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木に逆さまにとまる鳥と着地が下手な鳥


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤絵理子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「木に逆さまにとまる鳥がいるんだよ」
 
逆さまにとまる?
枝にぶら下がるってこと? そんなことある?
「見たい! 見たいです!」
学生時代、入ったばかりの自然系サークルの先輩に連れられ、その鳥を探しに出かけた。
 
雑木林の中をガサガサ入っていく。枝にぶら下がってブラブラしている小鳥をイメージしながら先輩の後を追う。
「いた! ほらあそこ」
先輩の指し示す方向に双眼鏡を向ける。鳥を探す。いない、いない。
「先輩、いません。どこだかわかりません」
「いや、いるよ」
そう言って先輩は、望遠鏡をセットしてくれた。ドキドキしてきた。
望遠鏡を覗く。
いない…
そもそも枝が視野に入ってないじゃない。おかしいなあ。
すると木の幹をちょちょっと動く物体が目に入った。
 
なんかいる。
あれ? え?
あ! 逆さまだっ!
 
キツツキが幹にとまるところを想像してほしい。その上下逆バージョン。
逆さまってこういうことか!
 
しかもただ幹に逆さにとまっているだけじゃない。なんと頭を下にしてちょんちょんと幹を回りながら降りているではないか! 虫なのか? すごすぎる。
 
自分の勘違いと、日本語の難しさと、想像の斜め上の現実を同時に理解した瞬間。
なんとも複雑な興奮状態から私の鳥見は始まった。
 
その鳥の名はゴジュウカラ。
スズメよりちょっと小さくてブルーグレーの背中、白いお腹。可愛らしい。
そうだよね、枝にぶら下がる鳥なんていないよね、と自分の中で突っ込みをいれながら、縦横無尽に幹を歩き回るゴジュウカラの姿をしばし堪能した。
 
ところが、枝にぶら下がる鳥は実在することが、その後判明した。
 
その鳥は、カラス。
しかも習性というわけではなく、どうやら遊びらしい。
電線ぶら下がりごっこ。と呼ばれている。
さすがカラスである。やってくれる。
早朝に誰もいない公園の滑り台を滑って遊ぶカラスの話もかなり驚いたが、この電線ぶら下がりごっこは更にワンランク上の遊びのように思える。
電線にコウモリのようにぶら下がる。それだけでもかなり異様な光景だが、片足を離して1本足でぶら下がる。そして残りの片足も離してスーっとそのまま落下し、地面すれすれで身を翻して羽ばたき、飛び去るのだそうだ。
想像しただけで背中がゾクゾクするような危険を顧みない高度な遊びではないか。
 
電線ぶら下がりごっこは、見ようと思って見られるものではないが、そんな秘めたる能力を持つカラスたちを観察の目で見てみると、実に美しいことに驚かされる。色も造形も。
そしてとても逞しい。近所の鉄塔の上に毎年巣をつくっているのだが、我が家の庭は巣材運びのルート上にあるらしい。春先になると庭に見覚えのない針金ハンガーや、50cmくらいの枝がたくさん落ちている。今年も頑張っているんだなと思う。嫌がられることの多いカラスだが、環境に順応しながら、懸命に生命を繋いでいることには感動してしまう。
 
鳥を見るようになって「鳥って本当にすごい生きものだ!」と尊敬の念を抱くようになっていたころ、小笠原の島で海鳥の調査をしている先輩からこんな話を聞いた。
 
いや、ホントに着地が下手くそで命がけなんだよ。夕方、海から島に帰ってくるんだけど、スッと着陸できないんだよね。木の枝にぶつかって降りる感じなんだよ。まあ、クッションにしているといえばそうなんだけど、その音がズザザザーッってものすごい大騒ぎなわけ。思ったところに降りられないから巣から遠いところに降りちゃったりするしね。
 
え?
また頭の中で勝手に絵面を想像して困惑する。
木にぶつかってヨロヨロしながら歩いて巣穴に向かう海鳥。
どういうことですか?
生息する場所に適応して進化しているなら、毎回命がけの着地をするとか、おかしくないですか?
 
その島で繁殖しているオオミズナギドリというその鳥は、繁殖期以外は地上に降りることはないらしい。繁殖期になると昼間は海で魚を獲り、夜になると森にある巣穴に戻って来る。
なるほど、飛ぶことに特化して進化したのだろうか。
そんなわけで飛立つときも地表からスッと飛立つことはできず、斜面を助走に使ったり、高台や木の上から落ちるようにして飛立つのだそうだ。先輩いわく、飛立ち台に使っている海に張り出した太い枝があるらしく、明け方暗いうちから順番待ちの列ができるのだそうだ。1羽ずつ飛立って、少しずつ列が前進する。たまに列に割り込むやつがいて小競り合いが起きることもあるのだとか。想像すると可笑しくてしかたない。いるいる、そういう人。なんとも人間くさい。
 
野生の生きものって、自力で生き抜いているという時点で大大尊敬の対象なのだが、意外と突っ込みどころ満載だったりすることに気づいて心底驚いた。崇高な遠い存在だと思っていたが、ダメダメな自分に似たところもあるのだと知って親近感がわいてしまった。そういえば跳ねることが仕事のはずの蚤だって、頭から落ちたり背中から落ちたり、しょっちゅう着地に失敗するらしい。親近感が半端ない。以来、私の脳内ではかなり野生の生きものの擬人化が進んでいる。
 
鳥見を始める前はスズメとカラスくらいしかわからなかった。他の鳥にいたっては、飛んでいるから鳥だとはわかるけれど黒い塊にしか見えない。さらに、あ、鳥がいる、で終了だった。
 
ところが見るつもりになって見始めると驚きとワクワクの連続だった。姿形や色柄のバリエーションはもちろんだが、繁殖期になると本人の意思とは関係なく勝手に飾り羽が生えて派手になっちゃったりしているのなんてもう笑ってしまう。ただ彼らはひたむきに生きているだけなんだけれど。
そしてハタと当たり前のことに気付く。
彼らは私が見たその瞬間にだけ存在しているわけではない。
その前があってその先がある。生まれて、子を産み育て、死んでいくのだ。
それは鳥だけではない。
そう。今この時も、たくさんの生きものの生命の時間軸が重なりあっている。
 
今の世の中、本当に色々大変で、私自身生きていくのに必死だ。
でも小鳥の声が聴こえてきて、その鳥が生きていると感じた瞬間、彼らも今を必死に生きているんだなって、思い出す。
みんなにも時々そんなことを思い出してもらえたらいいなと思う。
 
だってそうしたら、なんというか、種を越えて、お互い頑張って生きていこうや、ってみんなが思える世の中になるんじゃないだろうか。
そうなることをちょっぴり期待しているのだ。
 
 
 
 
***

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2022-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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