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あじさい

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:黒崎聡美(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
あじさいが咲いている。
赤、青、紫……色とりどりの美しいあじさいを見ながら、思い出すことはただ一つ。
 
もう恋なんて。
 
雨か涙かわからないまま、ずぶ濡れであじさい小路を歩きながら、当時高校生だった私はそう決意していた。
 
T君は、校内一のイケメンだった。
イケメンの定義は人それぞれだが、人気アイドルグループのメンバーにもよく似た、少なくとも私の周りでは断トツのイケメンと評されている人だった。
「T君とすれ違っちゃった」
「T君は彼女いるのかなあ?」
そんな会話が気になるようになったのは、高校3年生になった頃だった。
 
T君との出会いは、高校2年生の京都への修学旅行の時。
修学旅行は、絶好の告白のタイミング! と、男女を問わず誰もがそわそわしていた。
私の周りでも、幼なじみのN君が神妙な面持ちで、
「お前の親友A子に気持ち伝えようかと思ってんだけど、どう思う?」
「自分で決めなさいよ!」
と私はずいぶん冷たく突き放した。
相談と言いながら、要は私にお膳立てをしてもらいたいことがよくわかる。
というより、わかりすぎてつらいのだ。
 
物心ついた頃から、人の感情を光のベクトルのように感じるアンテナを持っていた。相手の考えやこれからの行動が透けるように読み取れてしまい、ひどいときには受け取りすぎて、熱を出して寝込むことも日常茶飯事だった。今の時代では、HSPの一言で片づけられてしまう、いわゆる「生きづらい人」と、友人たちの間ではカテゴリーされていた。非常に面倒くさい人間だ。
 
N君をはじめ、周りがそわそわしている中、好きな人もいなかった私は、団体行動で訪れたあるお寺で、なんだかなあと下をうつむいたまま、ぼんやり歩いていた。
 
「ねえ、ちょっと止まって」
参観者がたくさんいるから、誰かに声をかけているのだろう、といつもの面倒くさいアンテナは発動させていなかった。
 
「ねえ、ちょっと!」
 
まただ。
立ち止まり、顔を上げてキョロキョロした。
周りに人はいない。カメラを構えた2人組の男子以外は。
 
パシャリ、パシャリとシャッターが切られた。
ストロボ撮影でもないのに、非常に強い光が私を包み込んだ。
あなたは誰?
私にいったい何が起こっているの?
突然のことに目をぱちくりさせながら、ただ突っ立っていた。
 
「ごめーん、お待たせー!」
とA子が小走りにやってくるまでの間、私は異次元にいた。
 
この日、別のお寺でも、同じクラスの男子からカメラを向けられた。
私はひどく混乱していた。
同じクラスの男子からカメラを向けられたことにも驚いたけど、さっきの知らない人は、いったいどこの誰だったんだろう?
今まで感じたことのないまばゆい光が、気になって、気になって仕方なかった。
 
早速、A子に相談した。
モテ期到来! と笑いながらも、冷静な彼女は知らない2人組の捜索協力を快諾、すぐに割り出すことができた。
2人組は隣のクラスの男子、そのうちの一人がT君だった。
 
T君は、サッカー部の中心選手でいて、クラスの人気者、いつも笑顔で仲間に囲まれていた。
彼女がいてもおかしくないのに、
「気持ちわかっているよね?」
時折飛んでくる光のベクトルにどう答えたらよいのか、私はわからなかった。
 
こちらから声をかける勇気もなく、時間だけが過ぎていった。
いつの間にか、私に向かっていた光のベクトルの向きは変わっていた。
私がT君を視線で追っていたのだ。
 
高校3年生になって、T君とはまた隣のクラスになった。
お互いの存在を知りながらも、挨拶すらロクにできない。
日々、気持ちが募るばかりだった。
 
「好きです。つきあってください」
 
6月の雨降る日、通学路のあじさい小路に呼び出して、思い切って告白した。
もう馬鹿だ。大事なインターハイ予選の直前だというのに。
そして、彼から光のベクトルは感じられないのに。
 
当然、失恋した。
結局、彼の何が好きだったのか、よくわからないまま、猛烈な片思いだった。
 
相手の気持ちを感じ取るのは怖い。だから、もう恋なんてしたくない。
そんな恐怖感におびえながら、社会人になり、それなりにおつきあいする人もいた。
あじさい小路の失恋を超えるような恋をしたくて、あじさいが美しい場所へデートすることもあったが、思い出がアップデートされることは決してなかった。
 
「ああ、あじさいの季節になったんだな」
 
図書館からの帰り道、かわいらしい淡い色のあじさいを見かけた。
手元には、好きな作家の恋愛小説を手にしている。そして、どこからか愛おしい小さな光を感じている。
今度こそ怖がらずに恋をしたい。
某書店の恋愛読書会に、勇気をもって申し込もう。そう思った。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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