メディアグランプリ

凡人に残された最後の奥義


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記事:よしかたよしこ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私は凡人である。
特技は、特にない。
だが、趣味はたくさんある。その中でもダンスは20年以上続けている。
最初は、大学のストリートダンスサークルから。その後スクールでジャズダンスを習い始め、ヒップホップなども混ぜながら流行りの曲でずっと踊ってきた。
そう言うと、なんだかとても上手いように思われたりする。が、SNSに動画を載せるほどのスキルは全く持っていない。私のダンス歴よりも若い子の方が上手い。
 
でも続けているのは楽しいからだ。カッコいい曲で気持ちよく体を動かせた時の高揚感といったら。ただ走るとか筋トレするとかに比べたらどう考えたって楽しい。
エクササイズメニューとしてもとても効率がいい。レッスンはストレッチから始まり、筋トレがあり、振り付けを覚えるには相当な集中力がいる。曲がかかると夢中になり体を止められない。翌日にはおかしなところが筋肉痛になっているものである。不自然な方向に体を動かしたり、音に合わせて止めや抜きをすることで知らず知らず筋力を使っているのだ。振り付けによっても体の使うところが違うから、楽しんでいたら全身鍛えることができる。
 
だがついに今、この趣味が終わりを迎えようとしている。
理由は2年ほど前に京都に移住したこと。その際10年以上通っていた渋谷のスクールをやめた。ちょうどコロナ禍が重なったためオンラインダンスレッスンのサービスが始まり、2年間はそれをひとりで受けてきたが、コロナ禍の落ち着きと共にそのサービスも終了した。ついに私は踊る場を失った。
 
京都で新しいスクールの門を叩くのもいいだろう。だが私は今年40になるのである。通い慣れた渋谷のスクールであれば仲間もいるし続けられた。だが知らない京都のスクールでこんなオバサンが若い子たちと一緒にダンスを踊れるか? そんな勇気はない。ましてやこの2年間ひとりきりで踊ってきたのだ。レッスンについて行く自信すらない。
 
でも本当は踊りたい。私は帰省したタイミングで、同じアラフォーの友達を誘って渋谷のスクールのビジターレッスンに行ってみた。古巣とは言え約2年ぶり。馴染みの先生はもうおらず受けたのは初めてのクラス。友達も出産明けでブランクもあり、2人で緊張しながらスタジオの後方端に位置取った。
スタジオを見回す。前列はいつもその先生のレッスンを受けているレギュラーメンバーが陣取るのがお決まり。ダンスの先生はだいたいレッスン時もおしゃれで、生徒も似た系統のファッションでまとめる子が多い。もちろん先生含めて若い。
 
だが、そんな中にもいるのである。異色を放つ生徒が。私たちの目がキラリと光る。「……あそこにオバサンいるね」
ダンスは基本的に人に見られることを前提にしている。だからそれなりに外見を意識する子ばかりだが、そのオバサンは近所のカルチャースクールに来ているような装いで友達もいない様子。大変に失礼だが、私たちはそういう人を見ると、非常に安心してレッスンを受けられるのである。よかった、同じ凡人がいる、と勇気が出るのである。
以前受けていたレッスンにもそういう生徒がいた。その男の先生は有名なアーティストのバックダンサーをしていたのだが、そのアーティストのファンがレッスンまで追いかけてきていたのである。どう見てもダンサーではなく「オタク」寄りだ。だが、「好き」という気持ちが彼女たちを突き動かす。この日いたオバサンも、以前いたオタクも、ダンスの動きは頼りない。だが、必死に振り付けにくらいついている。周りがどんなにイケてる若いダンサーたちだとしても、自分の踊りがカッコ悪かったとしても、関係ないのだ。だって「好き」だから。「好き」こそが一番の原動力。勇気の源。盲目の翼。
 
いつの間にか私たちも周りが気にならなくなり、振り付けを覚えるのに集中し、夢中で踊っていたらあっという間にレッスンは終わっていた。緊張から始まり爽快感で終わったレッスンに、高揚感の余韻が止めどなく溢れる。全身はぐったりと疲労していたが、その後友達と一緒に飲んだビールはとてもとても美味しかった。
 
それで私は思ったのだ。
周りが若くて上手い子ばかりだから勇気が出ない。自信がない。
そうじゃない。
あのオバサンやオタクのように、私も人に勇気を与える側になればいいんだと。
 
私は凡人だ。ダンスもそんなに上手くない。
だけど、凡人に残された最後の奥義。それは「続けること」
これは誰にでもできる簡単なことだ。でも、なぜかそれが難しいんだ。だけど凡人にはこれ以外自分を向上させる術は残っていない。
私はそれを20年以上も発動してこれた。その積み重ねが今の私だ。続けてきたからこそ、今の私がここにある。健康な体と、凡人としては十分な筋肉と体力、バランスを兼ね備えた、ちょっとだけダンスを踊れる私が。
そして、その奥義を発動し続けた原動力。「ダンスが好き」
立派な特技ではないか。
 
よし、こんなところで終わりにしてしまったらもったいない。
私は家の近所のダンススクールの体験レッスンの予約を入れた。
ここからは私が魅せてやろうじゃないか。私は、人に勇気を与えるオバサンになる。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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