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女性役員は見た!


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記事:吉川和美(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「はい、報酬は月30万円。ご出席いただきたいのは、月1回の取締役会です。その前に監査役会がありますが、まあ、午前中くらいで終わりですかね」
 
これは過去に転職エージェントからご紹介いただいた案件である。
月1回、3時間で30万円! 時給、10万円だ。
 
「取締役会は毎月開催されないようなんですが、開催されない月の報酬はどうなるんでしょうか? 」
 
「もちろん、役員報酬なので、会議開催の有無を問わず月額報酬をお支払いします。女性活躍推進の流れで出てきた案件でして、はっきりいって、おいしい案件だと思いますよ」
 
月30万円が、会議に出席しない、つまり、何も業務が発生しない月にも振り込まれるというのである。
決して詐欺ではない。れっきとした有名な企業の案件で、誰もが知っている転職エージェントからのご紹介だ。
 
なんて「おいしい」案件なんだ。
 
募集企業に怪しいところは見当たらない。紹介者もまっとうだ。となると、こんな案件が私に紹介されるってことは何かある。私が公認会計士として長らく担当していた業種の企業なので、その経験をご評価いただいたのかもしれないが。
 
「とてもよいお話だと思うのですが、会社はどんな方を求めていらっしゃるんですか? 」とお尋ねしてみると、転職エージェントの男性が、うやうやしく、しかし、慇懃無礼な口調で説明してくださった。
 
「条件は、女性の公認会計士であることと、大変申し上げにくいのですが、取締役会であまり積極的にご意見をおっしゃらない方をお望みです」
 
???
 
せっかく外部から招く役員に対し、会社の意思決定機関である取締役会で、「あまりご意見を言わない方」を望むのか。
 
そんな会社、こちらから願い下げだ!!!
 
とはならなかった。残念ながら。
 
どこかの前総理大臣がおっしゃったように、「わきまえた女性」を望む会議はは多い。実際、よく聞く話だった。
 
私は、「そんな案件、こちらからお断りします」と言うべきだった。
が、代わりに言ったのは、
 
「私の経験が活きると思うので、応募させてください」
 
だった。
 
著名会社の社外役員というステータス、月30万という安定した報酬。エントリーしない選択肢はないだろう。会計専門家としての意見を言うべき会議で、「あまり意見を言わない」という条件を除いては。
 
「承知しました。ではこちらから推薦文を添えてエントリーしておきますね」
 
「よろしくお願いいたします」
 
 
1週間後、転職エージェントから連絡がきた。
 
大変残念ではございますが、またの機会を。という落選通知であった。正直悲しく、落ち込んだ。しかし、今後のこともあるので、何をどう評価されたのか、聞いてみた。
 
「大変すばらしいご経歴とご経験だったのですが、あえて申し上げると、お写真の雰囲気を見て、意志が強そうだと判断されたようです」
 
ひっくり返りそうになった。
 
お写真を見て!!!
 
会社の重要な役職を、面接もせず、「お写真」で決めたのか。
 
今となっては笑い飛ばしてネタにするような話だが、落選通知をもらったときの私は、煙と消えた妄想の月額30万に思いを馳せ、どうやったら合格したのだろうと真剣に悩んだ。写真が悪かったのだろうかと、有名な写真館を探して新たに写真を撮りに行ったりした。間違いだ。
 
悩んでいた私に、女性公認会計士の先輩が優しく語りかけてくれた。
 
そんな、意見も求められてないような会社、行ってもむなしいよ。あなたのキャリアなら、ぜひご意見を聞きたいですって言ってくれるところがいくらでもあるし、そういう会社に行くべきだよ。
 
当時は落ち込みすぎてぼんやりと聞いていたが、これ以上にないくらい、まっとうなアドバイスだった。
落選した会社には、落としてくれてありがとう、と言いたい。まあ、「お写真」以外にも、他の候補者と比較して、至らないところが多々あったのだろう。そこは今後研鑽していけばよいことだ。
 
 
まだまだ、「女性役員は華となる人に」という考えは根強いようで、実際に、そう明言した著名経営者がいると聞いている。企業の論理としても「華となる」女性を選ぶ理由がある。どうせ月1回の会議で本質的なことはわからない、とんちんかんなことを言って議論を混乱させるくらいであれば、黙っていてくれたほうがよい。どうせ黙っているならきれいな華であってほしい、そういうことなのだろう。
 
役員を選ぶには、株主総会で多数の賛成票が必要だ。賛成票を得るためなのか、知名度の高いキャスター、女優を候補者とする会社もあるようだ。知名度がある、というのは、なぜこの人を役員に推薦するのか、という、理由としては説明しやすいし、選ぶほうの株主としても、どこの馬の骨とも知れない女性公認会計士より、テレビに出ている有名人のほうが賛成票を投じやすいのかもしれない。
 
さらに、選ばれるほうも、有名企業の役員という地位と、月1回の会議の参加で数十万の「おこづかい」がもらえるという「バイト感覚」の人もいると聞いている。会社の役員なので、しっかり業務を行っていなければ訴えられるリスクがあるという認識があればそんな感覚でいられるはずがないのだが。
 
もちろん、こういった例はごく一部だと信じている。
もともとは、他の国と比較して経済成長率が低いのは、重要な意思決定機関に女性が少ないためだ、という問題意識から始まった話だったはずが、見事に骨抜きにされていたのを見てしまった。
なんだ、これは、と、ぶつぶつ言っていても何も変わらない。
私たちにできることを一つ一つやっていこう。そう思わせる出来事だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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