メディアグランプリ

お見合いパーティーのサクラで咲いたサクラ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:阿部真巳(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「ナンバー3の男性の方と、ナンバー6の女性の方、カップル成立です!」
ここは地方にあるシティホテルのイベント会場。その一室で、拍手が起こる。
ナンバー3の男性である私はクールぶっていたが、内心は踊り出したい気分だった。
そこから30分、会場となった部屋を出てすぐの場所にあるベンチで、カップル成立した女性を待っている。次々と参加者が帰宅する中で、一向に出てくる気配がなく、思わずつぶやく。
「……なんか遅くね?」
 
友人からお見合いパーティーの誘いを受けたのが2週間前。
お互い彼女がいなく、よく飲み歩く中学時代からの遊び仲間だ。
私は会社に気になる人はいたものの、仕事を一緒にしている都合で、お誘いする勇気もなく、悶々とした日々を過ごしていた。
そんな中での誘い。断る理由はない。
一つ懸念があるとしたら、私たちの年齢は28歳、パーティー参加の年齢制限は30歳以上であるという点。ダメ元で申し込んでみると「大丈夫です。当日お待ちしております!」あっさり申し込みを行うことができた。
 
お見合いパーティー当日。
友人と普段遊びに行く時は、車を乗り合わせて行くのだが、“万が一”のことを考え、今日はお互いに自分の車を運転して会場に赴く。
ギリギリで受付を済ませ、「3」と書かれた席次の紙を渡され会場となる部屋へ入ると、すでに多くの参加者が集まっていた。
「それでは、みなさま受付でお渡しした番号が書いてある席に座ってください」
主催者の男性が声をあげ、皆が指定された席につく。会場を見渡すと男性10人と女性10人の20人が参加者となる。
主催者の説明によると、男女それぞれ向かい合わせに1列ずつ並んだ参加者が、1組5分会話を行い、終わり次第、横にずれていき、全員と会話をするまで続けていく。
いよいよ、ご対面からのお見合いパーティーが始まる。
一人目の女性は30代半ばだと思われるショートカットで仕事ができそうな人。
「はじめまして。このようなパーティーに来るのが初めてで~」
「私も初めてで、少し緊張しています」
何とも中身のない会話が続き、お互いの共通点なども見つけられないまま5分が終了する。
二人目の女性は30代後半から40代前半に見える、長い髪を後ろで束ねた人。
年齢のギャップか、こちらも話がかみ合わない。
三人目の女性は……!
明らか私よりも若い。20代中盤から前半に見える。このパーティーの参加資格は30歳以上だったはずだが? 自分のことを棚に上げつつ疑問が沸くが、まあ深く考えるのはやめよう。
「はじめまして、趣味はなんですか?」
聞いたところ、趣味は映画観賞とドライブ。映画の話題でお互いにジブリ作品が好きであるという事がわかり、その話で盛り上がり、あっという間に5分が経過してしまう。
この5分のインパクトが強かったせいか、その後のことは、ほとんど記憶に残っておらず、すべての組み合わせが一巡する。
 
その後のフリータイムでは、三人目に話した若い女性にアタックしようしたが、彼女の周りには人だかりができて、少し会話をしただけでフリータイムが終了する。
 
いよいよ告白タイム!
バブル期に流行ったお見合い番組のように、皆口裕子のナレーションが流れるわけでも、男性が女性に向かって「お願いします!」という演出もない。
全員が紙に気に入った異性を1人書いて主催者に渡し、それを集計し発表する。
当然、私は三人目の女性を記入する。
 
フリータイムで、あまり話せなかったことがモヤモヤとして残り、全く自信がないまま結果を待つ。
「ナンバー3の男性の方と、ナンバー6の女性の方、カップル成立です!」
私はクールぶっていたが、内心は踊り出したい気分だった。もしかしたら、無意識でガッツポーズをしていたかもしれない。
「ちょっと待った!」という男性もおらず、告白タイムの結果発表が終了する。主催者から会場を出るように促され、会場を出てすぐの場所にあるベンチで、カップルが成立した女性を待つ。
しばらく待っていたが、一向に出てくる気配がない。待ちきれず会場を覗き込むと誰もいない。
机と椅子が整理された部屋に入ると、右奥に扉がある。パーティー中はパーティションが置かれていて気づかなかった。
「まさか……」
嫌な予感がして、その扉をあけると、別の通路があらわれ、その先にはエレベーターがみえる。
「やられた!」
今になって考えてみれば、20代前半の女性が参加している時点でおかしい。
主催者もカップルが成立した参加者の片割れを部屋から追い出すことも解せない。
正面の扉からではなく、隠し扉から退場するという映画のような仕掛け。
明らかなサクラだった。
主催者にクレームを入れようにも、すでに主催者は姿を消している。
「いい夢見させてもらったよ!」「あばよ!」と心の中で叫び、友人と別々の車で寂しく帰途につく。
 
翌日の職場。
一仕事終えた後の休憩時間、一緒に仕事をしている女性と話しをする。
「昨日お見合いパーティーに行ったらサクラにひっかかってね」
「そんなところ行っている暇があるなら、私とジブリ映画見に行けばよかったのに」
「え! 先週公開された千と千尋の神隠し、ですよね? もう見たのですか?」
「まだ見てないよ。一緒に行く?」
「じゃあ、今週末に!」
 
時は流れて2022年
「あー懐かしいな、ここでお見合いパーティーがあったのだよね」
市街地を走る車の中で私が話かけると、隣に座っている女性が言葉を返す。
「え? 何かあったの?」
20年も前の話なので、すっかり忘れてしまったらしい。
初デートのことは覚えていても、そのきっかけとなる会話までは覚えていない。
まあ、きっかけなんてどうでもいい。
妻となり、母となり、子育てもひと段落したので、2人で行く久しぶりの映画館デート。
大切なのは、今という時間を、こうして2人で幸せに過ごせることなのだと思う。
あの時ひっかかったサクラがきっかけで、本当のサクラが咲いたのだから。
 
 
 
 
***

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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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