っていきたいって言うてて……どうやってつくるん?」
 
「おぉ! ついに娘ちゃんも目覚めてんな! そら、あんな茶色弁当いらんわな」
 
「キャラ弁とか無理ゲーやねんけど……」
 
「キャラ弁とか作らんでエエねん。もう4年生やで。女子高生とかが持っていくようなカラフルでお洒落なお弁当が可愛いねん」
 
「そうなん?」
 
「うん。とりあえず、花つくっといたら大丈夫」
 
「えっ、花? 花って何?」
 
「ハムとかウインナーで作んねん。めっちゃ簡単やからググってみ。あとは、100均。可愛い串とかフルーツ入れとか売ってるから、そういうのにおかずは入れるねん。ミートボールとか入れる銀紙もな、お洒落なん売ってるから!」
 
「わかった! 行ってくる!」
 
「後、おにぎりシート忘れなや」
 
「何それ?」
 
「コンビニのおにぎりが作れるセロファンやで。それにおにぎり入れるだけでめっちゃ可愛いなるから! 後はブロッコリー入れといたら完璧や」
 
「わかった! 頑張る!」
 
幸いなことに私が住む街には関東で一番大きな100均がある。可愛いお弁当づくりは未知の世界ではあるが、状況は悪くない。可愛いお弁当師匠である妹の指示に従い、ミッションを遂行した。
 
結果……。
 
茶色弁当の中身をほとんど変えること無く、茶色弁当を可愛いお弁当に生まれ変わらせることに成功したのだ!
 
三角おにぎりは、英字新聞のように横文字が羅列されたセロファンと十字架がいい具合に大小様々に配置されたセロファンに入れ、『ONIGIRI DECO PACK』と印字された10円玉程のシールを真ん中に貼るだけでビックリするくらいお洒落に見えた。
 
ハンバーグはピンクと黒の英字が印字された紙仕様のアルミカップに入れ、卵焼きは2cm幅に切り、真ん中を斜めに切り片方を裏返し断面を合わせたらハート型卵焼きになったし、ウインナーはタコさんウインナーをつくって上下反対にしてお弁当に差せばお花ウインナーになった。
 
仕上げに、クリーム色に濃いブルーの英字が描かれたお洒落ピックとブロッコリーを隙間に差せば、どこからどうみてもお洒落なお弁当が完成した。
 
透明の容器に黒の英字が印字されたカップに入れたフルーツを添えれば完璧だ。
 
いやっほーいっ!!!!! 英字最高!!!!!
 
……その朝。
 
お洒落弁当を見た娘は満面の笑みで「ありがとう!」と言い、嬉しそうに紙袋にお弁当を入れて玄関から旅立とうとしていた。
 
「あっ、私は黄色の軍手とピンクのスカーフ、水色の靴が目印だからね!」
 
自信に満ちた顔で自分の出で立ちを伝える様は、小さな頃からの成長を感じるには十分だった。私は自分の娘が意見を持ち、ハッキリと声に出して言ったことが誇らしかった。
 
あと何回、娘の成長を感じることが出来るのだろうか?
そんな事を思いながら、娘を見送った朝だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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