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どん底に陥った時、それでも私は書きたいと思った


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
正直、自分が体調を崩すなんてこれっぽっちも思いもしなかった。
 
今まで元気よく過ごしてきたから、きっと今回も大したことないとタカを括っていた。
 
なんでこんなことになっているんだろう?
 
救急隊の男性二人が息を合わせて私を運ぶ。ストレッチャーに乗せられ、移動してく。背中に振動が直接響いて居心地が悪かった。
 
誰にも会いませんように。
マンションの誰かとすれ違ったら、後でどうしたの? と聞かれるに違いないから人には会いたくなかった。いちいち事情を説明するのは事情だけに嫌だった。
 
幸いなことに、誰に会うこともなく救急車に乗り込むことがでてきてホッとする。
 
「大丈夫ですか?」
 
救急隊員が私の現状を確認する。
今、この状況で大丈夫なわけないのに、「大丈夫です」と言ってしまった。
 
「じゃあ、ご主人、奥さんにマスクをつけて下さい」
 
時代だなあ……。さすがにマスクをされて少し息苦しさを感じる。
救急車は音をまき散らしながら走り出した。

 

 

 

心拍がないと告げられたのは2月末のことだった。4人目の妊娠はあっけなく終わった。先生から今後の処置について2つの方法があると告げられた。
 
1つは自然に出てくるまで待つという方法、もう1つは産婦人科で人工的に出してしまうという方法で、私は前者を選んだ。なるべく医療的な処置をしたくないという考えだったからだ。
 
先生から、しかるべき時がきたら、普通の出産のように陣痛が来て自然に出てくるから、出てきたら一度病院に来てほしい、ということを言われた。
 
こういう時は、心が鈍く反応するものなんだろうか。あっけなく妊娠が終わってしまったことへのショックよりも、人間の身体の仕組みってすごいものだなという妙な感心の方が強かったことが印象的だった。
 
自分の心が切り離されて、どこか遠くからぼんやりと私を見ているような日々が続いた。
 
先生の説明通り、陣痛が来た。夜中のことだった。10か月後に喜びで迎えられるはずだった出産は、トイレの中で静かに終わった。3月半ばの静かな夜の出来事だった。
 
けれど、状況はその後一気に変わった。インターネットで事前にどんなことが起こるのかというのを調べて、前後に生理よりはひどい出血が1時間ほどは続く、と書いてある記載をいくつか見つけていたから、そのくらいのことが起こるだろうと予想していた。しかし、出血が止まらなかった。1時間超え、2時間超え、短い間隔でトイレに駆け込んでその度に籠城する。
 
止まらない出血に少しずつ焦りが増した。
 
救急車を呼ぶべき? いや、大げさ?
 
普段から医療機関にかかることがあまり好きではなかったから判断が遅れた。タイミングをはかりかねているうちに血の気が引いた。トイレで倒れる寸前、夫に
 
「救急車を呼んで」
 
と叫んだつもりだったのに、びっくりするくらい弱々しい声しか出なかった。
 
病院で処置をしてもらって、医者から説明を受けた。子宮内にあるものが全てできらないと、全てが出るまで出血で押し出そうと身体が働き、まれに大量出血になるらしい。出し切れなかったものを処置で出してもらい、ようやく出血が収まってきた。
 
大量出血した時に人間がどうなるのか、ということを、身をもって体験した。
 
貧血になると、冷えるというけれど、冷えるなんて言う騒ぎではない。全く体温が上がらなくて、自分がまるで氷の上に寝ているような錯覚さえする。普段、冷え性だなんて大騒ぎしていたけれど、そんなのはちょっとした寒がり程度なのだ。血をひどく失った時の体温のなさは恐ろしいほどだった。布団を何枚かぶっても身体に熱が戻らない。
 
次にひどくだるくて、精神的に弱ってくる。前に、貧血など鉄分が不足してくると、メンタルが落ちてくるというのも本当だなと分かった。
 
私もう、このまま復活できないかもしれない、なんでこんなことになっちゃったんだろう、家族は私のことを迎えに来てくれるんだろうか。これから私はどうしていけばいいんだろう……処置室の天井を眺めながら、涙が止まらなくなる。貧血状態になるとメンタルをやられるというのを知っていたからこそ、多少冷静になれたのが救いだったけれど、知らなかったらどこまでも落ち込んで卑屈になっていたかもしれない。
 
「状態、どうですか? やっぱりちょっと顔色悪いわね……あれだけ出血していたら仕方がないよね。もしも、すこし元気になってきたら、無理してでもお肉、食べて下さいね」
 
途中、看護師が様子を見に来てくれて、ちょっと困ったような表情で私にそんなアドバイスをくれた。
 
確かに、肉は血を作るって家庭科の授業で習ったけれど、こんなヘロヘロの状況で肉を食べろって言われても、無理な話だよなあ。
 
きっと看護師も、そんなこと言ってもしばらくは無理だろうなあなんて思っていたに違いない。それでも、私があまりにも悲惨な顔をしていたから、何かしらアドバイスして力づけてあげたいという彼女なりの想いがあったのだろう。
 
結局、数時間、病院で休んで、そのまま家に帰された。夫の車の助手席から、春爛漫の明るい光を浴びていた。その熱は私の身体にはちっとも届かなくて相変わらず私の身体は氷のように冷たかった。車窓から、お昼時にお店に行列している人達を眺めて、自分が人生のガーターをまっすぐに転がっていくような感覚に陥った。

 

 

 

それでも、私は、そこから1か月程であっという間に回復することができた。今まで、自分が貧血で長く苦しんできた経験から、貧血とそれを解消するための栄養の勉強をずっとしていたおかげだ。
 
女性は貧血が多い。生理で毎月鉄分が失われていくし、妊娠出産などを経験していたら、子供達に分け与えている鉄分が多いからだ。1人目の子は大丈夫だったけど、2人目、3人目と妊娠するうちに鉄剤を処方されるようになった、という話はよく聞く。
 
でも、家庭科などの教科書に書いてあるように、私達の身体で血や肉になるのはタンパク質なので、タンパク質も一緒に補っていかないといけない。
 
病院で看護師さんが「肉を食べなさいね」とアドバイスしてくれたのも、タンパク質を摂るための手段としては的確なのだ。
 
ただ、私のように体力的に弱っていると、肉を消化吸収できる力も衰えている可能性がある。
 
そこで、ボーンブロスという骨を煮出して作るスープを作ってせっせと飲んだ。アミノ酸を含んでて胃腸に優しく血や肉の元になってくれる。
 
家に戻ってきたときには、這うようにしてキッチンでスープを作って飲んでいたけれど、2~3週間で体調もよくなった。病院に運ばれたときのようにひどく冷たくなることも、ひどく落ち込むこともほとんどなくなってきて、知ることの大切さを実感したのだ。
 
とはいえ、家に戻ってしばらくの間は、ほとんどベッドの上で過ごしていた。スマホやパソコンの画面を見ることができず、暇つぶしも全くできなかった。
 
ただ、ベッドに伏せながら、今まで、自分は大して体調を崩さずに元気に生きて来れたから、色んなことができていたんだな、と思う。
 
子育てや日々の家事だけでなく、イベントの仕事やライティング、数々のお話会やワークショップなど、沢山の活動をしてきた。
 
でも、一度体調を崩して、自分が動けなくなって、ただ何もできない自分と向き合っていると、自分の腹の底からやりたいことが湧き上がってきた。
 
私にとって、今、本当に大切なのは、たったの3つだった。
 
1つめが家族、そして、2つめが私の体調のしんどさを救ってくれた栄養の勉強を広めること、そして、3つ目が書くことだった。
 
特に書くことへの想いがあふれ出して止まらなかった。昨日までは書くか書かないか選べたことが、書きたくても画面に向かえない、何も考えられなくてぼんやりとして書けなくなってしまったのがショックだった。
 
もっと書きたい、書きたい、書きたい、書きたい! と駄々っ子のように書きたい思いが募った。
 
どうにかできないかを考えて、パソコンやスマホの画面を見られないくらいしんどかった時には、スマホの音声入力を使って文章を口述筆記するということまでしていた。自分の身に起こったことや自分の気持ちを、文章にして残しておきたい。ただじゃ起きない、絶対にネタにしてやる。他のことが何もできないだけに、余計に自分の五感が研ぎ澄まされた状態で自分が思いつく限りをメモしまくっていた。
 
人生何が起こるかわからない。昨日まで当たり前にできたことが、今日できなくなってしまう、ということを知ってしまったから、言い訳せずに私は書き続けたい。
 
そんな絶不調の時に、信じられないようなお知らせがやってきた。
 
天狼院書店の三浦店主が自ら書いた文章の講評をしてくれるという『人生を変えるライティング・ゼミNEO』がリリースされるというということを!
 
体調が戻るかどうかはわからなかったけれど、こんなに書きたい思いを自覚してしまったんだから、受講するしかないじゃないか。
 
正直、体調を崩している時に勢いで申し込んで不安がなかったわけではないけれど、今だからこそ、もう一度真剣にライティングに向き合いたいと思った。
 
毎週の課題に取り組むのは苦しい時もある。けれど、私はまた、ここから人生を変えるチャンスをつかみたい、そう思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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