浅はかな私は、薬局でイケメンに?られた~体の声に耳を傾ける
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記事:横山裕子(ライティング・ゼミ4月コース)
「この薬、半年ぶりですね。間があいてますが、何か理由がありますか?」
え? 一瞬、答えに迷った。
眼科を受診した帰り、薬局で薬をもらおうとしていた時のことだ。ドライアイと疲れ目の目薬、ビタミン剤を処方してもらっていた。いつもの薬局でいつもの目薬をもらい、サクッと帰宅するつもりだった。今日の薬剤師さんは、初めて見る人だ。背が高くて、イケメン! 「お、ラッキー!」と、心の中で呟く。
そして、先程の質問だ。ビタミン剤として、処方してもらった薬のことを聞いているみたいだけれど……。
「間があいている理由」とは……? 予約していてもかなり待たされる人気の眼科、コロナ禍で足が遠のいていた。「眼科に行くのが半年ぶりだったので」と、そのまま正直に答えてしまったが、そういうことではなかったか?
「前回は飲みきりましたか? 効果は感じられましたか?」矢継ぎ早に質問が来る。
「飲みきりました。効果は特に……。ビタミン剤だと聞いていたので」と声が小さくなる。
「ビタミン剤でも、病院で処方箋が出て、薬局でお出しするものは薬なんです。続けて飲んで、効果がなければ、医師に相談するべきものです。飲むことで、体に害があるものもあるんですよ」強い口調だった。
「すみません……。次回、先生に相談してみます」
「そうしてください」イケメン薬剤師は、ちょっと憤慨したような様子で薬を手渡してくれた。
「なんなんだ。せっかくのイケメンなのに、あんな言い方しなくても」
自分でも意味不明なことを思いながら、悶々として帰路についた。
家に着いてから、薬の説明書を読んでみた。「しびれ感などの神経障害を改善する薬」とある。確かに、ビタミン剤とは明記されていなかった。
気になって、ネットで調べてみる。
「ビタミンB12系統のお薬。神経障害を改善する。安全で副作用がない。水溶性ビタミン。各診療科でいろいろな病気に応用される」やはり、ビタミン剤ではあるようだ。
でも、その後の「使用にあたり」では、「普通に食事を取っている健康な人は、ビタミンが欠乏することはありません。ビタミンの補給が必要なのは、消耗性の病気や胃腸に病気のある人などです。妊娠中の女性や、ひどい疲労時などにも用いますが、十分に食事がとれていれば、必ずしも必要ではありません」
さらに続けて、「ビタミンB12を多く含む食品には、乳製品、レバー、肉、魚、卵(黄身)などがあります」とある。
今のところ、大きな持病もなく、健康と言っていいと思う。
レバーはちょっと苦手だけど、肉、魚、卵は大好き、ヨーグルトも欠かさない。
こんな私に、ビタミン剤は必要なのだろうか?
眼科の先生は、最初、疲れ目のために処方してくれた。多分。情けないが、よく覚えていない。先生が言うのだ。必要なのだろう、と思っていた。
「ビタミン剤、出しておきましょうか」
「はい」
というやり取りで、診察終了だった。
先程の、イケメン薬剤師の憤慨した様子が目に浮かんだ。
もったいないし、勝手に判断してはいけないとは思ったが、処方された薬を飲むのを止めてみることにした。
毎日、目薬のお世話にはなっていたが、飲み薬のことは、すっかり忘れていた。
そんなある日、「医療費増大」のニュースが耳に入ってきた。
「がん治療薬を減らす研究」が、されているという。
「それには、患者さんや製薬会社の協力が必要不可欠だが、同意が得にくい。命の危険を冒してまで、休薬、減薬はあり得ないが、体に優しい医療を目指して、命のために研究は続く」と結んでいた。
衝撃だった。
がんの治療をしている患者さんにとって、薬は命綱であって、拠り所だろう。その薬を研究のためとはいえ、減薬を協力する方がいるのだ。
ふと、我が身を振り返る。なんという浅はかさ。
何の疑問も持たず、処方された薬を飲み、効果を感じなくても何とも思っていなかった。
これが、風邪などの症状を緩和する薬だったら、熱や咳などの症状の様子で、医師と相談もしただろう。けれど、「ビタミン剤は栄養剤」と勝手に解釈し、軽く考えていた。
眼科でもらった薬を止めて、ひと月が経っていた。
特に体調の変化もなく、疲れ目も悪化した感じは無かった。
「飲まなくてもいいものだったのかな」そんな疑問が生まれた。
もう一度、体の声を聴いてみた。
体が疲れても、ゆっくり休めば回復する。目、肩、腰が辛くなる時もあるが、年齢的に致し方ない。何より、ご飯が美味しい!
今の私に、薬は必要ないように思われた。
今度、眼科に行った時には、先生に相談してみよう。ビタミン剤は必要かどうか、必要ならば、なぜなのか、質問してみよう。勝手に薬を飲むのを止めたことを怒られるかもしれない。でも、仕方ない。
イケメン薬剤師に叱られたおかげで、「薬」と向き合うことができた。
薬害や副作用、マイナスの一面もあるけれど、薬は、病気が治ったり、体が楽になったり、私たちの生活に寄り添ってくれるものだ。疑問が生じたら、医師や薬剤師に相談してみることにしよう。そして、まずは、自分の体の声を聴き、辛いときは薬に手伝ってもらう。これから、そんな風に薬と向き合えたらと思う。
そう考えたら、イケメン薬剤師と話がしてみたくなった。
次回の眼科受診の後、あの薬局に行ってみよう。
***
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