メディアグランプリ

アラバマに星落ちて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大室 岳(ライティング・ライブ福岡会場)
※この記事はフィクションです。
 
 
まっすぐと続く道を車で走っている。速度は150キロを越す寸前だ。オープンカーなので風が顔に当たる。とても強くて痛い。助手席の彼女に声をかけようとしても無駄だ。試しに言ってみた。
 
「スタンゲッツって知ってるか?」
「え! なんて言ったの?」
「スタンゲッツだよ」
「知らないわ」
「スタンゲッツの吹いた録音でアラバマに星落ちてって曲があってさ。それがお気に入りなんだ」
「え、なんて言ったの」
「アラバマに星落ちてって曲があってさ」
「わからないわ。話すのはあとにしましょうよ」
 
また二人は黙って車を走らせた。我々がどこに向かっているか。当てはないのだがとりあえず人気がないところへ向かっている。ある荷物を運んでいる最中なのだ。
 
汗がとまらない。夏の暑い日差しが肌を指す。かれこれ3時間近く走っている。道はカーブが続く山道になったのでスピードが出せなくなってきた。とりあえず車を止めてみた。
 
「ちょっと待ってろ」
 
そう言って女を残し歩き出した。森のなかに入っていく。人気のないのを確認して、ズボンのチャックを下ろす。
 
「すっきりした」
 
少し辺りを見回してみた。この辺はいいかもしれない。女を呼びにいく。
 
「おい、ここにしよう」
「平気かしら。少し街から近いんじゃない」
「いや、もうじゅうぶん離れたさ。とりあえず奥の方だったら掘り返すやつもいないだろう。まずは運ぼう」
 
トランクを開けて、青いビニールシートに包まれた荷物を取り出す。二人でなんとか持ち上げられるほどの重さだ。荷物を地面に下ろすと嫌な音がした。
 
「タバコ吸いてえな。持ってるか」
「もうないわ。私もたまんない」
「そうか。これを終わらせたらゆっくりビール飲みてえな」
「そうね。明日からは普通の1日がくるといいのだけど」
 
さっき小便をした辺りまでとりあえず運んだ。まだ奥に行った方がいいかもしれない。そう思い、先へと歩いていく。
 
「この人も悪い人じゃなかったんだけど」
「しょうがない。お前も何度も殴られただろう」
「でも悪い人じゃないのよ」
「同じことを何度もいうな」
「そうね」
 
小便をしたところから10分ほどいったところにいい感じの窪みがあった。そこにいったん荷物を置いて、車からシャベルを2つ持ってきた。
 
車に戻ってシャベルを取ってくるまで30分もしなかった。だけど窪みに帰ってきたとき荷物はなくなっていた。
 
「どういうことだ」俺は思わず怒声をあげていた。
「私に聞かないで。私だって知るわけないじゃない」
 
二人でそこら中を探してみたが、影も形も手がかりさえ見つからなかった。
 
「動物が持っていったのかもしれない。熊とか」俺はつぶやいた。
「熊!? じゃあ私たちも危ないんじゃない。襲われたら洒落にならないわよ」
 
しばらく立ち尽くしていたが、それで何かが変わるわけじゃない。一旦車に戻ることにした。車に入りエンジンをかけた。冷房の風が気持ちいい。
 
「どうするの?」
「どうしようがある。荷物はなくなった。取り返しがつかない」
「とりあえず帰りましょうよ。きっと熊か何かが持ち去ったのよ」
「そうだといいが」
 
ひとまず俺の家に帰ることにした。女の家を片付けなければいかない。そのままにしておくと誰かが気づいて通報するだろう。そうしたら俺たちは終わりだ。
 
女を俺の家で降ろして女の部屋を掃除することにした。誰にも見られないように気をつけてアパートのドアを開けた。中は蒸し暑くすえた臭いがした。床に固まっている赤い液体を掃除することにした。触ると表面は固まっているが中はまだドロドロしている。
 
4時間ほど掃除をした。アパートに入ったときの匂いはもう残っていないだろう。スクレイパーを使って丁寧にフローリングを磨いた。細かく飛んだ血も綺麗に拭き取った。もう一瞬見ただけではこの部屋で惨劇があったなんて誰も信じないだろう。
 
少し妙な気がした。なにが妙なのかわからない。掃除は思ったより早く終わった。ソファに座ってぼうっとしていると女から電話をもらった。私も行くからドアを開けておいてと言われた。何か欲しいものがあるかと聞かれて「タバコ」とだけ答えた。
 
冷蔵庫を開けたら缶ビールが冷やしてあったので、それを飲んだ。よく冷えていた。女とは出会ってから半年くらいになる。20代前半の綺麗な女だ。昔からよく行くキャバクラで働いていた。うちの近くのバーで偶然会ったから声をかけた。それからあっという間に深い中になった。
 
悪い彼氏がいるっていうのも最初に寝た夜に知った。キャバクラで働いてるのもそいつのせいだという。別に俺はときどき会って楽しむくらいの軽い関係だと思ってた。昨日、電話が鳴るまでは。
 
今度はインターホンが鳴った。そうだ、あいつが戻ってくるんだった。ドアノブをガチャガチャ回す音がする。鍵はかけたままだった。急いでドアを開けに行く。
 
ガチャ。鍵を開けた瞬間にドアが勢いよく開いた。そのまま俺は後ろに倒れた。すぐにドアの向こうにいたのは女じゃなかったことに気づいた。青いビニールに包まれていたはずの男だった。馬乗りになってきた男は俺を思いきりぶん殴った。意識が遠くなってきて、もう死ぬなと思った。ぼんやりとした頭にはスタンゲッツの「アラバマに星落ちて」が流れていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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