幻想
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記事:真由実(ライティング・ゼミ6月コース)
「最近、なんか急に体が暑くなるんだよねぇ」
仕事中に不意に襲ってきた体のほてりに、反応して何気なくでた言葉だった。
「それって、ホットフラッシュじゃない?」 同僚の返答を聞いた途端に「あーそれか!」 頭の中の霧が一気に晴れた。
ホットフラッシュ、いわゆる“ほてり”という症状は更年期の一種だ。
恥をかいた時のように一瞬で顔から体まで熱くなり、ドバッと脇汗が出るなんともあの嫌な感じに似ている。
一般的な更年期とは閉経を挟んだ前後10年間、だいたい45歳~55歳と言われている。最近では男性にもあるらしかった。
思い返せば50歳を超えたくらいから症状があった気がする。なんで今まで分からなかったんだろう……。自分の鈍感さに少々呆れるが、逆をいえば、指摘されなければこのまま更年期と気づかず過ごせていたかもしれない、なんてことを考えていた。
更年期障害とはエストロゲン減少によって自律神経が様々な症状を引き起こす。エストロゲンとは女性らしさを作るホルモンで、どうやら私はその分泌量が急激に減少するお年頃にきているらしかった。
症状としては、四つの症状を体験中のようで、一つ目は先ほどのホットフラッシュ。
二つ目は、急激な体重増加。一気に5,6キロは増え、振り返ればこれが初期症状だったように思う。これはいまも安定に継続中である。
三つ目は肌の乾燥。特にひどいのが口の周りで、破壊と再生を繰り返していた。乾燥してパキパキになって皮がむけて、赤みが残る皮膚がそれを繰り返す。思い切り笑うこともできないし、ファンデを塗ってもしわしわになってみっともないそんな状態だった。皮膚科に行ってステロイドで対処しても、やめればまたなってしまう。そんなとき漢方の先生のアドバイスの漢方薬で症状が緩和されたので、個人差があるので専門医への相談必須だが、それも一つの選択肢といえるだろう。
四つ目、私にとってこれが一番ショックな症状だった。
それは乙女心の衰退……。
私は学生の頃からミーハーで、いつの時代もアイドルに推しメンがいたし、日常でも必ず好きな子がいた。ときめきがあること、それは自分を豊かにしてくれる素晴らしいことだと思っていた。
数年前までは東方神起の大ファンで、彼らのライブに数え切れないほど通っていたが、そういえば最近は彼らの動向に見向きもしなくなった。興味を持てなくなっていたのだ。この世界的なパンデミックでなかなか来日も叶わない、そんなことも重なっているからだと思っていた……。
その日以来、気になるアーティストやイケメンを見ては頑張ってみたが、自分の乙女心が帰ってくることはなかった。
10年くらい前に「こんな気持ちをいつまで持ち続けることができるだろうか。持てなくなったらつまらないな」なんてことを考えていたときがあったと思い出して、少し寂しい気持ちになってしまった。
それからというもの、同年代の友人と会うときは、そんな話をする機会が増えた。症状は大体同じような感じだったが、強弱は様々で、人によっては起きていられないほど辛いということもあるようだった。ただ私の周りではそれほど悲観的な症状は聞いたことはなく「三日で終わったわ」とか、「経験してない。気づかなかった」そんなお姉様方もいて、やはり単純に体調だけの問題ではなく、それぞれの環境や精神面など様々な状態で、症状に影響が出るのかなと感じた。
「病は気から」誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
この古くから伝えられている諺が私は大好きでよく使っていた。
病気に限らず、気の持ちようなんてことは多々あることだと思うが、まさにその通りだと思う。先人たちの知恵はスゴイと尊敬する。
この数年で自分の中の何かが変わった人は少なくないんじゃないかと思う。私もその中のひとりだ。
今まで当たり前だと思っていたことが、ことごとく崩れていった。
こんな症状、あんな症状だから更年期障害だ……。なんて思うのをやめた。
病気だと思えば病気だし、違うと思えば違うから。それに「障害」ってなんだし?? 急に怒りに似た感情がわき上がっていた。症状がある、そんなときは自分を労って休ませてあげればいいじゃないか。
私は医療を否定しているわけではない。もちろん必要なときはお世話になるだろう。そこは個々の責任の元の判断だと思っている。
更年期障害という言葉を知らなかったら、更年期障害だと思うこともない。
私が体験したことはすべて「幻想」だったのだ。
***
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