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ジブンの命


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:陣(jin)(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
幼稚園の頃だったかな。
「この世から消えてしまいたい」
そう思っていた。
 
その家の初めての子として生まれたジブンは、初孫だったこともあってかなり可愛がってもらっていた。と思う。
 
残念ながらその頃の記憶はないので写真やホームビデオなどでしか知ることはできないが、亡くなった祖父が撮った写真の中の皆は、ジブンに向かって微笑んでいた。
 
でも少し前母親が言っていた。
「あなたはよく、「ジブンは、何でも知っているのよ」って顔をしていた」と。
そんな顔をする我が子。育てにくかっただろうな。と思った。
 
そのうち下の子も生まれるのだけれど、それからしばらくした頃だろうか。母親が泣き出したのだ。
 
眼の前で子供のように膝を抱えて声を上げて泣き出す母親。
 
ジブンはそんな母親を横から立って見ていた。
 
「大丈夫?」
いやお前が言うな。言える立場か?
ジブンたちが母親を困らせているのだ。
ジブンが、だったかもしれない。
 
泣いた原因はお前だろ?
泣いた原因であるヤツが、慰めの言葉を発するのはおかしい。
 
「ごめんなさい」
 
でもジブンにだって言い分がある。何をしたのかは忘れてしまったが、謝れない理由があった。悪気があってした行為じゃなくても、親からめちゃくちゃ怒鳴られる。
親と子の間では、こういった食い違いは多々ある。
 
泣きじゃくる母親に、どんな言葉をかけたらいいかわからなかった。逃げることもできず、ただ立ち尽くしていた。
 
それからだ。
 
ジブンが骸骨になった絵を描くようになったのは。
「母親を泣かせるような、こんな悪い子は、この世からいなくなっちゃえばいいんだ」
 
ある時母親にその絵を見られてしまった。
「あら、上手に描いたのね」
 
バレなくてよかったが、心が締め付けられた。
 
ある日、3段ベッドで下の子同士が喧嘩をしていた。
3段ベッドの一番上から真ん中の子が一番下の子を落とそうとしていたのだ。
なぜ二人が喧嘩をしているのか理由は分からなかったが、それをやめさせるために真ん中の子を下ろそうとした。
 
するとその騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきた母親は、ジブンを叱った。
 
その現場だけ見ればそうなる。
 
言い訳も聞いてもらえないまま、3段ベッドの上に上がらされ、落とされた。
 
「これで気持ち分かったでしょ」
 
わかった。でもそれ以上に痛いものが胸に刺さった。
 
そしてある時、また悪いことをした。その後の母親の言葉の衝撃の大きさで、何をしたのかは忘れてしまったが、2階の窓から屋根へ降り、立って庭を見つめていた。
 
「あんたなんか、2階から落ちてしまえばいい」
 
ジブンは悪い子だから、母親の言う通り落ちてしまえばいい。
そう思った。
 
屋根の縁に立って庭を見下ろすと、案外飛べそうな距離だった。
 
落ちてみようか。
 
しゃがんでみた。
立って落ちるより、しゃがんだほうが痛くなさそうだ。
 
飛んだ後のことを考えた。
下は芝生だから多分痛くはない。怪我しても擦り傷程度だろう。
 
更にその後を考えた。
一階の出窓から落ちるジブンを見る母親。見てなくても音で気づくだろう。
ジブンに駆け寄る母親。
 
「なにやっているの!」
 
飛ぶのをやめた。
 
これ以上母親を傷つけたくなかった。し怒られたくない。
怒るのも辛いだろうから。
 
こんなに怒らせるジブンは、本当にいなくなったほうがいいのかもしれない。
 
またある日、母親はこんな事を言った。
「もっとわがままを言っていいんだよ?」
 
わがままって何? わがままってことは親を困らせることじゃないのか? そんな事できるわけがない。
 
そんな幼少期を過ごしていたジブンは、人からの愛情を上手に受け取るのが下手くそなようだったし、皆みたいに上手く人と付き合えなかった。
 
こういう場合はこういう行動を取るのが普通だろ。
 
周りはそう思うようなことも上手にできなかった。
 
人とうまく関われないのは社会人になっても続いていた。
 
こうなってしまったのは母親のせいか? 多分、もともと持った性格が、母親と合わなかったのだと思う。
 
人と関わるのが苦手だ。
 
いつしかそう思うようになった。
 
一人でいることが楽だった。
 
そう思う中で、寂しがり屋でもあった。
 
人と深く関わっていくと、離れたときが辛いという事に気づいた。友人の転校には毎回ボロボロ泣いた。
 
深く人と関わってしまうと、その人が死んでしまうと考えただけでも胸が締め付けられる。
もし明日死んでしまったら……。
 
その恐怖からか、お参りの際は世界平和をいつも願っていた。
 
ジブンは消えてもいいと思いながらも、周りが死ぬことは耐えられない。
周りよりも自分が早く死ねば、そんな辛い思いしなくてもいいじゃないですか。
でも、ジブンのことをその周りとして捉えてくれている人が、もしかしたらいるかもしれない。
 
そんな頼りない糸にすがってずっと生きながらえてきた。
 
そんな時、ある人の歌を聞いた。
 
境遇は違えど、心にずしりと来た。涙が出た。
 
生きてていい。
 
そう思える歌詞だった。
 
そんなジブンは、今、子どもと関わる仕事をしている。
 
子どもにも子どもなりの言い分がある。それを聴いてあげたい。引き出してあげたい。
母親だって悩んでいる。お互いの溝を埋めてあげたい。
 
一番はあのときのジブンみたいにはなってほしくない。そんな思いで関わっている。
 
人と関わることが苦手だったジブンが人と関わりたいと思えるようになった。
 
児童虐待をなくしたいとある人に言ったら、そんなの絶対無理だと言われた。
 
未だにそんなことはないと思っている。
 
最近、その人が歌っている別の歌を聴いた。
また泣いた。その歌はアレンジカバーというものだったが、小さかった頃のジブンを思い出させてくれた。
 
重たいけど自分の原点。何度も聴いて、大事にしていこう。
 
子どもの頃の心を忘れきれずに残してしまった、自分にできること。
 
そのためにジブンの命を使ってみよう。そう思う。
 
 
 
 
***

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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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