自分で描く、世界で一つだけの「生殖物語」
＊この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか？賞を取れるのか？プロも通うのか？〜
記事：上田聡代（ライティング・ゼミ4月コース）
「生殖物語」この言葉に出会ったのは、今から15年程前。健康だけが取り柄だった私が、小脳梗塞、甲状腺がん、難病と次々と診断されたのだ。自分が描いていた将来が崩れ落ち、日々目の前のことで精一杯になってしまっていた頃だった。
襲ってきた出来事を抱えきれず、身動きがとれなくなった私は、以前お世話になったことがある臨床心理士を訪れた。しばらく通っていたのだが、ある日尋ねられた。「もし、よろしければ、描いていた生殖物語を教えてくれますか？」
「生殖物語？ 若草物語なら知ってますけど」と、笑いながら話ができるくらいに回復していた私に「生殖物語とは」を説明してくれた。
「生殖物語」とは、その人が抱く将来の家族像で、結婚すること（しないこと）、子供をもつこと（もたないこと）、孫を抱くこと、などがすべて含まれる。例えば、結婚したら子供を二人くらい産んで、年をとったら孫にかこまれて楽しく暮らす、というようなもの。小さなこどもから８０歳の方まで、誰でも持っているそうだ。それは、生きている中で、そのつど変化があり、追加があるものだと教えてもらった。
私は、ポツリポツリ言葉にし始めた。「小さい時は、お嫁さんになりたかったかな。あとはあんまり覚えてないけど……」
臨床心理士は、自然に訪ねてくれる。「学生時代は？」
「中学生時代は、おかあさんになりたかった。男の子と女の子が欲しい！ て思っていて……。男の子は、サッカー選手になってもらって……。 女の子は、一緒に買い物を楽しんでお菓子作りをしたいとか思っていたかな」と、具体的になる。「看護学生の時までは、とにかく早く結婚して子どもがほしい！ と思っていました」
「でも、働きはじめると仕事が楽しくて楽しくて……。結婚は、まだ先でいいかな、とズルズルきてしまって……。結婚したくないワケでもなかったし、結婚しないと決めていたワケでもない。いつかは……に変わっていってたかな」
「今は？」と尋ねられてもいないのに、考え始めた。「もう、結婚は考えたくないっていうか、自分のことで精一杯かな……。出産もリスクが高いし、無理かな」
そう！ この時、私は「生殖物語」を書き換える作業をしていたのだ！ 病気の発症で、これまで描いていた生殖物語を強制的に書き換えたのだ！ この作業はつらい、苦しい。泣きたくなる作業。しかし、身体の不自由を受け入れることは10年以上かかったのだが、この作業を行った私は、「生殖物語」は、描いたものを受け入れていた。
妊婦さんや赤ちゃんに出会うと苦しいと思っていたのだが、不思議と、妊婦さんと出会っても笑えるようになったし、赤ちゃんを可愛いと思えるように変化した。
現在、私は不妊症看護認定看護師として、子どもを望むカップルのサポートを行う仕事をしている。子どもを望んでも、どうしても難しい場合があり、苦しむことがある。その理由の１つに、自分が描いた（パートナーが描いている）、「生殖物語」がそのまま刻まれているからだ。正確に言えば、生殖物語の「書き換え」を行わずに、突き進むからだ。
子どもがいる、いない、とでは生殖物語は大きく変わってくる。書き換えをする作業はとても悲しいものだが、先に進むためには必要となる。不妊をしっかり悲しみ受け入れることから始まり、そのうえで、新しい生殖物語を書き始めていく。
その時、大事なことは自分の生殖物語を確認するとともに、パートナーの生殖物語を知ることだ。案外、自分の生殖物語について曖昧だったりする。その上、パートナーはどんな思いを持っているのかなんて、知らないことが多い。パートナーとお互いに話し、ふたりの生殖物語に書き換えてみることをお勧めする。
生活環境や体験で自然に変化していくことは、自然に自分で考えた生殖物語なので、知らない間に変わっていた、という場合が多く、悲しむことも苦しむことも少ない。それが、自然な書き換えではなく、強制的に書き換える作業は、簡単な作業に思えるが、大変なエネルギーが必要になってくる。
ところが、一度書き換えることができれば、それまで自分が見えなかった世界、知らなかった世界を知り、考え方も変わってくる場合が多い。小さな頃から積み重なってできている生殖物語だ。決して、簡単に書き換えることは容易ではない。そんな時は、臨床心理士の力を借りることも一つの策ではないでしょうか。
今の私の生殖物語は『おひとり様の幸せを見つけ、自分が子育てしなくても、子育てしている人を応援する！ 知っている子どもたちが成長して囲まれている！』などです。これもまた、書き換えるときがくるかもしれない。
今回は、「生殖物語」について記してみた。ひとりひとり異なる生殖物語。それは誰にも責
められることなく自由に語ってもいい、世界で一つだけの生殖物語。
かけがえのない生殖物語だが、もしかしたら「書き換え」をした方が楽になるかもしれない。
＊＊＊
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか？賞を取れるのか？プロも通うのか？〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ：お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
＊天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね！」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL：03-6914-3618／FAX：03-6914-0168
営業時間：
平日 12:00〜22:00／土日祝 10:00〜22:00
＊定休日：木曜日（イベント時臨時営業）
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠２階
TEL：092-518-7435／FAX：092-518-4149
営業時間：
平日 12:00〜22:00／土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL：075-708-3930／FAX：075-708-3931
営業時間：10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間：10:30〜21:30
TEL：03-6914-0167／FAX：03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間：10:00～20:00
TEL：029-897-3325
