メディアグランプリ

今年の夏こそファーストキス(鱚)~初心者アングラー奮戦記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
釣りを始めて数か月。なかなか釣れない。釣れたこともあるが、それは魚の回遊にたまたま出くわしただけのこと。なんとなくやっていて、エサや仕掛けの工夫はできていない。漁港で出会った師匠に教えてもらうつもりでいたが、ふと思った。きっと師匠はなにもかも用意してくれる。釣り方に応じた仕掛けをどうすればいいのか、そこが一番知りたいのに、それじゃあ上手くならない。こちとら糸の結び方すら知らんのだ。いかん、いかん。自分でできなくちゃ。師匠に頼るのは本当に困ったときだけにしよう。私は本とネットを見つつ、何度も糸を絡ませながら結び方の練習をする。あー、面倒くさい。でも、準備をしているこの時が一番ウキウキする。今度こそ釣ってやるぞ。
 
釣果情報を調べた漁港にやってきた。釣り人はまばら。釣れているのだろうか? 私は、「昔はヤンチャしてました」って感じのお兄さんに声をかけてみた。
 
「こんにちは。釣れてますか?」
「いやぁ、ダメっすねぇ」
「イカ狙いですか? スミ跡あるから釣れますよ」
「だといいんですけどねぇ」
 
私はなにげにベテランっぽい会話をふって、元ヤン兄さん(勝手に命名)は意外と人懐こい笑顔で応えてくれた。私の知識は師匠の教えだ。釣り場にある黒い染みはイカが吐いたスミの跡なのだと。このスミ跡があるということは、ここでイカが釣れている証拠なのだ。こんななんてことない会話ひとつでも楽しくなった。やっぱり今日は釣れそうな気がする。何人かのオジサンに挨拶したが誰も釣れてなかった。でも不安にはならない。彼らとは釣り方が違う。私は「ザ・初心者」。子供でもできるサビキ釣りで小魚を狙っているのだ。釣り方は仕掛けを足元に落とすだけ。シュッと竿を振る釣り方はやったことがない。それは次の目標。いまはまだサビキで小アジが釣れたら満足だ。ククッと引きを感じた。やったー! 釣れた! オジサンたちの視線が集まる。大物狙ってなにも釣れないより、小魚でも釣れた方が100倍楽しいわ。ふふ、私だけが釣れている。ほのかな優越感にひたっていると、急にググッと竿がしなった。小魚に交じって大きめの魚影が見える。「わーっ!」と思わず声が出た。近くにいたオジサンが叫んだ。
 
「早く上げて! 糸切られるよ!」
「はい!」
 
慌てて巻き上げた。なんと25センチくらいの、私にしては大物だった。なんて魚だろう?助言をくれたオジサンに尋ねてみた。
 
「これ、なんですかね?」
「うーん、ハマチの子供かな」
 
ひょえー! 釣れちゃった! 小魚を追いかけてきて、運悪く私の針に食いついたらしい。偶然の獲物だがこれも釣りあるあるだ。晩ごはんのおかずができたぞ。帰り際、透明のバケツに入れられた魚は皆の目を引いた。元ヤン兄さんも驚いている。そうか、そういうことか。私は気がついた。ベテランだとか初心者だとか関係ない。ルアー釣りとかサビキ釣りとかも関係ない。なんだっていい、釣れたもんが正義だ。この港の今日の主役は私だ!
 
いよいよステップアップする時がきた。サビキ釣りで結果を出せた私は、憧れの「ちょい投げ」にチャレンジすることにした。ターゲットは今が旬のキスだ。白くて細身のきれいな魚。天ぷらにすると美味しいやつ。なんとか釣りたいが早々に私は壁にぶつかった。エサが……。エサが、うにょうにょしたゴカイなのだ。触れなくも……ないが、いや、触れない。そんなことで釣りなんかできねぇぞと言われそうだが、ダメなものはダメだ。そんな私に朗報。ちゃんと人工のゴカイが存在していた。魚が食べても大丈夫な造りモノ。人間にとってのカニカマみたいなものか。これで安心。さっそく私は偽ゴカイを購入し、新たな港へと出陣した。
 
入門本の投げ方見本を思い描き、心の中で「イチ、ニ」と掛け声をかける。竿を構え、おもりを飛ばす。憧れの、「シュッ」。飛んだ。20メートルくらい? クンッ。いきなり引きがきた。慌てて巻くが手ごたえは消えた。いまのはなんだったんだ? とりあえず上げてみる。エサがなくなっていた。あちゃー、とられちゃった。それから何度もエサをとられた。手ごたえはあるから魚はいる。私のなにかがまずいのだ。でも、その「なにか」がわからない。やっぱり人工のエサじゃダメ? 針のサイズ? 巻くのが早い? それとも遅い? 思いつく限りの工夫をしてみた。それでも釣れない。やっぱり最初からうまくはいかないか。落胆はしない。釣れなくて当たり前ってことはもうわかっているし、次回への期待の方が大きい。海を見ているだけで心が和んでいく。気軽に出かけられる距離に海があってよかった。ここってきれいだなぁ。透きとおって底まで見える。あ、キスが泳いでる。やっぱりいるんだな。ぼんやりしながらもう帰ろうと思った瞬間、ブルブルッと引きがきた。我慢して様子を見る。引きは止まらない。よし、かかってる。ついに? ついにきちゃった? 私のファーストキス! ぐるぐるとリールを巻きながらドキドキが高まっていく。キスなら細身のきれいな姿を見せてくれるはず。ぐるぐる、ぐるぐる。まだ? まだ? 見えた! ん? 細身……じゃない。丸い。なにこの丸いの! ようやく対面した魚は小さなクサフグだった。フグかぁ。エサを横取りする厄介者として釣り人には嫌われている。すぐにリリース。もう今日はこれで帰ろう。初デートでいきなりキスなんて、ちょっと早かったな。ファーストキスは次回に持ち越し。そう気安くドキドキ体験はできないみたいだ。
 
キス釣りがなぜうまくいかなかったのか、帰宅してすぐに調べてみた。ひとつ、思い当たることを見つけた。エサのかけ方だ。エサに針を通すにもいろんなやり方があった。うーむ、奥深い。今度はもっと改善してみよう。自分で考えて工夫することが楽しくなってきた。もしや、これぞ釣りの醍醐味? 創意工夫こそが釣りの神髄? 「釣れればなんでもいい」から「自分の工夫で成功したい」に気持ちが変わってきた。この変化は自分でも驚きだ。さて、次はいつにしようか。今度は頑張って暗いうちから出かけてみよう。早起きは苦手なのにそんな計画を立てる自分がおもしろい。私が「趣味は釣りです」と明言できる日はもうすぐだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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